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沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第三十話 弾正尹・藤原融

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「………」

「………」

透子という名の女房と二人で話がしたい。普通に考えればそれは気に入った女房を愛人にしたいととられてもおかしくない。けど、僕の様子からそんなことではないことは伝わったようで
戸惑いながらも別室が用意され、

僕は透子という女房と二人きりで向かい合うことになった。

じっと目の前の若い女房を見つめる。見た目からは姉さんとは似ても似つかない容姿だ。姉さんは父さんと僕に似た童顔で、平凡な顔立ちだった。目の前の女房はそれなりに整った、美しい顔立ちをしている。

でも、纏う雰囲気はとても若い女のそれじゃないな。

直感で感じた。
もちろん、当時の姉さんと同じ顔をして転生しているなんてそこまで都合のいいことは思っていなかった。名も身分も違う。けど――

声は姉さんだ。

この女房は姉さんの声にとてもよく似ている。それだけで姉さんだと決めつけるのは早計だけど、確信を深めるの要因になっていることは確かだ。
それなのに躊躇するのは、万一にも間違いであってはならないから。
主上にも関わる大事。別人であった場合、この女房が否定して口を閉ざせば問題はない。けれど、別人であるのに…――こちらの勘違いにのっかってきたら?

僕を騙し、姉さんだということにしてしまえば今よりずっと裕福な暮らしが送れると考えてしまえば厄介なことになる。

本物だという証拠も、別人だという証拠も、確かなものは何一つないのだから。










「長恨歌」第三十話 弾正尹・藤原融










「あの…」

「君は近江守の娘だそうだね」

「…はい」

注意深く、透子という名の女房の一挙一動を見逃さないように。
僕はゆっくりと問いかけた。

「わたしのことはどれほど知っている?」

「え…」

彼女は戸惑いを見せつつも答える。

「弾正尹様、ですよね…?」

「そう。それから?」

「それからって…」

声は似ている。でも、話し方は固く姉さんとは違う。
目の前のこの女房が姉さんだとして。記憶はあるのだろうか?僕の姉さんだったという…記憶は。
遠回しな会話しかできないことがもどかしい。

「………内大臣家の、ご子息…ですよ、ね……」

かちり、と。
またひとつ、符号していく。

父さんは姉さんの死後、気落ちしたまま位を返上して隠居した。もちろん知っている人間は知っているけれど、まだ十代の若い人間は知らない者の方が多い。それほどに、あれから時は流れて、僕は内大臣家の息子としてではなく自分自身の地位を確立している。

「……僕に、姉がいたことは……?」

気がつけば口に出ていた。考えて出たものではない問いかけ。作り上げてきた弾正尹という男が、あの頃の、頼りなかった自分へ戻っていくようだ。

「……………知って……いま、す……」

「どうして?」

だって、まだ十七の娘が知るはずはない。姉さんは十八年も前に死んだ。主上のお怒りを恐れて、姉さんの話題をおいそれと口にする人間はいない。噂話でさえ、許されない禁忌なのだ。

「それは……っ………聞いた、から、です……」

「誰に?」

意地悪な質問だ。彼女の主は入内する予定なのだ。後宮の事情を調べていたとしても不思議はない。わかっていても、言ってほしくて。
姉さんだと、言ってほしくて。

「………」

「まあいい。僕と姉は珍しく仲のいい姉弟でね。同腹の姉弟ということもあったけど、なんといっても姉が跳ね返りの変わり者でね。僕はしょっちゅう姉に叱り飛ばされていたんだよ。"しっかりしなさいよ"ってよく言われたな。」

あの頃は姉さんのこと、好きだとか大切な姉だとか、そんなことは思ったことがなかった。でも、いることが当たり前でいなくなるなんて考えたことがないほどに、姉さんが僕の姉さんであることは僕にとって当たり前のことだったんだ。どんなにひどい噂があっても、どんなにありえない言動をされても、姉さんがいなくなればいいなんて思ったことはなくて、僕の姉が姉さんじゃなければいいなんてことも、一度だって思ったことはなかった。迷惑だとか、いい加減大人しくしてくれよとは思っても。嫌いだと思ったことはない。

「『脳の病もち』『変人』『人の肉を食べて生きる鬼』とか、まあ、噂には事欠かない人でねえ」

どうしたの?
変な顔してるよ?

「ああ、そうだ。あと、浮気者が大嫌いでさ、生涯独身を通すんだって叫んでたよね。そのくせ、二回も結婚したけどね。」

「っ………」

あれ?
またなんか、すごい顔になってるけど大丈夫?
別に君のことを言ってるわけじゃないんだから落ち着いて?

「人の恋路には口出しするくせに自分のことになるど鈍かったよねえ。高彬も随分苦労させられてたけど…その点主上は上手く手の上で転がしてたねぇ。あの姉さんが主上の前では女の顔するんだもの。初めて見た時は驚いたのなんのって。」

「っっそんなことは……っ」

「どうしたの?僕の姉の話をしてるんだよ?」

「……はい…」

なんだか楽しくなってきた。
あの頃はやられっぱなしだった姉さんに、やっと反撃ができてるみたいだ。

もう僕は、すっかりこの女房こそ姉さんだと、姉さんの生まれ変わりであり、しっかり記憶も蘇っているのだと、確信していた。


「そうそう、姉さん、主上を酔った勢いで自分から襲って入内したらしいね?」


さすがに姫のやることじゃないでしょ、
びっくりだよ!



「っ嘘よ!!!あたしそんなことしてない!嘘つくんじゃないわよ融っっ!!」



にっこり。


僕は笑った。


ほらね、姉さんは単純なんだから。
そういうとこ、変わってなくて嬉しいよ。



「うん。嘘だよ。―――おかえり、姉さん」





続く


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雪 says..."ハニーさま"
三十話にてやっっっっと、姉弟の再会を果たせました!!長かった。。。あれこれ入れたいエピソードが多すぎて。。
なので次話は引き続き十八年ぶりの姉と弟の再会をお楽しみいただきます。
感動してもらえてよかった(^O^)/
で、次は誰でしょうね??まあ、融に会ったので次は早いかと思いますよ( *´艸`)
2018.06.24 23:35 | URL | #- [編集]
ハニー says...""
更新!
ありがとうございました!!

わーん!おかえりー瑠璃姫!!
弟!よくぞ頑張った!!!!
ちょっと感動したよーーーーっ!

さてさて、懐かしい姉弟の再開を果たしましたが
この次に来るのは…

うん。ズバリ!藤宮様ではないでしょうか。
あ、その前に瑠璃パパかな。
うぉーんうぉーんってパパは号泣しそうだなぁ。
元気になってくれると嬉しいです!

次も楽しみにお待ちしていますね。
2018.06.22 07:32 | URL | #- [編集]

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