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沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第三十七話 左衛門督・藤原明人

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「『宵闇の君』……」

「思い当たる人物はいませんか?」

「いえ…」

大江殿から藤壺女御様の話を聞き、彼ならば問題はないと確信したわたしは部下の持ち帰った情報を打ち明けた。わたしがこの事件を調べ始めるずっと以前から彼が、たった一人で調べていたのには正直驚かされたが。
私の話に、彼はその眉間に深い皺を刻むと、じっと俯き、顎に手を当てたまま考え込む仕草をした。

「美しい男だったそうです」

「………左衛門督様の推測通り、その男は殿上人の中でも下位の者でしょう。尚且つ、宮中をあまり出歩くことをしない人間。…中務省に勤める人間だという左衛門督様の読みに間違いはないかと思います。」

「!!では…っ」

思わず、身体が前のめりになる。

「しかしその『宵闇の君』に該当しそうな男はおりません。」

「何故言い切れるのです?!」

美しい男というだけならば、美しいなどという基準は曖昧で見る者によって変わるもの。であれば、当時から宮中にいた人間全てが該当するのではないか。それなのに大江殿が断言する理由は何故なのか。
大江殿はわたしを真っ直ぐに見つめたまま、背筋が冷えるような皮肉めいた笑みをした。

「私の得意とするところは情報収集でして。この十五年、宮中にいて私が何をしてきたと?参内するほぼ全ての人間について私は把握しております。今すぐに告発も可能な弱みまで、全て。」

痛感した。
彼もまた、主上や弾正尹様と同じく、今尚、激しい怒りをその身に住まわせ、心を凍てつかせているのだと――。

「特に中務省の人間については念入りに調べました。……今も宮中にいて当時瑠璃姫に毒を盛った女と通じていたと思われる人間はおりません。」

「そうですか…」

やはり容易に見つかるはずがないか。

「しかし当時中務省で働いていた人間に絞っていいでしょう。」

「…何故です?」

「私が出仕を始めたのは、事件から数年も後のことです。事件に関わった人間のほとんどはすでに処罰された後でした。ですから、できることはそう多くはありませんでしたが、一番最初に疑問に思った瑠璃姫に盛られていたとされる毒について調べました。」

「毒とも呼べぬ、正体不明のものであったと。」

大江殿が頷いた。

「そうです。懐妊中であった瑠璃姫の口にするものは全てが毒見されていました。それでも判明しないような、どこでどう作られたかもわからぬ代物です。実際、毒見を行った女房や女官達に死にまで至った者はいなかった。では妊婦にだけ効果があるものだったのかといえば…それも怪しいと思うのです。典薬寮総出で調べても、その薬が何を目的としたものだったかわからなかった。妊婦にだけ効く毒薬だったとしても典薬寮が総力をあげて調べてわからないはずがないのです。」

「…おっしゃる通りです。」

当時、一番に疑われたのは典薬寮の人間だったと聞く。
女がその薬をどこで手に入れたかのかと考えれば、典薬寮が一番怪しかったからだ。
だからこそ典薬寮は潔白を示すため、総力をあげて毒薬の解明に努めた。むろん、厳しい監視下の中でだ。証拠が隠滅されたり、隠匿されないために、また逃げ出せぬように、一日中大勢の監視が見張る中での作業。それも典薬寮の中のある物全てが一度捜索された後というほとんど犯人扱いされた状態の中でだ。

「典薬寮から藤壺女御様の御前に盛られていた薬の残骸などは見つからなかった。煎じたと思われる跡もなかった。もちろん、女と通じていた人間もいない。」

「はい。帝自らが厳しい取り調べをしたと聞き及んでおります。言い逃れはできなかったでしょう。」

ですから典薬寮に所属する人間ではないと考えました、と。
大江殿がおっしゃった。

「では……」

何故、中務省の人間だと?


「中務省には陰陽寮があります。」


!!


「陰陽寮の仕事は主に占いや天文、時や暦の編纂を行うことですが…陰陽道に基づく呪術を行う陰陽師もおります。そして彼らは総じて研究熱心で探求心が深く、変わり者が多い。」










「長恨歌」第三十七話 左衛門督・藤原明人










確かに、陰陽師ならば女達がわからなくても無理はない。彼らは出歩くことを好まず、陰陽道に邁進する者らがほとんどだ。そして陰陽師ならば……不可解な薬のひとつやふたつ、煎じることなど造作もないかもしれない。

「だからといって陰陽師を疑うのは酷な気もいたしますが…」

彼らとて、真剣に勤めているせいで疑われてはたまらないだろう。
陰陽師は立場こそ低いが、なくてはならない仕事であることは間違いない。自らの仕事に誇りと自信を持って邁進している姿は尊敬に値するものだ。政とは距離を置いており、彼らに女御様を廃する理由もない。だからこそ、これまで彼らに疑いの目は向かなかったのだ。

「そうですね。ですが『宵闇の君』、それを聞いて、思い出したのです。」

「え…?」

大江殿の顔は青く、恐ろしいほどに真剣なものだった。
おそらく、わたしの顔もまた、同じようなものだったはず。

「先程、私は"今も宮中にいて当時瑠璃姫に毒を盛った女と通じていたと思われる人間はおりません。"と言いました。今も宮中にいて、です――」

「!ということは…っ?!」

大江殿が頷く。

「私が出仕するようになってすぐいなくなったので、その男のことまでは調べられていないのです。ですが…思い返せば違和感を感じることがありました。」

違和感。
それは、一体…

「男は、私が右大臣家にいたことを知るとよく話しかけてくるようになりました。特に……藤壺女御様との親交について。私が何故、どのようにして交流があったのかという…瑠璃姫の話を」

"やけに熱心に聞きたがりました"、と。

大江殿は語った。

「陰陽師としての実力は随一、誰よりも熱心に研究をしていた男です。容貌は………美しかったかと。」

一緒に働いた期間は短かったけれど、
ほとんど一日中を宮中で過ごしていたこと。

稀にふらりと姿を消すことがあったこと。
明朝大江殿が出仕すると、帰宅していないはずの男からわずかに白粉の匂いがすることがあったこと。

そして、


何かを、


周囲に絶対に教えようとしない何かを熱心に、



狂ったように見えるほどに調べ、研究していたこと――。



「ある日、誰にも何も告げず、彼が研究していたと思われる全ての資料と共に、彼は消えました。」


いなくなったと。


「それきり、彼の姿を見た者はおりません。」


『探しに行かなくては』。
最後に彼を見た者が、彼が思いつめた表情で呟いているのを聞いたそうです。

「探しに…?」

一体、何を探しに行ったというのか?

「これは私の推測ですが。おそらく彼は、何らかの術式をもってして瑠璃姫を害した。女が盛った薬は、媒体にすぎなかったのでしょう。だからこそ毒見でも典薬寮でもわからなかった。」

「何故陰陽師が藤壺女御様を……」

「わかりません。ですが、明確な目的があったことは間違いないでしょう。何かを探すために姿を消したのも……瑠璃姫に関係があるかもしれません。」

私は男が研究したものが何かを調べます。
ですから左衛門督様は男の行方をお願いします。

と言った大江殿に。

「了解しました。すぐに動きましょう。……姿を消して十五年近く経っています。生きているといいですが…」

これはもう、主上に黙っていられないと。

お話する覚悟を決めて、


立ち上った。





続く


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雪 says..."ふにゃろば様"
お久しぶりです。
自宅のPCが突如起動しなくなってどうしようもなくなり…
新しいのも買えないまま更新も執筆もできなくなっています。
今日から少しの間は実家に帰省しているので実家のPCで更新できるのでしていくつもりですが。
できるだけたくさん書いてたくさん更新していきたいと思っております!!
2018.08.01 15:46 | URL | #- [編集]
says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018.07.15 20:55 | | # [編集]

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