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沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第四十六話 秋篠権大納言

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お話するべきではなかっただろうか…。

衝撃を受けた様子の女御様を見て、心の中で自問自答する。
この上さらに女御様にとってお辛いお話をしなくてはならぬのに…。
だがお辛いのは藤壺女御様でありわたしではないと、その葛藤と苦悩を押し殺す。

長い間話し込んでいたわたし達を心配して場を外してくださっていた藤の大尼君様が戻って来られた。
これからお話しなければならない内容を考えると、大尼君様にお傍にいていただいた方が女御様にとっていいかもしれぬ。そう判断して、わたしの方から大尼君様にも弓削是雄のことをご報告する。弾正尹殿と同じ、さっと顔色が、いや、表情が、一気に冷酷な怒りを湛えたものに変わった。俯いたままの女御様は気づかない。隣に座る、大尼君様の変化に。気づいているのは正面に座るわたしだけだ。

表情だけで何をおっしゃりたいのかわかる。無言の目線の中のお言葉を受け取り、再び恐ろしさに震えそうになる身体を叱咤して、女御様に気づかれぬ程度に頭を下げることで答えた。
おそらく弾正尹殿も大尼君様も藤壺女御様には見せるつもりはないのだと直感していた。ご自分達の変化を、穏やかならざる顔を、冷酷な一面を。きっと、お二人は藤壺女御様にお見せになるつもりはない。

「……それで、」

やがてなんとか怒りを抑え込んだ様子の大尼君様が静かに、しかし冷たく響くお声で問いかける。

「秋篠権大納言殿はそのことを瑠璃姫に話すために会いたいとおっしゃったの…?」

お気持ちはわかる。
余計なことをと、わたしに対してもお怒りであろう。
だがこれはわたしにしかできないことですべきことと判断すればこそ。故に、大尼様の目を真っ直ぐに見つめ返し、肯定し謝罪はしない。

「はい。犯人を捕まえるために必要なことですので。このまま犯人が見つからないままでは…今の藤壺女御様にも安心してお過ごしいただけないでしょう。」

「……確かにおっしゃる通りね……………瑠璃姫、大丈夫?」

そこでやっと顔をあげた女御様の顔色はまだすぐれない。
しかし気丈にも無理に作った笑みを浮かべ、「平気です」と頷かれた。

「昔のことですし…今のあたしにはもう、無関係のはずですもの。」

「瑠璃姫…」

「しかし行方もそうですが動機がわかるまでは用心するに越したことはありません。主上のおっしゃる通り……透子様が藤壺女御様の生まれ変わりだということは少なくとも犯人が捕まるまでは隠した方がいいでしょう。」

「鷹男が?」
「主上が?」

女御様と大尼君様が同時に声をあげた。

「……はい。わたしの用件のもう一つは主上のお言葉をお伝えするため。主上は………主上は、"二度と藤壺女御様の御名を騙らぬように"と……そう…わたしに伝えるようにと…」










「長恨歌」第四十六話 秋篠権大納言










お二人の反応はわたしの想像していたものとは少しばかり違っていた。

「二度と騙るな、と…?」

「主上がそのようなことを?」

「はい…」

お二人はわたしの話に驚いた様子は見せたものの、思ったより冷静であった。

「藤の大尼君様と弾正尹殿に免じて一度はお許しになると。しかし……二度目はないと…。」

「鷹男が…」
「主上が…」

主上の闇は大尼君様や弾正尹殿よりも深いのだと感じた。それ故に、お二人のように信じることができないのではないだろうか。
微塵も信じる気などないといった様子の、氷のごとき冷たい玉顔を思い出す。主上には女御様の生まれ変わりへの興味や関心など全く感じられなかった。ただ淡々と、これまでと同じように、不届き者に対する処遇を決めるがの如く冷静であった。

「鷹男…あたしが偽物だと思っているのね…」

「主上はまだ瑠璃姫に会っていないのですから無理もありませんわ」

「………」

あの主上のご様子では直に会ったとしても信じていただけるかどうか…。
そんなわたしの心を読んだかのように大尼君様がわたしをじろりと睨んだ。

「大納言殿。あなた、それを聞いて何も忠言しなかったの?主上をお諫めするのも臣下の勤めでしょう!」

「申し訳ありません。藤壺女御様の件に関してわたしではなんとも…」

主上のあの冷気を浴びせられてそれ以上言うことができる人間などいるだろうか。
弾正尹殿や大尼君様にはわからないことではあろう。
それでもわたしが不甲斐ないことは否定できない。

「確かに、今は瑠璃姫だと公表するのは控えた方がいいでしょうし瑠璃姫の身の安全を考えれば隠しておいた方がいいのもしれませんわ」

「藤宮様、あたし公表するつもりは――」

大尼君様が吐息まじりに呟かれた。

「いいわ、わたくしが主上に文を送りましょう。わたくしは主上の叔母ですからね、叱ってさしあげますわ」

「藤宮様」

「おそれながら大尼君様、今はそれは逆効果になるかと。主上は頑なです。言えば言うほどに受け入れを拒否なされるかと。特に犯人が見つからない状況では……」

「ではどうしろというの!?」

「……申し訳ありません」

「藤宮様、あたしはいいんです。鷹男をここまで傷つけたのはあたしのせいなんですから。二度と瑠璃姫と名乗るなと言うのならそうします。あたしは今は透子であることは事実ですし、それを否定するつもりもないんです。」

「瑠璃姫…ですけど……」

女人は強い。
それも、宮家、皇家の方々は特に。
わたしはこの時、それを痛感させられた。

「だからあたし、透子として鷹男に会いに行きます。会いたいんです。瑠璃姫と名乗るなとは言われても会いにくるなとは言われてないでしょう?」

唖然とするわたしと対照的に、破顔した大尼君様。

「それでこそ瑠璃姫ですわ!もう一度鷹男を驚かせておあげなさいな。」

「え、いや…っ女御様!大尼君様!主上は二度はないと……っっ」

即刻打ち首とまで仰せであったのだ!
そんなことをすればどれほどお怒りになることか……!

「大納言様。たか…主上だけじゃない、あたし、姫宮にも会いたいんです。」

「女御様……」

「そうですわ。いくら主上といえど母子の再会を阻むなんて無粋というものですわね。」

「大尼君様っ」

いくら主上の叔母君の大尼君様といえど不敬ではないだろうか。
しかし焦るわたしなどお構いなしにお二方は微笑み合っている。

「となると問題はどうやって瑠璃姫を後宮へ送るかですわね…生憎今の瑠璃姫には身分が足りませんしわたくしは出家した身……」

「小萩…二の姫様が東宮様に入内する予定ではあるんです。あたしもそれについていく予定になっています。」

「けれどいつになるかまだ決まってもいないのでしょう?」

「ええ…」

「融様のご養女になってはいかが?そうすれば簡単に入内できましてよ。強引にでもまた主上の女御になってしまえばよいのです。」

「融の…?いや、それはさすがに…ちょっと……嫌、だなぁ…」

「この際手段は選んでいられませんわよ」

「う~ん…」

もうお二人は、わたしのことなど無視してああでもないこうでもないとあれこれ話を進めている。
わたしは止めることもできず、ただ茫然とお二人のやり取りを聞くばかり。
弾正尹殿の養女はともかく強引に入内などそんな容易なことではないというのに!

「秋篠権大納言。あなた、何を一人無関係とばかりに黙っているのです。あなたも案を出しなさいな!」

「っわ、わたしもですか?!」

「当然でしょう?最初に瑠璃姫の生まれ変わりを探そうとしたのはあなたでしょう!」

「そ、それはそうですが……」

「主上が御心を失くされたままでもいいというの?」

「っっ………」

「主上を救えるのは瑠璃姫しかおりませんのよ!臣下ならば、真に主上を想うならば、お怒りを恐れずに叱責覚悟で行動すべきでしょう!!」

「!!!」

「あ、大納言様。大納言様があたしを養女にしてくれるというのはどうですか?それとも大納言様の推薦で出仕するとか――」

できれば透子のままで養女は避けたいんですよね、と。
いっそ清々しいほどの笑顔で女御様がとんでもないことをおっしゃって。

「こうなったら逆に絶対に瑠璃姫だって言ってやらないんだから。鷹男が認めざるをえないほど透子のまま"あたし"を見せつけてやるわ」

「ふふふ、よろしいのではなくて?凝り固まった鷹男の頭をかち割ってやりなさいな」

「大尼君様っっ女御様!!」

どうやら『鷹男』というのはお二人にだけ許される主上の呼び名であろうと感じつつ、
それほどに主上が御心をお許しになられている二人だからこそこのようなことを楽し気に話されているのであろうが

いち臣下にしか過ぎぬわたしにはひたすらに恐怖を覚えるばかりの会話であり。

「わ、わたしは弓削是雄の行方を追わなくてはならないのです!!!」

「まあ、同時に二つの案件を抱えて大納言ともなると大変ですわね?」

「さすが主上の信頼の篤い大納言様ですわ」

その後、
いくらわたしが逃げようとしてもにっこり笑ったままの女人二人からは逃げられず、

「宴に紛れ込んでしまうのはいかが?」

「主上付きの女官になりたいです、あたし」

「そうねえ」

わたしは主上の命に背くことになりかねない企みに

手を貸すことになったのだった……。





続く


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雪 says..."几帳さま"
周囲を振り回しながら突き進んでいくのが本来の瑠璃ですよね。やっと瑠璃になった感じです。
逃げる?鷹男を捕獲するまで諦めない!頑張ってもらいます!
2018.09.04 23:10 | URL | #- [編集]
雪 says..."蘭さま"
ありがとうございます!
そうですね、シリアスな展開なのにコメディになってますね(笑)秋篠も真面目キャラなのに何故かいじられキャラに??
瑠璃は明るい性格が向いている、はっとさせられました。確かに、今回、泣いたり悩んだりで瑠璃の本来の良さというかキャラばぶれてるかも!!鷹男との再会後は軌道修正試みてみます!
2018.09.04 23:08 | URL | #- [編集]
雪 says..."ふにゃろば様"
そうそう、それです♪
鷹男にはいずれ、自分の発言の責任をとってもらいましょう(^^♪
そのためにも準備は万全にね!
やっと鷹男との再会シーンを書いているところです。お披露目まではまだもう少し、かな。
瑠璃パパとの再会を先にお楽しみくださいませ。
2018.09.04 23:05 | URL | #- [編集]
雪 says..."ハニーさま"
いざとなれば女の方が強いっていいますから(#^.^#)
いつまでも煮え切らない鷹男をぎゃふんといわせるために女達が動きます!
まだまだ再会させたい人もいるし事件のこともあるしで忙しいです。
養女云々は未確定事項です。最終的にはその手段をとるかもしれないけどとりあえず現状では透子のままで、と。
さてさて、仲間を増やし足場を固めて乗り込む準備を着々と進めます。
2018.09.04 23:03 | URL | #- [編集]
says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018.09.02 12:10 | | # [編集]
蘭 says...""
雪様

秋篠は可哀想ですね〜
ずっとシリアスなお話に今回はコメディーで気分がいいかも!
やっぱり瑠璃はこの明るい性格に向いてます。
2018.09.02 10:44 | URL | #- [編集]
says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018.09.02 01:18 | | # [編集]
ハニー says...""
更新ありがとうございます!

わぁ!
なんて楽しそうな悪だくみ(笑)
瑠璃姫も藤宮様も強い強い。

いよいよ、近づいて来ましたね。
瑠璃パパの養女になるかと思ってたんですが
そのままでいくんですね。

次回も本当に楽しみにしてますね!
2018.09.02 00:53 | URL | #- [編集]

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