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沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第三十五話 左衛門督・藤原明人

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拍手御礼小説掲載
逢瀬は月のない暗闇の夜ばかりだったことから、宵闇の君、と呼んでいたと。
再調査を任せていた部下の左衛門佐が持ち帰った情報の大きさに

「肌の白さは暗闇で浮き上がるほどで…美しい男だったそうです」

大きく息を飲んだ。










「長恨歌」第三十五話 左衛門督・藤原明人










わたしが捜査した時には出なかった情報は、その女が死の淵にいたからこそ得られたものであると部下は言った。

「わたしが少しだけ、その男に似ているからとも言っていましたが。」

黒幕かもしれぬ男に似ていると言われて複雑なのだろう。ほとんど見えない目から見て似ていると言うのだから錯覚や願望がそう見せたのかもしれないが部下の表情はすぐれない。
女が告白してすぐに、息を引き取ったというからそのせいもあるのかもしれない。

「その男が女達を唆したのか…」

毒を盛った女も、知りながら見て見ぬふりをした女達も、全員がその男に恋をしていたと?
皆が恋をしていたとうことはそういうことなのだろうか?

「一体その男は誰なんだ……」

後宮に勤める女達の皆が男の正体を知らないということがあり得るのだろうか。
相手は後宮勤めの女達だ。出仕している男ならばどんなに身分を隠そうとしてもばれてしまうものだ。
しかし後宮での逢瀬だったのだから殿上人であることは間違いない。殿上人といっても下から数え上げればきりがなく、その数は途方もないが。
いや…
女達がわからないというくらいなのだから、さほど官位の高くない男か……?

あまり、御所内を出歩かないような身分の…?

だがそんな男が何故、藤壺女御様を狙ったのか。

「主上にご報告しますか?」

「…いや。もっと詳しいことがわかるまで控えた方がいいだろう。悪戯にお心を惑わせるだけだ。」

つい先日、主上には他に関与していた者はいなさそうだとご報告をしたばかりだ。
主上もようやく藤壺女御様を忘れようとされている。死んだ女以外、関与した男の存在を認める者はおらず、その女も死んでしまってはその男の正体を突き止めるのも困難だ。だからといって黒幕かもしれない男を放置するわけにはいかないが、死んだ女の供述だけで関与を断定することもできない。そんな状況で疑惑だけの情報を主上にご報告しても、せっかく女御様への想いを昇華させようとなさっている主上を苦しめるだけになってしまう。

見つからない架空の黒幕の存在を知るだけでは、ぶつけようのない怒りに主上が傷つくだけだ――。

「よくやった。わたしでは引き出せなかった証言だ。君に任せて正解だった。」

「いえ。時期だっただけです。」

それでも彼だからこそ、女も話す気になったのだろう。
この部下から感じる真面目で正直そうな気質は、不思議と人を安心させるものがある。

「ここから先はわたしが調べよう。君は―」

「もう一度生きている女達に話を聞きに行きます!行かせてください。」

「……わかった。任せるよ。わたしはその"宵闇の君"の正体を探ってみよう。」

「はい!」

真剣な面持ちで一礼し、去っていく部下の背中を見つめながら

わたしは誰に話を聞きにいくべきかを頭の中で考えを巡らせた。










「大江殿」

考えた末に、わたしはある方を尋ねることにした。

「左衛門督様…」

「やめてください。わたしのような若造に敬語は不要です」

「ですが私より高位の御方ですから。」

「相変わらず真面目ですね」

「左衛門督様に言われたくありませんね。」

そう言うと、父でもおかしくないほど年上の大江殿は、
困ったように小さく笑った。

「何かお調べことですか?」

「ええ。」

「私でお役にたてることですか?」

中務省に知人である大江殿を訪ねたわたしは、たくさんの書物を抱えた彼を見かけると声をかけた。

「ここではちょっと」

「…ではわたしの部屋へどうぞ。散らかっておりますが。」

大江殿は歳こそ父子ほどに違うが、数少ない宮中での知人だ。
学者の家系で、目を見張るほどの優秀な方だが、身分の低さもありもとは右大臣家で家司をしていたという。しかし思うところがあり、右大臣家を辞め士官し今は中務省で働いている。階級でいえばわたしの方が上にはなるが、とても優秀で信頼できる方である。一緒に宿居をした折に親しく話をさせていただくようになった。
わたしが話を聞くのに彼を選んだ理由は、
その優秀さと人柄もさることながら、
事件当時、宮中におらず、しかし右大臣家というある程度の情報は知りえる立場にいたこと、

そして――


入内前の藤壺女御様と懇意にしていたと聞いていたからだった。


「それで、どうされました」

「………」

この話を主上の許可を得た部下以外の人間に話したことはなく、これはわたしの独断。しかし三十路での士官でありながら今では従五位上の中務少輔になり、長年尽くした右大臣家からの支援も受けず実力でそこまできた彼の優秀さは、話していて何度感嘆させられたかわからない。右大臣家の頭脳とまで言われていた人物だ。彼を頼ろうと決めてから改めて調べてみたがかつでの主家である右大臣家とは現在はほとんど交流がないことを考えても話して問題ないだろう。いつだったか、その辺りのことを訊ねた時に彼は言っていたのだ。

「前右大臣様と右近中納言様に受けた恩はすでにお返ししております。これからは自分のための道を歩いていくつもりです。」

と、本音とわかるきっぱりとした口調だった。
それでも彼が信頼できるという確信がほしくて、全てを話す前に彼が何故、かの女御様と親交があったのかを訊ねることにした。

通された部屋はわたしにあてられている部屋より狭く、暗く感じるほどに部屋中に大量の本が積み重ねられている。これら全てに目を通し、そのほとんどの内容が頭に入っているというから驚きだ。一見整理されていないようでいて、彼には何がどこにあるのかきちんと把握できているというのもまたすごい。

「………大江殿は以前、亡くなられた藤壺女御様と親交があったとおっしゃっていましたね。」

主上ほどとまではいかずとも、大江殿も端正な顔立ちをしている。何より、主上と共通するのは、いつもほとんど変わることのない無の表情――

その大江殿の、


「―――……ええ。あの御方が藤壺女御様と呼ばれるようになる以前、内大臣家の瑠璃姫様であった頃、私は命を助けていただいたことがあるのです。」


その瞳に初めて、


感情の色が乗ったのを垣間見た。





続く


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雪 says..."きよちゃん様"
やっと出番がきた守弥!(^^)!彼の立ち位置をどうするかが決まらずずっと出番なしでしたが。
登場させられたので今後は活躍してもらう予定です♪

さてさて、身に余る光栄なお言葉をいただきまして、URLを教えていただいたのでチェックしてみましたよ。あんなのがあるのですねー、全く知りませんでした!
ていうか見たのが締め切り当日でびっくり!!!もっと早く知っておけば…(*´Д`)!二次創作でもいいなんてかなり珍しい気がします。というか、コバルトはジャパネスクを今も大事にしてくれているんですね!感動です!
2018.07.12 23:25 | URL | #- [編集]
says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018.07.07 00:14 | | # [編集]

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