FC2ブログ

沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第三十四話 左衛門佐・藤原宣孝

  8 

現在拍手小説はありません
密かに、怪しまれぬ程度の休みをとり流刑になった者達を順に尋ね歩き
生き残っている者達から直接話を聞き出す。
内密の再調査故に側近にさえ任せるわけにはいかなかった。主上直々の命だと思えば尚更だ。
流刑になった罪人はほとんどが女達で、その中でも今も生き残っているのはほんの数人。捜査にさほど時はかからなかった。

「知っていることは全てお話しました。」
「何度聞かれても同じです。後悔しています。許されないことをしてしまいました。」
「わたくしの罪は死んでも許されないことでございます。」
「左衛門督様という御方にも聞かれましたが嘘は申しておりません。誰に命じられたことでもなかったのです。」

聞いていた通り、左衛門督様の方でも調査はしており、再度の聞き取りでも目新しい事実は見つからなかった。
やはり、黒幕などいなかったのか。
愚かな女達の浅はかな嫉妬と無知が、主上から最愛の女御様を奪ってしまったのだろうか。

苦役についている罪人の命はそう長くは持たない。数人でも生きているのは幸運なことだろう。あと一人、話を聞き終えれば事件に関わり流刑にされた者達の捜査は終わりだ。最後の一人からも何も出てこなければもう、これ以上の捜査はしようがない。もしも黒幕がいたとして、これだけの時を経ているのだから誰かしら口を割ってもいいはずだ。それが出てこないということは、やはり真実、当時の捜査に漏れはなく、関わった者達は正しく全員処罰されたということだ。



最後の一人は、長年の苦役で身体を壊し、もう長くはもたないだろうということで床に伏していた。


「こちらでございます」










「長恨歌」第三十四話 左衛門佐・藤原宣孝










案内された尼寺。死を待つばかりの女は、最後の時、出家を許され、床の上で死を迎えることを許されている。
長年の苦役でやせ細った身体は棒切れのようで、かつては艶やかに長かったであろう黒髪はなく、ぼろぼろの肌にはこれまでの壮絶な人生を覗わせる。歳の頃でいえばわたしの母とそう変わらない歳であろうに、見た目からは母よりもずっと年上の、老婆のように見えた。

「もうほとんど目は見えていないようです」

この尼寺を取り仕切る尼君は静かに、死にゆく女を憐れみ教えてくれる。

「話はできますか?」

「ええ。彼女も最後に、誰かに聞いてもらいたいこともあるでしょう。」

尼君はそう言って、

「では、何かあればお呼びください」

と退出していった。





「だ、れ……?」

掠れ、しわがれた声で女が問うた。

「京から来た左衛門佐です」

「左衛門佐…様…?」

「はい」

罪人の女に、丁寧に話す必要はないのかもしれない。だが母と同じ年頃の、しかも死にゆく相手に、尊大な態度などできなかった。罪人とわかっていても、死を間近にした女の憐れな姿に同情してしまっているのかもしれない。

「どう……し、て…」

「十八年前の、あなたが関与したとされる藤壺女御様の事件の再捜査をしています。」

「藤…壺、の………」

「そうです。当時、あなたは女御様の御前に毒が盛られていると知っていながら知らぬふりをした。間違いありませんか?」

「……………」

毒を混入させた女はすでに処刑されている。生きているのは、それを知りながら口を閉ざしていた女達だ。

「今更断罪しにきたわけではありません。今だからこそ…何か言えることがあるのではないかと聞きにきたのです。」

何か知っていることはありませんか、ではなく。
本当に他に事件に関与した人間はいなかったのか、ではなく。
死にゆく人間の最後の告白を聞きに来たのだと、告げる。

「十八年前…あなたは主上の寵愛の深い藤壺女御様を妬んでいたと。当時、そうおっしゃったそうですね。」

「あ……あ、あ、あ………っっ申し、わけ……女御様………っ申し訳…っっ」

わたしには理解できない。
何故、いち女官が、畏れ多くも女御様を妬むというのか。
わたしが男だから、理解できないだけなのだろうか。

女はすでに見えないという目から涙を流し、掠れた声で何度も謝った。
十八年だ。
長い年月が流れている。
この十八年で自らの罪を悔い、その大きさを自覚したのだろう。

「……………藤壺女御様に成り代わりたかったと…。処刑された犯人が言い残していたことは知っていますか?」

やはり主上を慕うが故の嫉妬だったのか。

しかし

そのわたしの言葉に

床に臥せる女の見えないはずの目が

かっと見開かれた。

「…や、っぱり……」

「やっぱり…?何か思い当たることがあるのですか?」

女が小さく微笑む。

そしてちらりと、わたしの方に顔を向け、

「………あな、た、は………少しだけ………あの方に、似て、いるわ…」

と言ったのだ。
だから教えてあげる、と。

老婆にしか見えなかったはずの女の顔が、
若い年頃の女のそれに戻ったように錯覚する。

何を、と。
問おうとするわたしの声の方が掠れ、得体の知れない恐ろしさに震えた。

女が笑う。

まるで恋をする女の顔で。

死を前にした人間とは思えない、幸せそうな微笑みで。

「わた、くし…達、は……ただ、………恋、を…した、だけ………」

「…恋……?」

うっとりとした表情で瞳を閉じ、

口角は幸せそうにあがり、過ぎ去った思い出を懐かしむように。

「そう…。ただ、わたくし達は……恋、を…しただけ、なの…」

「主上、に……?」

だから妬んだのか。
だから寵愛の深い藤壺女御様がいなくなればいいと思ったというのか。

「………いいえ…」

「違う?」

どういうことだ。
では何故妬んだというのか。
恋をしたとは一体どういうことなのだ。主上以外の誰に恋をして、藤壺女御様は殺されなければならなかったというのか――!

「…わた、くし……だけじゃ、ない、わ………皆が…恋、を…して、いた、の……そう、あの、御方も……恋、を………」

「あの御方とは誰のことだ!!」

「…知らない、わ……」

「知らないはずがないだろうっ!」

何故恋をしたことが藤壺女御様を殺害するに至ったのかはわからない。相手が主上でないのなら、藤壺女御様は無関係であるはずなのに。
けれど直感的に確信した。
女の言う、恋をした相手という人間も、事件に関わっている。
十八年も口を閉ざし処刑されても庇い続けたのは、恋する相手故か。単純ながら恋愛という感情はなんと複雑で厄介なものなのか。例え自分がどれほど窮地に陥ろうと、恋した相手を守れるのならかまわないとまで思ってしまうほどとは…――

「本当、に……知らない、わ………た、だ……」

「ただ?!」



「宵闇の君、と……わたくしはお呼びしていたわ……………」





続く


イイね!と思ったら押してください<(_ _)>
にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ

関連記事
雪 says..."きよちゃん様"
融とのシーンはすいすい筆が進みました~。その分長くなっちゃいました( *´艸`)
今回、予想外に融が重要な役をやってます!

応募ですか??
いえいえいえいえ、考えたこともなかったです!
いやいやいや、そう言ってもらえるのはびっくりするほど嬉しいのですが所詮二次創作ですから絶対無理です。。オリジナルじゃないとねえ。でも私、キャラ作りが自信ないので…二次だからこそ、キャラもできてるしちょこちょこ入るエピソードも原作あってこそだし。
応募するような作品でこう視点がころころ変わるのは無理なんじゃないかなあとも思ったり。。

でも、褒めていただいてありがとうございます!
やる気UPUP!
ますます頑張りまーす!
2018.07.06 23:51 | URL | #- [編集]
雪 says..."ハニーさま"
ハニーさまは高彬押しですねwww
さて、犯人は彼なのでしょうか??
伏線は、小さくちょっとだけ、ありますよ( *´艸`)

原作の高彬は昏い心の闇なんて微塵もなさそうですが(笑)??
私の書く高彬はそんなイメージなのでしょうか?

さてさて、じわりじわりと明らかになっていきますよ!
じわりじわりじゃないかな…けっこうあっさりかな?
2018.07.06 23:47 | URL | #- [編集]
雪 says..."蘭さま"
またまたコメントありがとうございます!
いえいえ、読んでくれてるだけでも嬉しいですよ~(^^♪

ところがどっこい!!
まだまだ、クライマックスではないのですよ~~。
長くってごめんなさい。。
まだまだ、詰め込みたいエピソードがてんこ盛りでして。鷹男とも再会してないしね!
2018.07.06 23:04 | URL | #- [編集]
雪 says..."ふにゃろば様"
ここにきて黒幕だしちゃいました!
せっかく再会を果たしたところですが( `ー´)ノ
さてさて、正解はどれでしょう?&正解はあるのでしょうか?
徐々に明らかになっていきますのでお楽しみに♪
2018.07.06 22:37 | URL | #- [編集]
says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018.07.05 23:17 | | # [編集]
says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018.07.04 07:14 | | # [編集]
蘭 says...""
雪様

いよいよクライマックスですね。いつも覗いて読んでいます(ごめんなさい🙏🙇‍♂️)。
次また誰が出て来るのが楽しみにしています!
2018.07.03 01:53 | URL | #- [編集]
says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018.07.03 01:15 | | # [編集]

コメントする






管理者にだけ表示を許可する

該当の記事は見つかりませんでした。