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沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第四十話 秋篠権大納言

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結局わたしには、あの方達の真の痛みは理解できないのかもしれない。
主上をご尊敬申し上げ、弾正尹殿も藤の大尼君様も素晴らしい御方だと尊敬している。十八年前に亡くなられた藤壺女御様もだ。けれど、藤壺女御様の身内でもなく特別に親しくさせていただいていたわけではないわたしには、主上達の苦しみは想像することしかできず、その想像もあの方々の真の痛みにはほど遠いものなのかもしれない。

止めたわたしの手を振り切り、

「教えてくださってありがとうございます。わくわくしますよ、どうやって殺してやろうかって…楽しみです。はやく、見つけなくちゃ。」

そう呟いて…うっそうと嗤っていた弾正尹殿のお顔は
主上に勝るとも劣らぬほど、恐ろしくて――背筋がぞくりと震えた。

主上の悋気にふれ、自分に向けられたものではないのにまだ治まらぬ震えに、弾正尹殿の怒りにもふれさらに大きくなる。
主上もまた、お嗤いになられていた。


「―――――必ず見つけよ。秋篠権大納言、必ずだ――。」


前右大臣殿達が早急な幕引きを進めたのはこのためだったのか、と。
今更ながらに理解した。

恐ろしすぎるのだ。

もし見つけることができなかったら……

「いや、見つかりませんでしたなどと言えるはずがない」

己の手の平に滲む汗と止まらぬ震え。
わたしはもはや戻れぬ場所に立っていることに気づいて喘ぐように息を吐いた。

怖れぬな。
主上を信じろ。

「主上方の苦しみに比べればこんなもの……」

あえて小さく言葉にしてからもう一度、
今度は自分を落ち着けるためにそっと長く、大きな息をついて

前を見据えた。










「長恨歌」第四十話 秋篠権大納言










一度自邸に戻り、男の邸へ人をやった後、やはり落ち着かなくて自ら足を運んだ。
こじんまりとしたかつて男が住んでいたらしい邸はがらんとしていて人気がなく、すっかり荒れ果てた様子だった。
戸は外れ、壁には穴があき、隙間風で風の音が大きく響く。蜘蛛の巣を掻き分け進めば時折みしりと床が抜けそうな音がする。

「大納言様。全て確認しましたが調度品などの道具は何一つ残っていないですね」

「そうか」

元々人嫌いな偏屈な男だったらしく、雇い入れていた下働きもほんの少数だったと聞く。それもある日突然主人が失踪したのだ。賃金も支払われず、いつまで待てばいいかもわからない。新しい雇先を探そうにも紹介状もない。賃金代わりに好き勝手に邸の物を持ち出したのだろう。やがて無人だと噂が立てば…強盗も入れば浮浪者も住みつく。なるほど、今にも物の怪でも出そうな有様になるわけだ。

親兄弟もなく親戚もいない。手がかりもない。一体どこへ消えたのか…。
目立つ容姿と陰陽師だということが唯一の探す手段か。

「書物や書きつけの紙があれば全て持ち出せ。一枚たりとも残すな!」

従者達に言いつけ
もう一方で去っていった下働きの者達を探し出すよう命を下す。
全国の受領達には手配書と捕縛令が伝令済みだ。

「秋篠権大納言様!主上からすぐに参内するようにと伝達が参りました!」

そして早馬で知らされた主上の呼び出しに
わたしは急ぎ、御所へ戻ることになった。










弾正尹殿は女御様の生まれ変わりを見つけたことをご報告したらしい。
わたしを呼び戻した主上は、そのことについてわたしからも話を聞きたいと仰せになった。
わたしは阿闍梨殿からうかがった話をご説明し、実の弟君である弾正尹殿が確認しているのなら間違いないのではないかと締めくくった。
主上は阿闍梨殿を召し出し話を聞くつもりであることは仰せの上で、しかし冷たいお声でわたしに告げた。

「瑠璃姫はただ一人。どれほど容貌や声が似ていようと瑠璃姫の代わりにはなりえない。」

故に、


不要だ、と。


感情の伺えないお顔と冷え切ったお声で

わたしに言った。

「…主上、しかし……っ」

似ているのではなく、生まれ変わりであり、記憶を有した藤壺女御様ご本人だと…
訴えようとした言葉は主上の瞳に見据えられて続けることができなかった。
恐怖に固まり、震えを抑えることで精一杯のわたしには、主上のお言葉をただただ聞くことしかできなかった。

「弾正尹と藤宮は私と同じ苦しみを共有している。彼らの藁にも縋る心情は理解できる。転生の話に、夢を見てしまったのであろう」

主上は信じない。

輪廻転生などありはしないと、


その冷え切った瞳が物語っていた。


「どれほど心を凍てつかせようと彼らは元は穏やかで優しい気性だ。人を簡単に信じてしまうね。責めるつもりはない。だが…私には通用しない。」

弾正尹殿と藤の大尼君様が騙されていると。
主上は仰せになった。

わたしに?
いや、違う…

「秋篠権大納言、行って、その女房に伝えよ。一度目は許そう。だが二度目はないと。」

心優しい二人をこれ以上騙すのなら容赦はしない。
恐れ多くも藤壺女御様の名を騙る不届き者と。

主上の瞳はわたしを通して弾正尹殿が見つけた女人へと向けられていた。

「本来ならば即刻打ち首のところだが弾正尹と藤宮に免じて許すだけであることも重ねて伝えよ。」

「………っっ承知、しました……っ」

お待ちくださいと。
もう一度ご再考ください、と。

声をあげることはできなかった。

藤壺女御様の御名は主上の逆鱗。それにふれてしまった怒りを目の当たりにしては

わたしの立場ではそれ以上主上のお言葉を否定することなどできなかったのだ。

弾正尹殿や藤の大尼君様ならば違ったのかもしれない。だが、主上のご様子からはお二人の言葉であったとしても信じていただくのは難しいように感じる。

女達を唆したかもしれない存在が浮上したことで、主上は生き残っている流刑に処された女達へ、まだ真実を隠すのならば命はもちろん一族郎党皆処刑するとまで仰せになったと聞く。本人の流刑だけでは許さないと。


主上の怒りと恨みは根深くその御心を完全に閉ざしてしまわれている……。


確かに、わたしにはわからない。藤壺女御様と深い親交があったわけではないわたしでは。
されど弾正尹殿や藤の大尼君様は確かめているのだ。お二人が間違えることなどありえるだろうか。

夢見たことも確かだ。
輪廻転生の可能性に縋ったことも間違いない。
阿闍梨殿のお話も断定するものではなかったが、弾正尹殿が逸るあまり見誤ったとはどうしても思えない。そう時を要したわけではないとはいえ、慎重に調べ判断したはずなのだから。

そもそも、地方の受領の姫如きが、畏れ多くも藤壺女御様の御名を騙るだろうか。
偽りであればとんでもない事態になることは童だってわかることだ。

「………かつては吉野へ帰京を促す文遣いをし、此度は…」

重い役目を背負ってしまったことよ。

それでも主上の命とあらば。

御前を退がり、藤壺女御様の生まれ変わりに会うために
御所を退出したその足で牛車を走らせた。





続く


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雪 says..."ハニーさま"
そうなんです、鷹男、こじらせすぎちゃってて。。自分で自分の幸せを遠ざけちゃってます。
ですのでここは瑠璃に頑張ってもらって、鷹男の傷を癒してもらおうかとは思ってます。
瑠璃を応援してあげてくださいませ!(^^)!
今週、もう一回更新しますよ!
2018.08.10 00:27 | URL | #- [編集]
雪 says..."几帳さま"
長引いててすみません。こんなに長引かせるつもりなかったのですが、書きたいエピソードがありすぎて!再会が先延ばしになりまくってます。さすがに焦りが出てきました。。再会できなさすぎて。。。
黒幕とか出しちゃったから余計ですわ。
でも、ハッピーエンドにするべく書き進めますので!!
2018.08.10 00:25 | URL | #- [編集]
雪 says..."ふにゃろば様"
融や藤宮様、あっさり信じすぎ!ですから、鷹男はひねくれてますWWW
それだけ傷が深いということにしてください。
さてさて、鷹男本人は拒否してますが、だからってあきらめるわけにはいかない!どう再会するのか、お楽しみに(^^♪

それを知った瑠璃の反応も、書いていますのでお待ちくださいね。
2018.08.10 00:23 | URL | #- [編集]
ハニー says...""
更新ありがとうございます。
ここまできたら早く鷹男と瑠璃姫が再開かと思いきや
なんとなんと!
鷹男ってば!拗らせてる〜〜

早く出会わせてあげたい。
こうなったらやっぱり女房のフリをして後宮に
遊びに行くしかないのかな。

次の更新も本当に楽しみにしています!
2018.08.08 08:30 | URL | #- [編集]
says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018.08.08 08:22 | | # [編集]
says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018.08.08 03:43 | | # [編集]

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