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沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第四十七話 左大弁家二の姫付女房・透子(瑠璃)

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拍手御礼小説掲載
ガタガタガタガタガタガタ……

「………」

一人、左大弁家へ戻る牛車に揺られながら沈み込む。さっきは藤宮様に心配をかけたくなくてあえて明るく前向きなことを言ったけれど。
本当は、やっぱり、

「鷹男…」

悲しい。

会いたくて会いたくてずっと焦がれてきたかつての夫。あたしの存在さえ知らせることができたら会えるんじゃないかと思っていた。簡単に信じてもらえないことはわかってたはずなのに、融や藤宮様があまりにもあっさり信じてくださったから。だから、忘れそうになっていた。今の自分は瑠璃姫ではないことを。鷹男の帝とは会うことなんかできるはずもない身分の差があることを。
鷹男が今でも瑠璃姫を忘れていないことを知って期待してた。もう一度あたしを、今のあたしを求めてくれるんじゃないかって。

だけど鷹男は否定したと。

あたしは瑠璃姫じゃない、不要だと――。


瑠璃姫じゃない透子はいらないって……。


「…っ……、たかお…っっ」

間違っていたんだろうか。
間違えたんだろうか、あたしは。
瑠璃姫だったことは過去のことと割り切って、透子としてだけ生きればよかったんだろうか。
上京なんかしなくて、大人しく近江で暮らしていればよかったのだろうか。父の選んだ婿を迎えて、母と静かに平穏に暮らせることに満足していれば、こんな気持ちにならずにすんだのだろうか…。

ガタンっ

牛車が止まった。左大弁家に到着したんだ。
滲んでいた涙をぐっと拭って牛車を出ようとしたところで牛飼いから声がかかった。

「あの…どなたかが……」

「え?」

小窓を開け外を見る。
牛車は左大弁家の少し手前で止まっていて、その左大弁家の門の前に佇む公達の後ろ姿があった。

「…お名前と用件を尋ねて。」

小窓を閉め、確認を任せることにした。
邸の前で待っているということは左大弁様の客人ではないはず。約束もしていないのだろう。そもそも身分のある方なら約束もせずに訊ねてくるということはあり得ない。後ろ姿からはそれなりの年齢の公達に見えたけれど…女房の誰かの恋人だろうか?

「透子様。あの、」

「どうしたの」

小窓は開けず、閉めたままで尋ねる。

「透子様を訪ねてこられたそうです」

「…あたしに?」

「弾正尹様に聞いてきたと伝えてほしいと―――」










「長恨歌」第四十七話 左大弁家二の姫付女房・透子(瑠璃)










まさか彼にまで再会できるとは思っていなかった。融が伝えたということだけどどうして?いつの間に二人は交流を?昔は顔見知り程度だったと思うのだけど…。また十八年という時の流れを感じた。


"守弥"


声に出さず、心の中だけで呼びかける。

変わってない…。

静かな佇まい、渋さのある端正な顔立ち、厳しさを感じさせる眉間の皺。
すっかり歳をとっているけれど、それが渋さに磨きをかけた感じで彼の魅力的を損ねてはいない。
高彬の傍で今も右大臣家を取り仕切っているのだろうか。融はどうして、高彬ではなく守弥に?会いにくるのが高彬と守弥ではなくて守弥だけなのは何か理由でもあるのだろうか?

「透子はあたしですけど…」

藤宮様に出していただいた牛車はお返しして、門の前で守弥に向き合った。
守弥は無言のまま、ただじっとあたしを見つめていた。

「貴女が……?」

「ええ…」

「……………私のことを覚えておられますか……?」

守弥は無表情だった。
でも、何故なのだろう。
その瞳が、泣きそうに揺れているように見えたのは。
まるで迷子の子供が親を見つけた時のような――。
あたしは自然と、微笑んだ。


「―――もちろん覚えてるわ。高彬命の守弥。それとも、記憶喪失の峰男と呼んだ方がいい?」


守弥がたじろぐ。

「まさか……本当に………そんなことが……」

「うん。あたしが知ってる守弥ならこんなこと簡単には信じないわよね。煌姫は案外あっさり信じてくれたけど。」

「煌姫もご存じで?!」

「あそこまで強烈な姫は忘れようにも忘れられないでしょう」

"信じられない"
思わず、といった風に零れた守弥の呟きはとても小さかったけれど何故だかあたしの耳に届いた。
半信半疑なのだろう。完全には信じていないのは雰囲気から伝わってくる。
それでも…

半分は信じてくれるのね…。

全く信じていないのだろう鷹男のことを思えば、半信半疑でも嬉しかった。

「っっ…泣いて…?!」

「ごめ…嬉しくて……っ」

そんなつもりはなかったのに、また涙が滲んできた。生まれ変わって以来、泣くことが多くなっている気がする。
視界の端に慌てる守弥の姿が見えていつかの吉野での思い出が蘇る。あの時も、吉野君を想って泣きついてしまったあたしを、守弥は黙ってそのままにしてくれたんだっけ。不器用な守弥は上手な慰めの言葉なんかくれなかったけど、ただそのまま泣かせてくれただけで充分だった。

ゆっくりと、伸ばされてくる手が見えた。

「守弥…?」

迷いの見える、それでも伸ばされた手はあたしの頬にふれた。
その指が、濡れた頬を拭う。

「瑠璃姫らしくありませんね」

「……今のあたしは透子だもの。でも…瑠璃姫だった頃だって、泣く時は泣いていたわ。守弥だって覚えがあるでしょう?」

くすりと笑ってみせる。
守弥の身体が震えた。

そういえばあの頃の守弥はあたしが"大声出すわよ"と脅さなきゃなかなか近くに来なかったのに、透子のあたしを信じ切れていないせいなのか、今の守弥との距離は近い。これも、十八年の時のせいとでも言えるのかしら?それとも今のあたしがただの女房だから?

「貴女は…」

「ねえ、それより聞かせて。融からは何をどこまで聞いてるの?どうして融は守弥にあたしのことを?守弥は今も高彬の傍にいるの?」


「透子殿」


その時だった。

「そこで何を――?」

話に夢中になっていたあたしは気づいていなかった。いつの間にか、あたし達の傍に牛車が止まっていたことを。
その中から降りてきた公達が、あの頃守弥が仕えていた高彬と同じ官位の、

「右近少将様………」

かつての涼中将様のご子息だったことを。

近くまで歩いてきた少将様に声をかけられて初めて、その存在に気づいたのだ。

「近頃忙しくしていると聞いていたのですが……この男は?」

「あ…え、っと……」

どう答えていいか戸惑ってちらりと守弥を覗う。
守弥は至って冷静だった。

「中務少輔の大江守弥です。」

「中務少輔…?」

「はい。そちらは右近少将様とお見受けしますが」

「そうだが…わたしを知っているのか?」

その会話で、守弥が今中務少輔だと初めて知った。てっきり今も高彬に仕えているのだとばかり思っていたから驚いた。自分の出世には興味ないと聞いていたのに…いつ出仕するようになったのだろうか?
官位としては右近少将様の方が上になるから守弥の方がずっと年上ではあるけれど、そういう対応をしている。

「…まだお小さい頃に。私は以前、右近中納言様にお仕えしていましたので。」

「叔父上の?」

「はい。右大臣家で長い間家司をさせていただいておりました。」

少将様が驚いている。

「そういえば……覚えがあるような…そうだ、優秀な家司が辞めてしまって困るという話を祖父から聞いたことがある…」

「勿体ないお言葉です。前右大臣様には随分とお世話になりました。」

「そうか……大江…守弥……」

「はい。」

ああ、そうか。少将様は高彬の甥になるんだ。そっか、それで…。
右大臣家を取り仕切っていた守弥だから、少将様の母の聡子姫様とも父の涼中将様とも面識があって当然だわ。
少将様があたしを見た。

「何故、透子殿が中務少輔と?見たところ随分と親しいようですが」

どこまで見られていたのだろう。会話までは聞かれていないと思うけど。
傍目から見たら親子ほどに歳も身分違うあたし達は親しくしているのはさぞかし不自然なことだろう。恋仲と見るにも、無理がある。

「それは……」

困った。
そういえば右近少将様に会うのはしばらくぶりだけど上手い説明も言い訳も思いつかない。というか少将様に言い訳をする必要はないのだけど。何だか恋人に浮気現場を見つけられたみたいな変な空気があって居心地が悪い。
濡れ衣だ!


「求婚していたのですが、何か?」


「は?!」
「え?!」

「少々歳は離れていますが問題はないでしょう。」

いやあるよね?!
色々と問題ありまくりよね?!
ていうかいつ求婚されたっけ?されてないけど?!

守弥ったらいつの間にそんな冗談が言えるようになったのよー!

堅物だった守弥が別人なんですけど?!

見れば守弥はしれっと真面目な顔で大嘘をついている。
一方少将様の方はといえば驚きが正直に顔に出ている。無理もない。

「透子殿……真ですか…?」

「いや…その…えっ~と……」

圧が!
守弥から無言の圧が!!

「その…なんていうか……」

話を合わせろという圧力が……っ!
気のせいと思いたいけど多分きっと気のせいじゃなく感じるー!

「…そうか。しかし透子殿に求婚していたのはわたしの方が先だ。」

そうだったーーー!!
小萩や融や藤宮様や煌姫との再会ですっかり忘れてたーーー!!!

あたしを挟んで、二人の公達が向かい合う。

何これ何この状況!

「ですが選ぶのは透子殿です。」

「わたしの方が相応しいと思うけどな。歳も近いし官位も上だよ。」

「今の透子殿に身分が近いのは私の方です。身分違いの結婚は上手くいきません。」

「必ずしもそうとは限らない。」

「そうですね。………私もそう思えればよかったのですが。」

「どういう意味だ?」

「さあ」

気まずいっ

すっごく気まずいっ
あたし何にも悪いことしてないのに責められてる気がするのは気のせい?!

「「透子殿」」

二人があたしを見つめる。

「なんでしょうか……」

「「ゆっくりお話を聞かせていただきたいのですが。」」

重なる声が恐ろしい。
仲いいな!じゃなくて!!

「私が話していたところだったのですが」
「今度はわたしの番だ」

「~~~っっ……申し訳ありません!!二の姫様が心配されていますから今日のところは!」

こうなれば逃げるが勝ちよ!
悪い?!
だって仕方ないじゃない!前世も今世も、こんな状況なったことないんだもの!

「あっ、透子殿!」
「る……っ、透子殿」

引き留める二人を振り切って

あたしは走って

左大弁家の門をぐぐり邸の中へ逃げ込んだのだった。





続く


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雪 says..."ふにゃろば様"
鷹男×瑠璃姫のつもりで書いているのに…変更したほうがいいんじゃないかと思い始めてけっこう経ちます(-_-;)
鷹男と再会さえすれば!鷹男×瑠璃になるはず!と思いながらここまできました。
守弥の求婚は最初から入れるつもりだったんですよ♪私守弥も好きなので♪おっしゃるとおり、身分や立場の壁がなくなってますからね!アリだとwww
2018.09.09 16:59 | URL | #- [編集]
雪 says..."ハニーさま"
守弥のこれは連載当初から考えていたことなんですよ!やっと書けた!
今の身分がそう高くないという点をいろんな角度から利用していきたいなと思ってのことなんですよね。
もちろん私が守弥びいきだというのもありますが(#^.^#)
守弥とのくだりその他も…また書くつもりですよ!これで終わるわけにはいかないですもんね~。
鷹男の出番もそのうちじっくり…たっぷり時間をかけて書くつもりです、はい。
2018.09.09 16:05 | URL | #- [編集]
says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018.09.07 20:41 | | # [編集]
ハニー says...""
更新ありがとうございます。

なんかめっちゃ面白いことになってるーー!
守弥、ここぞとばかりにグイグイきてますね?
もっと守弥とのくだりを読みたいっ!!
くーーー、読みたいものだらけで
本当にこのお話には困ったものです!!
2018.09.05 23:57 | URL | #- [編集]

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