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沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第三十六話 中務少輔・大江守弥

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拍手御礼小説掲載
右大臣家の家司を辞めて出仕するようになって


十五年が経った―――――。










「長恨歌」第三十六話 中務少輔・大江守弥










自分自身の出世に興味がなく、右大臣家で高彬様をお支えすることに満足していた。長い間、ずっと。高彬様が私の全てだった。
そのことに疑問も不満もなかった。あの日までは…――。

「かつて私は、吉野で瑠璃姫に助けていただいたのです。崖から落ちた私を瑠璃姫が見つけ介抱し、一時的に記憶を失くした私を邸に置いてくださった。お蔭で記憶を取り戻し右大臣家へ戻ることができました。」

あの時は妙な噂ばかりの瑠璃姫を好ましく思っていなくて、高彬様との婚約を解消させる理由を探しに瑠璃姫の周辺を探るために吉野へ赴いた。まさかその瑠璃姫に助けられ、思わぬ人柄を知り絆されることになろうとは、あの時はずいぶんと混乱したものだ。

「その後、高彬様と結婚された瑠璃姫と再びお会いするようになり、正義感の強いあの方に巻き込まれるように様々な経験をしました。」

あれほど高彬様には相応しくないと、別れていただこうと画策していたのに。
いつしか私は、瑠璃姫ほど素晴らしく頼もしい方はいないと、瑠璃姫こそ高彬様をお任せできる方だと強く思うようになっていた。
当時の私は傲慢で自信家だった。身分もわきまえず、失礼にもそんな風に、上から思っていたのだ。けれど瑠璃姫はそれを感じていながらも咎めることはなく、高彬様の頭脳担当だと自負していた私を言葉だけであっさりと丸め込み、気が付けばいつも瑠璃姫に協力していた。時に主人の高彬様にさえ内緒で。私は瑠璃姫に呼び出されるままに応じ続けた。

「噂通り変わり者の姫でした。けれど……とても良い、方でした。」

美しいわけではなかった。教養も深いとは言えなかった。見た目だけで言えば、身分は高いが凡庸な、普通の姫君であった。
けれど人の価値は、本当に持つべき教養は、筝や琴や和歌の腕前などの姫君のたしなみといわれるものではなく、窮地に陥った時の行動力や、誰かのために、人を助けようと努力できる強さだと思い知らされた。
瑠璃姫の魅力は、美しさは、あの強さからくる輝き、生命力だ。瑠璃姫以上に強い輝きを持つ人間は、この先もきっと現れることはないだろう。

「最後にお会いしたのは、入内前です。入内してからは二度とお会いすることはありませんでした。」

「……では、亡くなられたと、知ったのは…?」

今でも覚えている。
あの日、"それ"を知った時の衝撃は。
冗談だろう、と。嘘に違いないと思った。
それほどに、瑠璃姫と死とが繋がらなかった。瑠璃姫に限ってありえない!咄嗟に叫んだのがつい昨日のことのように思い出せる。

「…右大臣家で聞きました。あの時ほど……自分の無力さを痛感したことはありません。」

散々お世話になった瑠璃姫が、帝に寵愛され御子を出産し幸福な人生を送ると信じていた瑠璃姫が、
あんなに唐突に死を迎えるとは…
右大臣家にこもっていた私は瑠璃姫が死ぬまで何も知らなかった。

「瑠璃姫の死の原因が人為的なものだと知った時、私は自分の生き方を後悔したのです。あの時初めて、私は自分自身が力を得ることを考え始めました。」

瑠璃姫の死に怒りを感じ、何かをしたくとも、
右大臣家の家司では、高彬様の側近という立場では、何もできない。
真相を疑い調べようと思っても、当時の私では何もできなかったのだ。
あれほど瑠璃姫によくしていただきながら、命を助けていただきながら、その瑠璃姫の不遇に、私は何もできなかった。これほどの屈辱が、怒りがあるだろうか。

あの事件以降、瑠璃姫の名は宮中では禁句のようになっていると聞く。元々大臣家の姫君で帝の女御様の名を軽々しく口にできるものではないが、出仕するようになって以降、私も自分から瑠璃姫の話をしたことはこれまでなかった。話す相手も、いなかった。誰も彼もが帝の怒りを恐れ、避けていた。

その、名を

瑠璃姫のことを、尋ねてくるということは、おそらく意味があるのだろう。
左衛門督様はじっと私の話に耳を傾け、真意を探るように私を見つけている。

ふっと、小さく、口元だけを歪めて笑い

口にした。

罪に問われることになっても、その結果死罪になっても、
もう今となってはかまわないという気持ちだった。

「実は、私はずっと、あの事件を疑問に思っているのです。どうしても、瑠璃姫があっさりと殺されることに納得できない。真相は他にあるはず。当時、私は幾度も高彬様に訴えました。もっと詳しく調べるべきだと。」

高彬様に訴えることしかできない自分が恨めしかった。

「ですが、帝の怒りが凄まじく…高彬様でさえ進言することはできないと。右大臣家としても疑われかねない立場でしたから、これ以上事を大きくするのはと右大臣様からも止められていました。黒幕の存在を進言したとして、見つからなければ責を問われかねない。間違いだったではすまなくなると…。」

高彬様も大きな衝撃を受けていたし、犯人の女には怒り狂ってもいた。だが政治家の立場からあれ以上宮中に混乱させることを由としなかった。混乱を長引かせず、早急な事態の終息を、政治家として高彬様は選択した。それから密かに捜査を続けることで真相を探ろうとはなさっていたが…年を重ねるごとに高彬様の中で諦めの気持ちが大きくなり、怒りも風化されていった。

だから私は自分の手で調べるために宮中に入った。自分一人ででも、何十年かかっても、瑠璃姫の死を納得できるまで諦めないと、
あの日あの時決めたのだ。

「そうでしたか……。」

やはりあなたは信頼できる方だ、と。
左衛門督様は言葉にせず呟いた。

「わたしの話とは、あなたに聞きたいこととは実は、そのことについてなのです。」

「……瑠璃姫の?」

「はい。わたしもあなたと同じく、あの事件を追っているのです。そして――」


『手がかりを見つけました』と。


止まっていた私の十八年が


動き出した―――――。





続く


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雪 says..."ふにゃろば様へ"
さすがふにゃろば様!いいとこ突きますね~
そうです、守弥の得意とするところは人の弱みを探ることwww
宮中に入って諜報活動に勤しんでいたはずです( *´艸`)
これからの守弥の活躍にご期待ください!
2018.07.12 23:26 | URL | #- [編集]
says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018.07.11 03:03 | | # [編集]

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