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沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第四十五話 秋篠権大納言

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拍手御礼小説掲載
わたしには目の前の女人が本当に藤壺女御様の生まれ変わりであるのかは判別できなかった。
そのままだというお声も、薄れつつある記憶は朧でわからなかった。けれど真っ直ぐにわたしに応対する姿はとても若い女房のそれではなく、主上のおっしゃるような我々を騙そうとしている者ならばわたしを前に多少なりとも構えるような態度をするはずなのに、彼女からは緊張も警戒も気負いも見えられなかった。幾ばくかの懐かしさの滲む視線からは、ただただわたしの用件に対する疑問しかないように見えた。










「長恨歌」第四十五話 秋篠権大納言










聡明な方だと思った。
わたしの迷いを悟ったように、彼女の方から先にそれを言ってくださった。

「どうかそのままで。今のあたしはあなた様に礼をされる身分にはありませんから」

「しかし…」

「あたしの方こそ、許さるまで面を下げていなくてはいけないのに…無礼をお許しください」

「女御様、」

「透子でけっこうです」

藤壺女御様として対面するならばわたしは平伏してお声がかかるまで待つべきであるし、
ただの女房として対面するならば平伏するのは彼女の方だった。
どちらの対応をするべきなのか、考えても答えは出なかったのだが、察したように先に彼女の方から「藤壺女御」ではなく「透子」だと対応を決めてくれたことに安堵した。

「大納言様にはお礼を言わなければと思っていたのです。あたしを探すきっかけを作ってくださって、ありがとうございました。お陰様で融に…弟に再会することができました。」

「……わたしのことは、覚えておられますか?」

透子様は目を細め、懐かしむように答えた。

「…吉野に文を届けてくださったのがあなた様でしたね。すみません、藤宮様に言われて思い出しました。」

「そうですか…」

「あの時はちょうど吉野桜が満開の時で…あたしは桜の花が散ったら帰京するとお答えしました。あの時は吉野までご迷惑をおかけしました。」

「いえ…」

藤壺女御様として入内して後も幾度かお話をさせていただく機会はあったが、
一番印象深く変わった出来事といえば確かに吉野への文遣いであり、わたしとの記憶といえばそれになるだろう。
やはりこの方は藤壺女御様なのではないかと思うと同時にこの程度のことならばどこからか調べて知ることもできるかもしれないとも思い、心が揺れる。

「秋篠権大納言様?」

呼ばれ、はっと我に返る。
そうだ、わたしがするべきことはこの方の正体を決めることではない。つい考えてしまう思考を追いやり、「透子様」と呼びながらも「女御様」としてのお話をするべく視線を向けた。
この方が本当に藤壺女御様ならばお会いしたかったし、お会いして主上の御心を救ってくださるようお願いしたかった。けれど今、わたしがすべきことは別にあり、お会いしたかったのも別の目的のためだ。

「お聞きしたいこととお話したいことがあります」

「何でしょう」

透子様も表情を引き締めた。

これは、きっとわたしにしか聞けないことだ。
この方を別人と断じる主上には考えもしないことであろうし姉と信じる弾正尹殿には傷つけたくない想いからできないことであろう。
けれどこの方が藤壺女御様の生まれ変わりで記憶を有しているのならばこの方以上に聞くべき相手はいない。それどころか、一番聞くべき相手なのだ。

「藤壺女御様にお聞きします。―――弓削是雄という男をご存じですか」

「……弓削…?是雄………?」

じっと透子様を見つめる。
透子様の表情からは困惑が見て取れた。
もう一度、問いかける。

「弓削是雄という名に心当たりはありませんか?」

あなた様を殺した男です、とは。
できれば言いたくない。

「…ない、と…思いますけど……」

「本当ですか?よく思い出してみてください」

面識がないのならば何故弓削是雄は藤壺女御様を殺すよう仕向けた。
何故藤壺女御様に興味を示したというのか。

「…覚えていません。誰なんですか?どうしてあたしに……」

「陰陽師だった男です」

透子様が眉を寄せる。
あえて疑問に答えず遮るように問いかけ続けたわたしに気づいただろうか。
少し考えこむ仕草の後、

「やっぱり知りません」

と透子様は首を振った。

「その男があたしに関係あるのですか?まさか―…」

藤壺女御様は聡明で勘の鋭い方であったと聞いていた。
この方が藤壺女御様ならばわからぬはずがない。この、問いの意味するところを。
透子様の顔色は青く、小さな震えが見えた。
悟ったはずだ。気づいたはずだ。

その男が、


過去の自分を殺したのだということを……―――。


「色白の美しい男だったそうです」

「色白はほとんどの方がそうですし美しいと言っても……………っっ」

「覚えがあるのですか?!」

透子様の顔色が変わった。
青から白へと、まるで体温を失ったかのような、底知れぬ恐怖を感じたかのように。

透子様は視線を彷徨わせながら、両手を己を抱きしめるように回す。

「……な、名前は………知りません……本当に、その人なのかも……………でも、一度だけ…」

「一度だけ?!」

「…違う。何度か…でも、数度ほどよ……それだけ………」

話をしたのはそれだけだと。
たった数度ほど、それらしき男と話したことがあると。

「綺麗だったから………吉野君みたいに綺麗な顔をしていたから覚えてる……最初は、助けたの。嫌味な公達に囲まれて困っていたから…見ていられなくて…呼んでる人がいるからって…声を、かけ、て…」

藤壺女御様が?
しかし透子様は違うと言った。

「その時は……女房の格好をしてて…御所を…歩き回ってたから……」

だから気安く話をしたのだと。
透子様は続けた。
"嫌味な奴ら、男のくせに嫉妬で絡んでくるなんてみっともない、あんな奴ら無視すればいいのよ。手を出してくるようならあたしが女御様に告げ口してあげるから。"
最初に話したのはそんな内容だったと。

「次は…確か、声をかけられて……お礼を言われて…」

「それだけですか?!」

「多分…もう一度くらい偶然会ったような気もするけど特に何を話したってこともなかったわ……でもどうして?!それくらいでどうしてあたしを?!」

「わかりません……」

透子様の悲痛な叫び声に
わたしは返す言葉を持たなかった。

多くのことがまだ、あまりにも不明瞭だった。

しかし接点があった。
藤壺女御様と、下位のいち陰陽師の間に接点が…!
やはり弓削是雄は女御様の事件に関わっている……!

「……………今のあたしにそれを聞くということは、その男の動機がわからないままだったからですか?それとももしかして………その男が、まだ……」

誤魔化すことは許されない
その時、わたしはこの御方が藤壺女御様であると信じると同時に
真実からご本人を遠ざけることはしてはいけないと感じた。

だから、お答えした。

誤魔化さずに、本当のことを。

「………はい。弓削是雄の関与がわかったのはつい先日のことで、弓削是雄は…十五年以上も前に消息不明です。」

「消息…不、明……」

わたしは平伏し
心からの謝罪の言葉を口にした。

「申し訳ありません。藤壺女御様……申し訳ありません…」

申し訳ありません。
許していただけることであるとは思ってはいない。
それほどの、罪だ。
これは、わたし達全ての臣下の、大きく重い罪だ。

「………大納言様、あたしは……」

あたしは、あたしは…、と。
独り言のように透子様、いや、藤壺女御様は繰り返し呟かれた。

「あたしは……」



"あたしが自分で招いた死だったんですね"



愕然と呟かれた女御様の言葉が

あまりに悲痛に響いて


わたしの心を締め付けたのだった。





続く


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雪 says..."ふにゃろば様"
はい、秋篠の用とは犯人についてのことでした。
でも次話で鷹男についても語られますので…もう少々お待ちくださいませ。

やっと鷹男が透子の存在を知ることとなりましたが一筋縄ではいきそうにありません。まあ、簡単に信じられるようなことではないですからね。そこをどう瑠璃が頑張るか、にかかってくるかと。。書くの難しそー(汗)!!
2018.09.01 13:17 | URL | #- [編集]
says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018.08.31 00:47 | | # [編集]

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