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沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第三十二話 左大弁家二の姫付女房・透子(瑠璃)

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拍手御礼小説掲載
泣き続ける融を抱きしめてどのくらい経ったのか、
やがてぽつりぽつりと、融はあたしが死んでからのことを話しだした。
その合間に時折、本当にあたしが瑠璃なのか、ちゃんと記憶はあるのかを確認するように昔のことを聞いてきて
あたしはその度に覚えている思い出を口にする。

「子供の頃はよく相撲とって遊んだわね」

とまだ一緒に遊んでいた童の思い出を話せば、融はあたしを見上げて破顔する。
母様が童の頃に死んでしまったこと、それからあたしだけ吉野で過ごしていたこと、京に戻ったら融が義母様に懐いていて腹が立ったこと、でも義母様は優しくてあたしもじきに懐いたこと。高彬と三人で相撲をとって遊んだり、負けた怒りで高彬を池に落として風邪をひかせた申し訳ない思い出や、一生独身を通すんだと叫んで融に諭されたことなど、語りだせばきりがないほどに次から次へと思い出が溢れていった。

藤宮様に懸想した融のために滑り込んだ床下で鷹男に出逢ったことを融がいつの間にか話を聞いて知っていたことに驚いて、今ではその藤宮様と融が友人のような近しい関係になっていると聞いて驚いた。「これでも僕、主上の片腕と言われてるんだよ」と言う融に「嘘でしょう」と笑った。
あたしの死因について知っているか聞かれて、最近人に聞いて知ったと答えれば「そっか…」と小さく呟いて口を閉ざした。弟として、辛い記憶を必要以上にあたしに言いたくないのだろうと、優しい弟心が垣間見えて微笑んだ。もっと詳しいことを知りたい気持ちはあるけれど、あたし以上に傷ついた顔をした弟に、それ以上は聞けなかった。

「…父さんと義母様は元気にしてるの?」

「父さんは義母様のおかげでなんとか、って感じかな…。でも、歳とったよ、すごく……。」

「そう……」

親より先に逝くなんて、ずいぶんな親不孝をしてしまった。どれほど辛い想いをさせてしまったのだろうか。

「光徳院様も大皇の宮様もご逝去されてしまったのね…」

「もうあれから十八年だからね」

「………。」

「父さんも大分弱ってる。会いに行くなら一日でも早い方がいい。いや、絶対会うべきだよ。」

それに、あたしは曖昧に微笑んで返事を返さなかった。

「…姉さん……?」

まるで迷子の子供のように。
不安に揺れた瞳で融があたしを見上げたけれど。

「………鷹男と、……あたしが産んだ姫、は………」

一番聞きたくて、
聞けなかったこと。

誰よりも何よりも知りたくて恋しくて…大切な人達のことを訊ねた。

融の顔が、ぐしゃりと、また泣きそうに歪んだ。きっとあたし達、姉弟でそっくりな顔してるわね。

「姫宮様は姉さんそっくりだよ。元気でお育ちになっていらっしゃる。でも……でも、主上は―――」

"氷帝"と呼ばれている、と右近少将様に聞いた話が浮かんだ。


「主上は今も――…」










「長恨歌」第三十二話 左大弁家二の姫付女房・透子(瑠璃)










互いに聞きたいことはたくさんあったけれど、あまり長い時間左大弁邸で話し込むわけにはいかなくて
あたしと融は一先ず、二の姫のところへ戻った。

「まさか左大弁家の二の姫が小萩だったなんてね!そこまで予想してなかったよ!」

「お久しぶりでございます、融様。その節は、瑠璃姫様付きの女房でありながら瑠璃姫様をお守りできず……まことに…」

「僕の方こそ。思いつめる小萩を助けてあげられなかった」

「そんな…」

人払いをして、御簾も几帳も取り払って。
瑠璃姫と小萩と、融だった頃に戻って。あの頃のようにあたし達は向かい合った。

「やめてよ。死んじゃったあたしが一番悪いんだから。」

あの頃は何か事件が起っていて首を突っ込んでたわけでもないし、自分の命が脅かされているなんて思いもしていなかったんだから。

「…まあ、僕らは全員無防備すぎたよね。」

「そうね…そんなことは起らないと思い込んでたもの。」

「瑠璃姫様は身分もおありでしたし主上のご寵愛も深くて…それが逆に危険だなんて、思い至りませんでした」

それぞれに反省すべき点はあり、後悔もあるけれど。
過ぎてしまった時は戻らない。

「でも、さすが小萩だね。また生まれ変わって姉さんの傍にいるなんて!小萩の性格は知ってたけどここまでとはね。」

「ええ、やはりわたくしは瑠璃姫様にお仕えする運命なのですわ!」

「いや、今はあたしが仕える女房なんだけどね?」

突っ込みをしたあたしを無視して
融と小萩はにこにこと話を続けるんだけどねえ、何で?聞いてる?

「小萩はいつ昔のことを思い出したの?自分が小萩だったこと。」

「最近ですわ。高熱が続いた時に…一気に記憶を取り戻したのです。」

「なるほど。それでか…。左大弁家の二の姫が急に人が変わったようになったのは思い出したからなのか。」

「まあ…どうしてそれを?」

「調べてたらしいわよー。あたし達、二人きりの時以外はいつも通りにしてたのに怖いわよねー。誰かに盗み聞きさせてたのよ、きっと。怖いわー。」

「姉さんの生まれ変わりを探しててひっかかんだよ。」

あ、やっぱりあたしは無視ですか。そうですか。
二人とも全然あたしの方を見ないし。なんでよ!

「融様もご立派になられたのですね…」

え、そこ感動するとこ?

「ありがとう。でも…小萩もありがとう。また姉さんの傍にいてくれて。」

「滅相もございませんわ。」

なんなの、この二人。前よりずっと仲良しじゃないの。共通の問題児を前に一致団結とかそういうことなの?それでもってその問題児はあたしなの?
納得いかない!!

「ところで…腑に落ちなかったのですがどうしてわたくしは十五で、瑠璃姫様は十七なのでしょう?姫様が亡くなられたのは十八年前、わたくしが死んだのは十五年前ですわ。」

「そういえば…」

あたしは死んで一年後に生まれ変わってる。対して、小萩が生まれ変わったのは死んだその年だ。

「その点は僕も不思議だよ。でも、死んで何年後に生まれ変わるかは人によるんじゃないのかな?」

「そうなのでございますか?」

「おそらくね。」

そう言って融は、阿闍梨が話していたという転生の仕組みについて語りだした。

「転生を待つ列……」

「瑠璃姫様は覚えていますか?」

「ううん、全く…。小萩は?」

「わたくしもですわ。」

阿闍梨の語ったという、死後の世での、輪廻転生を望んだ者が待つという長い列。そんな記憶は残っていない。ただ死んで、気がついたら新たな生を生きていたというだけで…。
まあ、前世の記憶を持って生まれ変わってさらに死後の世のことを覚えているなんてことはさすがに覚えすぎで怖いから忘れててちょうどいいのかもしれないけど。

「さすがに神様もそこの記憶は消滅させるのでございましょう。」

「神様か……転生した以上、信じないわけにはいかないわね。」

「帝は天照大神の子孫だ。すぐに転生できたのはその恩恵かもしれないね。」

それほどに鷹男が、あたしが死んで哀しんでくれたと、言いたいのだろうか。
あえて尋ねず、一度瞳を閉じてから息を吐き、無理にでも微笑もうとして上手くいかなかった。そんなあたしに気づいたのか、小萩が違うことを口にする。

「そうすると大皇の宮様方も転生していらっしゃるのでしょうか?」

「転生を望めば、ということだからどうだろう?」

「…大皇の宮様はからりとした御方だったからしていないかもしれないわね。割り切ってあちらの世を謳歌しているかも。」

二人がほっとした顔をしたのを見てきっと自分がひどい顔をしているのだとわかったけれど
気遣ってくれる二人に感謝してそのままにする。

「そもそも記憶を持ったまま生まれ変われるのは珍しいことだろうからね。転生していたとして、全く思い出さないまま新しい人生を楽しんでいらっしゃるかもしれない。」

「大皇の宮様ならありえそうだわ。」

「転生までの時間も個人差があるということですしね。どこの国かもわかりませんわね。」

でも、救われる話だと思った。
前世で哀しい死に方をしてしまった人達が、再び生まれ変わり、新しい生を生きている。そう考えると…少しは報われる気がするのだ。

「だからこそ、小萩が姉さんの傍で転生してさらに記憶を取り戻してるってことはすごいことなんだよ!忠誠心が凄まじいよね。」

「褒め言葉と受け取っておきますわ。」

「あたしが生まれ変わった理由は『突拍子もないことをするのがあたしだから』なのよね。いいけどね。」

………鷹男や姫宮に会うためだと言葉にされてしまっては泣いてしまう。

でもそうか。少し納得した。
あたしは死んで生まれ変わるまでに一年あったからこそゆっくりと時間をかけて前世の記憶を思い出していくことになった。小萩は、すぐに転生したから一先ず前世の記憶に封印をしていたのだろう。産まれてすぐの赤子が大人びていては周りに受け入れられない。そうして今世の人生をある程度歩んだところで一気に覚醒したのだ。高熱も頭痛もその影響だろう。



そしてまた、


あたしは透子から瑠璃姫へ、



戻っていく……―――――。





続く


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雪 says..."ハニーさま"
吉野あたりのことですかね(*´Д`)?
考えないわけではないのですがどういう役どころにするかとかその後の展開とか難しくてまだ検討中です。
おっしゃる通り、彼も転生するなら瑠璃と結ばせてあげたい気持ちもあって…でもそうすると鷹男が…!てな葛藤でなかなか、彼の立ち位置が難しいのです。。
2018.07.02 23:15 | URL | #- [編集]
ハニー says...""
更新ありがとうございます。
ふと思い出しました。
天照大神の恩恵であれば、転生させてあげて欲しい
大事な人がいるんだけどな。
でもまぁ生まれ変わってもまた片想いでしかないなら
そのままそっとしておくのがいいのかな。

次も楽しみにしていますね!
2018.06.28 07:24 | URL | #- [編集]

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