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沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第三十八話 左大弁家二の姫付女房・透子(瑠璃)

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答えは出ないまま、融に後押しされる形で父様に会う前に藤宮様に会うことになった。
藤宮様は今は出家されて尼君になられているということで、会うためにその尼寺へ向かうことになった。二の姫様が入内を控えている状態だから女房のあたしへの制限も厳しくなっているけれど、表向きには尼寺への参拝になるのであっさりと許可が出た。

左大弁家の門外へ出ると融が用意してくれていた牛車と護衛の姿。さすがに内大臣家の瑠璃姫だった頃の見覚えのある顔はなくて少しだけ、胸が痛んだ。










「長恨歌」第三十八話 左大弁家二の姫付女房・透子(瑠璃)










「瑠璃、姫……ですの………?」

「はい…。藤宮様、お久しぶりです……あの、」

信じられなくても当然です、と続けようとして。
突然襲ってきた衝撃に言葉は続かなかった。

「瑠璃姫…っっ!!!」

藤宮様に、抱きつかれたのだ。

「藤宮様…」

「ああああ、本当に?!本当に瑠璃姫ですの!?ええ、融様がおっしゃるのならば間違いはありませんわ!ついに、ついに見つけ出すことができたのですね……っっ」

「あの、藤宮様…?」

あたしのいない十八年の間に何があったのか、昔は融と藤宮様にあたし以上の接点はなかったはずなのに、
今の藤宮様の言葉からは融への信頼と距離の近さを感じた。

「顔をよく見せて。ああ……これが"今の"瑠璃姫なのですね…」

でも、声は瑠璃姫のままですわ、と。
涙ぐんだ藤宮様が呟いた。

身に纏う物こそ尼のそれだけど、鷹男に似た華やかな美しさはあの頃の藤宮様のままに見えた。豊かだった黒髪はなくなっているけれどそれがより一層、藤宮様の美を引き立てている。歳こそ重ねても藤宮様の美しさは損なわれることはなかったようだ。むしろ、あの頃にはなかった鋭さや冷たさのようなものが今の藤宮様からは感じられて、あたしの知らない十八年の歳月に想いを馳せる。


――『弾正尹様と藤の大尼君様。このお二人は今上帝の右腕とも懐刀とも呼ばれている。今上帝だけじゃない、あのお二人を怒らせても命はないと有名だよ。一見穏やかで優し気でいて、怒らせると恐ろしい方々だとね』――


右近少将様から聞いた、今の融と藤宮様の話。実際にお会いするまでは本当に融と藤宮様のことなのか信じられなかった。あたしの覚えている二人は、人が良すぎるほどに優しくて、穏やかな気性だったのだから。
でも…――


右近少将様の話はあながち誇張でもないのかもしれない……―――。


「…わたくしとの初めての出逢いを、覚えていて?」

「…はい。気絶したあたしを、鷹男が藤宮様のお邸に預けたのですわ。」

融が鷹男に打ち身されたのを見て、あの時あたしは鷹男を追って邸の床下に潜り込んだ。そこが左大臣家の、大海入道の邸だと気づかないままにあたしは、潜り込んだその床下で恐ろしい陰謀の話を聞いてしまった。東宮の廃嫡を狙った、陰謀の話を。そして…
床下で鉢合わせしたあたしに向けられた鷹男の刀に驚いて、みっともなくも気をうしなったあたしを、鷹男が叔母である藤宮様に預けた。鷹男は東宮でありながら藤宮様のお邸を拠点に、事件を暴くため暗躍していたのだ。

あの時、藤宮様は鷹男のことを雑色だと紹介して……

親し気な二人にあたしはてっきり、身分違いの恋人だと誤解したんだっけ。陰謀の話を聞いて、高彬との結婚のために手伝わせてと強引に申し出て…

「あれが始まりでしたわね。藤宮様にはいつもいつも、ご迷惑をおかけしました。」

「そこまで…覚えているのですね。ええ、あなたは瑠璃姫に間違いありませんわ。」

公にはされていない真実。東宮自らが陰謀を暴いたなんて、知っているのはあたし達だけ。
だからこの記憶が、透子が瑠璃姫だという証拠になる。藤宮様のご様子に、帥の宮の話までする必要はなさそうだと判断する。
藤宮様もあっさり信じてくださった。輪廻転生の話を融にしたのは、藤宮様だという。けれど最初に藤宮様にその可能性を話したのは、秋篠権大納言様だとも。

「以前の秋篠権中将殿ですわ。」

「秋篠…」

「覚えておられませんか?瑠璃姫が吉野に籠っていた時、主上からの御文を届けたことがあると聞きましてよ。」

「…あっ。」

思い出した。

「あの時の…」

「忠臣ですわよね。瑠璃姫を忘れられない主上のために、生まれ変わりを探してくださるなんて。」

「…大納言様になられていたのですね。涼中将様も今は大納言様だとか。そしてご子息は右近少将様…ふふ、なんだか不思議ですよね。あたしにとっての右近少将は高彬なんですけど、でも、今の右近少将は涼中将様のご子息で。……十八年、あたしの知らない時間が確実に流れていたんだなて………」

「瑠璃姫…」

藤宮様が痛ましそうなお顔をして
どうしていいかわからなくて曖昧に微笑んで首をふった。

いけない。
一度死んだことで藤宮様にも哀しい想いをさせてしまったのに、こんな感傷でまた御心を傷つけては、なんのために生まれ変わったのかわからなくなる。

「藤宮様」

だから笑った。
あの頃のように、瑠璃姫の気持ちで、微笑んだ。

「死んでしまって…ごめんなさい。哀しい想いをさせてごめんなさい。覚えていてくれて、忘れないでくれてありがとうございます。…すごく、嬉しいです。」

「瑠璃、姫……っ」

「でも、もう、大丈夫です。あたしはもう一度生きなおしています。ここに、います……―――!生きています…!」










小萩に、融に、藤宮様。
生まれ変わって再会して、三人とも泣かしてしまっている。
最初こそ泣いていなかった藤宮様も、死んでしまったことを謝ると泣き出してしまって、たった一人の親友を亡くしてどれほど哀しく辛かったかと泣き続けた。親友だなんて言葉にされると照れくさくてでも嬉しくて。ありがとうございます、なんておかしな返事をしてしまった。

「ずっと、瑠璃姫を奪った後宮が憎くて、あの場所に住む女達が憎くてたまらなかったのです」

と。泣き続ける藤宮様には似合わない言葉が飛び出てきて驚いた。それは右近少将様から聞いた、今の藤宮様があたしの知る藤宮様の姿と重ならない原因なのだろうか?だとしたら、藤宮様が変わってしまったのはあたしのせいだ…。

「……その後の、ことは…?」

「………小萩から、少しだけ。でも…」

小萩もあたしが死んで二年後に死んでいるから、その後のことは知らないのだ。融とは思い出話がほとんどだったから、その後の話を詳しく聞くまでには至っていない。藤宮様も察してくださったようで、また痛ましいお顔にさせてしまった。

「あの、あたしが……姫を、産んでいたって………」

「覚えていませんの?」

罪悪感で俯いた。

「はい……」

自分の子のことなのに、産んですぐ死ぬどころか産んだことすら忘れてしまっていたんなんて。
申し訳なくて申し訳なくて、悔しくい。
母親だなんて言う資格、あたしにはない。
だけど…

「姫宮は…どんな……」

どんな子なのですか?
どんな顔で、どんな声で、今、どうしているのか。
生母がいなくて寂しい想いをさせてきたんじゃないか。鷹男や父様は姫宮を大事にしてくれているのか。母親のことは……あたしのことはどう、思って、いるのか…。

知りたいこと聞きたいことは山ほどあるのに、
どれも言葉にはならなかった。

「昔の瑠璃姫に、よく似た面差しですわ。」

「あたしに…?」

藤宮様の目は優しくて。
とても優しい眼差しであたしを見つめていて。

あたしの知らない知りたい姫宮の今を話してくれる。

「お可愛らしい、姫宮様ですわよ。お顔は瑠璃姫に似てますわね。理知的なところは主上かしら。落ち着いた賢い、瑠璃姫譲りの勘の良い姫宮様ですわ。…母君の代わりに父君を支えていますわ。鷹男も、溺愛しています。融様も、わたくしもね。」

「そう……なん、です…か………よかっ、た…」

幸せ、なんですよね?
姫宮は、あたしの娘は、

幸せなんですよね?

藤宮様が微笑む。

「今上帝に溺愛される姫宮が、幸せでないはずがございませんわ。」

「そ、……っか………幸せ、なん、ですね…」

視界が滲む。
今度はあたしが泣いてしまいそうだ。

母親になっていたことも忘れていたくせに。
母性なんてあるはずないのに。
話に聞いただけでこんなにも胸が締め付けられて愛おしさと切なさに苦しくなる。

ごめんね。
ごめんね、ごめんね、ごめんね…

馬鹿な母親でごめん。
死んでしまってごめん。
産んだことすら忘れてしまっていてごめん。
こんな母親失格な母親で、ごめんなさい。

でも…――

「………あいたい」

会いたい

会いたい

会いたい。

会いたいよ……

「あた、し、の………姫、宮……………」

母親だなんて名乗れなくていい。
言葉を交わすこともできなくていい。
遠目から、一目見るだけでもいいから。

「会いたい……っ」

ぽつり、と零れ落ちた涙は
次々と溢れ出て我も忘れて泣きじゃくった。

「藤宮様……っ!…会いたいですっっ…あたしの、姫宮に………っ!!」

伸ばされた手にすがりついて泣き続けるあたしに

「大丈夫、大丈夫ですわ、会えますも。ええ、必ず会えますとも。」

と、藤宮様は優しく背をさすりながら繰り返した。


「融様が主上に瑠璃姫を見つけたことをご報告にいっていますわ。きっとすぐです。鷹男がすぐ、瑠璃姫を迎えにきてくれますわ――っ!」





続く


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雪 says..."ハニーさま"
実家に帰ってきたので更新できました!
ああ、このままこのPCを持ち帰りたい…( ;∀;)

瑠璃の瑠璃としてのあれこれが進むと思いきや、過去の事件も絡んで進むことになりました~
こうなるとさらにじれったい展開になりそうですが…

伏線はですね、ちらっとだけ。本当にちらっとだけなのですが、出してましたよ。
と、三十八話で犯人の名前も登場させましたが!
オリジナルキャラです。
2018.08.05 13:42 | URL | #- [編集]
雪 says..."リンリンさま"
PCが壊れまして、更新はおろか執筆もできなくなったのです( ;∀;)
今は実家に帰省中でPCができるのでストック分を更新していっていますが執筆する余裕まではなく先行き不安です。
新しいPC…がなかなか、買えなくて。

とはいえ、未完のままにするつもりはありませんのでのんびりお待ちくださいませ。
思い出した時に覗いてみてみてくださいね。
2018.08.05 13:37 | URL | #- [編集]
ハニー says...""
更新はもう少し先になるかと思ってましてが
いつの間にやらされていて嬉しいサプライズでした!

てっきり犯人探しの話が来るかと思ってましたが
こちらのお話が進んだんですね。
後半、うるうるって来ちゃいました。
ここまで来ればもう鷹男や姫との再会は遠くない?!
再会シーンが楽しみでなりません!!

でも犯人、誰だろう。
伏線はこれまでのお話に出て来てるんですよね?
2018.08.02 17:21 | URL | #- [編集]
ハニー says...""
更新はもう少し先になるかと思ってましてが
いつの間にやらされていて嬉しいサプライズでした!

てっきり犯人探しの話が来るかと思ってましたが
こちらのお話が進んだんですね。
後半、うるうるって来ちゃいました。
ここまで来ればもう鷹男や姫との再会は遠くない?!
再会シーンが楽しみでなりません!!

でも犯人、誰だろう。
伏線はこれまでのお話に出て来てるんですよね?
2018.08.02 17:20 | URL | #- [編集]
says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018.08.01 17:43 | | # [編集]

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