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沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第四十一話 弾正尹・藤原融

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はやく、はやくはやく。

見つけ出さなきゃ。

例え骸になってたってかまうもんか。姉さんを死に至らしめた奴を許さない。図々しくもまだ生きているというなら見つけ出して死んだ方がましだと思えるほど徹底的に痛めつけて報復してやる。
十八年も経ってるから忘れられてるとでも思っているのなら大間違いだ。どこへ逃げていたってどこまででも追いかけて殺してやる。
そしてもう二度と。

二度と姉さんを傷つけさせない。

やっと会えた姉さんの生まれ変わり。
僕らのために転生してきてくれた姉さんを、今度こそ全力で守り抜く。

そのためにもはやく見つけ出して生まれてきたことを後悔させてやらなくちゃ。

殺してやる殺してやる殺してやる。

殺してやる………










「長恨歌」第四十一話 弾正尹・藤原融










「弾正尹の気持ちはわかる。けれど今はその時ではない。」

姉さんの生まれ変わりを見つけたと。姉さんだった記憶もちゃんと持っていて、容貌こそ変わっているものの声は変わっていない、間違いなく僕の姉さん……藤壺女御様だとご報告した僕に、主上がおっしゃった。

「弓削是雄を見つけ出すまでは安心できない。今は遠ざけていた方が賢明だ。」

主上のおっしゃることももっともだった。黒幕かもしれない男を見つけだせていない以上、姉さんを再び後宮へ連れてくることは、姉さんを危険にさらしかねない。今上帝のおわす後宮が本来であればどこよりも安全なはずの場所なのに…。

「ならば女御様の生まれ変わりだということも徹底的に隠すべきですね」

「………」

姉さんを見つけた喜びと、発覚した黒幕かもしれない男の存在に高揚していた僕は気づかなかった。
主上に感じた、違和感に。
気づかなかった。

今すぐにでも会いたいと、姉さんを連れてくるように、いや自ら会いに行こうとされるだろうと予想していたのに、予想外に冷静な主上に、行方の知れない男の存在が発覚したせいだと思い込んだ。
遠ざけようとするのも守るためだと疑わなかった。

僕は知らなかったんだ。

主上が、姉さんの転生を信じていないことを。
信じている僕の心に気遣って一先ずは否定をせずに流したことを。
僕を見つける瞳が、哀しく細められていたことを――。

「神の加護か…そんなものがあれば、瑠璃姫は死ななかったはずだ……」

小さく囁くように呟かれたお言葉は
この時の僕の耳には届かなかった。










中務少輔とはどんな人間か、と主上に聞かれた。
それに僕は

「僕達と同じ種類の人間です」

と答えた。
僕の答えを聞いた主上は少し考えて

「ならば信じるに足る人物であろう。任せてみよう」

とおっしゃった。
守弥はこれから主上に厚遇されるだろう。守弥の頭脳も合わせれば高彬なんてあっという間に追い越す出世をするはずだ。

僕は高彬を見限った。
最初から、期待しすぎたんだ。離縁済みの姉さんのことなんて、高彬にとってはそれほど大切じゃなかったのだろう。幼馴染の情がもっとあると思っていたのに。

高彬も初めは哀しんでいた。離縁したとはいえ姉さんとの仲は良好だったし、お互い新しい結婚生活を送っていた。その姉さんの死に、僕らと同じく激しく泣いて嘆いたことは憔悴しきった僕と変わらない姿を見た時にわかった。
けど、

「もうやめよう。…やめるんだ、融……お前はそんなことする人間じゃないだろう…」

姉さんの死から時が経つにつれ、変わらぬ怒りを持ち続ける僕らと違って、
高彬は冷静さを取り戻していった。
立ち直って、怒りを忘れて、姉さんを貶める発言をした人間を徹底的に処罰する僕を止めようとした。

「瑠璃さんは死んだ。もう…戻ってこないんだ……忘れた方がいい…」

あの時はかっとなって、そんなことを言う高彬が許せなくて、
怒鳴りつけて掴みかかった。高彬は抵抗しなかった。
そんなものかと思った。高彬の姉さんへの情はそんなものかと。あれだけ姉さんに助けられておきながら……っ!

「瑠璃さんは復讐を望むような人じゃないだろう!?融っっお前だって知ってるはずだ!!」

「だから何だ?!そんなこと知ってるさ!当たり前じゃないか!姉さんはお人よしなくらい人がいいってことくらい!!だけど僕が許せないんだ!許すつもりも必要もないっっ!!」

僕らと高彬の考えはとことん違った。
高彬は僕らのすることを間違っていると否定するし、僕らには諦めることができる高彬の気持ちを理解することができなかった。
決定的な決別になったのは、あの言葉だ。

「瑠璃さんのためには一刻も早く……平穏を取り戻すことだよ。黒幕探しなんてやめるんだ。そんなことをしても…意味はない。」

信じられなかった。
これが幼馴染の言う言葉か?
姉さんが殺されたというのに、理不尽に命を奪われたというのに
犯人探しよりも宮中に落ち着きを取り戻すことの方が優先だって?!

「そうか……わかったぞ、高彬」

「何がだ?」

だから僕は嗤った。
わざと、煽るように、思ってもいない言葉を投げかけた。

「右大臣家が絡んでいるんだろう?だから早く忘れさせようとしてるんだろう?!」

高彬は激しく否定した。

「なっ…?!そんなわけないだろう!!!融!!!本気でそんなこと…っ僕を疑っているというのか??!!」

「さあ、どうだろうね。けどその様子を見るとあながち間違いでもないんじゃない?」

「融!!!」

誓って僕も右大臣家も瑠璃さんの事件には関わっていない!と。
高彬は叫んでいたっけ。

それから、僕は宮中で会うたびに物言いたげに僕を見つめる高彬を無視するようになった。

その点煌姫は違った。姉さんに頼まれて金銭的援助を続けていたけれど、姉さんの死を知った煌姫の動揺と怒りは凄まじく、高彬のように風化するこはなかった。

「あなたの大切な姉君が殺されたのですよっっ!!わたくしの親友が…瑠璃姫が!ええ、ええ!絶対に許してはいけませんわ!!」

高彬とは決別した。
ちくりと少しだけ痛む胸に、気づかないふりをして。

でも、姉さんが死んで三年後
右大臣家を辞めて出仕するようになった守弥に会って後悔なんてなくなった。

「融様。私は瑠璃姫の死に納得しておりません。」

守弥は僕を真っ直ぐ見つめて言った。

「そうか…お前の気持ちは三年前と変わらないんだな。」

「ええ。一分も変わりありません。今でも……犯人をこの手で殺してやりたいと思っております。すでに断頭台に立った後で口惜しい限りです。」

姉さんが死んだ直後、守弥は何度か三条邸に僕を尋ねてきた。
事件には裏があるはずで徹底的に調べるべきだと。瑠璃姫を殺した犯人を決して許すべきではないと。
だけど当時の僕にはまだ力がなかった。主上も怒りで冷静ではなく、父さんも姉さんを喪った哀しみでそれどころじゃなくて。結局、一日も早く事件の幕引きを図り政治を正常化し宮中を落ち着かせようと動いた右大臣家を始めとする高位貴族達によって疑わしい者達全員を処罰することで姉さんの事件は過去のものにされてしまった。

主上と僕が姉さんを貶める発言をする人間を許さないのも、その中に事件の関係者がまだいるかもしれないと思ってのことだ。公な捜査は終わったけど、僕達の中ではまだ終わっていないから。
守弥は何度も右大臣様と高彬に訴えたけれど、聞き入れてはもらえなかったと。
だから右大臣家を辞めて大した出世は望めなくとも自ら動くために出仕を決めたのだと。守弥は言ったのだ。

その守弥に会いに中務省を訪ねる。
守弥は十数年も使われていないような空部屋にこもり書物を一心に読んでいた。

「何かわかった?」

「っ弾正尹様…」

「融でいいよ。」

僕が入ってきたことにも気づかないくらい守弥は熱心に調べていたらしい。
今は書物置き場になっているというその部屋は埃っぽくて薄暗い。天井まで積み上げられた書物の数は床の底が抜けそうなほどだ。

「この部屋が、例の…?」

「はい。かつて弓削是雄が使っていた部屋です。研究していたものは残っていませんが、読んだと思われる書物は残っていますので目を通しております。何か手がかりがあるかもしれません。」

ものすごい量の書物だった。
けど、守弥は諦める様子はない。そのことがやっぱり僕らの仲間だと、口元だけで笑んだ。

「さすがだね。頼りにしてるよ。」

「書物をよく観察すれば、開き癖というものがあります。読んだ形跡というものは、癖までついていなくともよくよく見ればわかるものなのです。」

「弓削是雄が読んでいた箇所がわかると?」

「恐らくですが。書物のよれ具合などからも読んだものと読んでいないもの、何度も開かれた箇所とそうでない箇所と区別をつけられます。」

「そこから奴が何を研究していたのか調べるんだな。」

「はい。私は頭脳専門ですので。弓削是雄の行方は融様方にお任せいたします。」

「ああ。…ところで、守弥。守弥には教えておくことがある。知っているのは主上と僕と、藤宮様と秋篠権大納言様だけだ。本当に信頼できる人間だけ。高彬にも言うなよ。」

守弥には教えてやらなくちゃ。
守弥は僕らと同じく、姉さんを忘れていない人間だから。

きっと驚いて、泣いて喜ぶはずだ。


そう、僕と藤宮様のように。


望むならすぐにでも引き会せてやろう。



姉さんの、生まれ変わりに―――……。





続く


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雪 says..."蘭さま"
コメントありがとうございます。
PCは回復しませんでしたがようやく、中古のPCを入手しまして活動再開できます。
鷹男語りはですね、「螺旋の檻」の時もだったのですがあえて避けてます。なんとなく、鷹男は神秘性?を持たせたくて。
最終話近辺なら書くかもしれません。
2018.08.22 23:41 | URL | #- [編集]
雪 says..."ふにゃろば様"
鷹男がヒーローなはずなのに鷹男以外の人に次々と再会していってます…!
さてさて、守弥との再会シーンはしばしお待ちください。
秋篠との再会もありますよ♪
2018.08.22 23:37 | URL | #- [編集]
蘭 says...""
雪様

パソコンが回復しておめでとうございます。
今回の融はちょっと黒くない(o^^o)?
鷹男の考えも早く読みたいですねー
では
2018.08.12 12:41 | URL | #- [編集]
says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018.08.11 03:23 | | # [編集]

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