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沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第二十六話 今上帝皇女・一の姫宮

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拍手御礼小説掲載
わたくしの母は、強い人だったと聞いております―――。










「長恨歌」第二十六話 今上帝皇女・一の姫宮










母はわたくしを産み落とすと同時に命を落としました。ですからわたくしは、母の顔を知りません。
本来、生母を亡くした子の境遇は皇族であったとしても寂しいものなのですが、わたくしは寂しい想いをすることなく恵まれた環境で育ちました。
今上帝である父はわたくしを手元に置き自ら養育してくださいましたし、祖父の前内大臣も叔父の弾正尹も今は亡き祖母君・大皇の宮様も常にわたくしを気遣ってくださっては度々会いに来てくださいました。わたくしが二つの時に亡くなってしまった生母の女房だった小萩は、幼すぎる頃に亡くなってしまったからわたくし自身は覚えていませんけれど母代わりとなってくれていたそうですし、その女房が亡くなって後は藤の大尼君が母のようにわたくしを見守ってくださいました。

わたくしの記憶にはない母のことも。父帝様が教えてくださいました。芯が強く真っ直ぐな、全てにおいて一生懸命な人であったと…。
貴族の姫君にしては型破りな人だったと、話してくださる父帝様を始めとした皆が楽しそうで、嬉しそうなお顔で語ってくださるのをわたくしはいつも嬉しく感じておりました。

「勘が鋭い人でね、物騒なことから遠ざけようとしても自ら飛び込んでいってしまうのだよ」

父帝様はおっしゃっておりました。

「守って差し上げたいのに大人しく守られていてくれない。」

言葉こそ嘆いているようでしたけれど、父帝様のお声には隠しきれない慈愛がありました。

「変な噂ばかり立つ姉で…僕も何度巻き込まれたことか。」

とおっしゃったのは叔父様。
けれど言葉とは裏腹に、叔父様のお顔は嬉し気でした。

だからわたくしはいつも、母の話を聞く時は嬉しかった。

覚えていない母の姿も、父帝様達からのお話を聞いているとそこにいるように感じ、今もすぐそこで生き生きと動いているかのようなお姿が思い浮かんで。
楽しそうに語る父帝様達が心の底から母を慕っていることが伝わってきて。
母が、どれほどに慕われているのか、素晴らしい方だったということが娘として誇らしく嬉しくて。

わたくしの誕生とほぼ同時に亡くなってしまわれたから覚えていなくて当然だからこそ寂しさや哀しみはなく、
二度とお会いできない母へ募るのは憧れと思慕。

ただ心配なのはわたくしとは違い、十八年経っても今尚母を忘れられない父帝様の心。
ほとんど表情の動くことのない父帝様のお顔に多くの公卿達が恐れをなしていることを知っている。母のことに関する、どんな失言も許さないことも。罪には厳しい処罰を下し情状を許さないことも。

父帝様を支えたいとおっしゃっていたという母は、今の父帝様を知ったらどう思うのだろうか。

「………出逢いが床下だったとこの前おっしゃってましたけど、そこからどうやって入内に至ったのですか?」

ふと不思議に感じ、尋ねると何故か父帝様から視線を逸らされた。代わりに押し殺した笑い声が聞こえて視線を向けると藤の大尼君様が扇で顔を隠し震えていた。わたくしは首をかしげ、

「大尼君様はご存じなのですか?」

とお尋ねしました。父帝様と母が出逢ったのは、母が十六の時だったと聞きました。けれど入内したのは、二十歳を超えていたとも。身分的には問題のないお立場で、望めばすぐにでも入内はかなったはずなのに。その間に一体何があったのだろうか。
答えはくすくすと止まぬ笑い声と共に藤の大尼君様が教えてくださいました。

「主上はね、振られてしまったのですよ、瑠璃姫にね」

え、と父帝様を見上げると
やっぱり視線をそらしたまま、扇で顔を隠されてしまいました。叔父様も気まずそうに、わたくしから微妙に視線をそらします。

「その上、他の方を婿に迎えてしまったのですからその時の主上の落ち込みようときたら…大変でしたわ」

「…と、東宮、だったのですよね…?その時父帝様は」

「瑠璃姫が他の方と結婚した時すでに即位されて今上帝になられてましたわよ。」

お、お母様…?
一体どれほど豪胆な方なのですか……!

「つまり瑠璃姫は、帝の求婚を断った最初で最後の女人になりますわね。あら?逆に言えば主上は帝でありながら振られてしまった珍しい帝になりますわね」

からからと。
楽しそうにお笑いになる藤の大尼君様。叔父様がそんな大尼君様に真っ青になって制止の声をかけ、父帝様は、「藤宮…あなたという人は……」と恨めしそうに睨んでいます。

「え…?え?え……冗談、ですよね……?え……本当のことなのですか?!」

内容は冗談としか思えないのに、父帝様達のご様子を伺うに真実のように思え、
驚きのあまり混乱するわたくしに父帝様が溜息をついておっしゃいました。

「そういう人なのです、あなたの母君は。」

と…。

「けれどね、主上は諦めなかったのです。ずっと瑠璃姫を想い続けていたの」

「藤宮…そういうことはあまり姫宮には…」

「あらどうして?知りたいわよねえ?」

「は、はい。できれば。」

もう大尼君様は楽し気で
対する父帝様は困り顔。叔父様はどんな顔をすればいいのか複雑そうです。
両親の馴れ初めは、二人共が健在ならば子供として知るのは気恥ずかしいものなのでしょうけれど、赤子の時分に母を亡くしているわたくしには興味深いものです。けれど父帝様の方が気恥ずかしかったようで、譲る気のない大尼君様の様子に諦めたのか、
お仕事に戻ることを理由に逃げるように戻っていかれました。後を追うように、叔父様も。
残ったのはわたくしと大尼君様の、女二人。
これで思う存分女同士の内緒話ができますわね、と茶目っ気たっぷりに大尼君様が笑われました。

「恋話は女同士でするものですもの」

そうして教えてもらった父帝様と母の馴れ初め。
まさかの、母からの求婚だったとか。

「瑠璃姫は当初、もう二度と結婚する気はなかったらしいのです。」

それが何故、母の方からの求婚に至ったのか。

「ですから瑠璃姫が離縁した後もしばらくはお二人はそれまでと変わらず友人を続けていたのですよ。けれど瑠璃姫ですからね、暇を持て余しては後宮に遊びに行っていたのです。当時は大皇の宮様も御健在でしたし、こっそり行く伝手はいくらでも持っていたのですわ。わたくしも含めてね。」

それでも後宮という場所は数多の人目がある場所、特に帝である父帝様の周りには常に大勢の人がいます。そんな中での邂逅に関係の変化が起ることはなく。

「行幸があったのですよ。それに、瑠璃姫も紛れ込んだのです。」

行幸中はいつもよりは父帝様の周辺も手薄になる。御所を離れ、日常と違う環境に身を置き、それ故に皆浮足立ち自覚はなくとも心も緩む。それは父帝様も母も例外ではなく…――

「つい飲みすぎて羽目をはずしてしまわれたそうよ」

「え…」

声をひそめ、けれど瞳は楽し気に輝いて、
大尼君様は扇の奥から囁きました。
わたくしももう十八で…結婚こそまだではあるけれど、大尼君様の様子からその先が想像できないほどには幼くありません。羞恥はあるけれど、潔癖に嫌悪を感じることもない歳です。
顔に熱が集まるのを扇で隠します。

「一夜の過ち、となかったことにするお二人ではありません。特に主上は瑠璃姫をずっと想っていたのですからその機会を逃すつもりはなかったでしょう。……でも、瑠璃姫の方が上手でしたわね。」

「母が…?」

ふふ、と。
大尼君様が微笑みました。

「ええ、さすがに瑠璃姫も主上のお気持ちは気づいていたのですね。主上が言う前に瑠璃姫の方から求婚したそうですわよ。どんな言葉だったのかは、主上も瑠璃姫も教えてくれませんでしたから知りませんけどね。」

「母も…父帝様がお好きだったのですか?」

「さあ…その時点ではどうだったかわかりません。ただ、酔ったせいであれなんであれ、主上のお気持ちを受け入れておきながら逃げるという選択は、瑠璃姫にはできなかったのでしょう。瑠璃姫ももう大人で、主上のお立場の大変さも理解していました。期待させた以上、瑠璃姫は瑠璃姫らしく、責任をとって主上をお支えしようと思われたのかもしれませんね。」

「な、なんだか……母が殿方のようなのですが…」

「それこそが瑠璃姫ですわ」

「父帝様も驚かれたでしょうね…」

なるほど、父帝様が気恥ずかしくて逃げてしまったのも頷けます。意外すぎるお二人の馴れ初めに、驚くばかりです。
初めて聞く父帝様と母の話でした。



わたくしはその後もたっぷりと、

大尼君様の知るお二人のお話を


教えていただいたのでした。





続く


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雪 says..."たけうさぎ様"
お久しぶりです!
コメントありがとうございます~。

藤宮には今回のお話でも大活躍していただいております( *´艸`)
ようやく、どんどん事態が進んでいく予定ですのでお楽しみに!
2018.06.12 22:19 | URL | #- [編集]
雪 says..."ハニー様"
瑠璃が好きだからこそのジャパファン、鷹男ファンですから(^^♪瑠璃をスーパーウーマンに描いてしまいます♪
でも、ジャパファンって瑠璃が好きじゃない人いないですよね?!
我らが瑠璃姫( *´艸`)嬉しいです!

姫宮と転生した母との再会…どんな感じになるのでしょうねえ?!
見た目は年下だし!姫宮自身に記憶はないし!瑠璃にもないし!

次の邂逅…ふふふ、案外すぐですよ!
2018.06.12 22:18 | URL | #- [編集]
雪 says..."ふにゃろば様"
鷹男と瑠璃の馴れ初めが知りたい、というコメントをいただいて
後回しになっていた(逃げていたともいう)入内に至った経緯を考えてみました♡
まあ、鷹男からの猛アピールはよくあるパターンなので面白くないなと思いまして、まさかの瑠璃からの逆プロポーズ!ということにしてみました(*ノωノ)

いづれ詳細にふれなければならなくなった時にふにゃろば様の妄想も参考にさせていただきますね♪
2018.06.12 22:15 | URL | #- [編集]
says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018.06.10 15:31 | | # [編集]
ハニー says...""
おはようございます。
更新をありがとうございます。

私も姫宮様同様、瑠璃姫のお話を嬉しく、そして
とても誇らしい気持ちになりました。
それでこそ、我らが瑠璃姫!って感じで。

そんな誇らしい母が、今ではご自分よりも年下の
女房であると気付いた時、姫宮はどんな反応を
するのかなぁ。

でも早く次の誰かと邂逅を果たして欲しい!
次は誰?生きてる人?転生した人?!
楽しみです〜〜!!!
2018.06.10 07:08 | URL | #- [編集]
says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018.06.10 02:10 | | # [編集]

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