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沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第四十九話 左大弁家二の姫・柊花(小萩)

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あの男の正体を、知る女房はほとんどいなかったでしょう。
わたくしが知っていたのも、調べたからに過ぎません。でなければ数多居る天上人の中のたかだかいち陰陽師のあの男を、知っている女房はおりません。よほど有能で有名な方でもない限り。わたくし達の間では一括りにただ"陰陽師"とだけ。
結婚相手になりえる相手しか、ほとんどの女房達は興味がないのです。陰陽師は天上人とはいえ下位ですから…結婚相手に考える女房はいないのです。

「どうして……小萩が知ってるの…?」

わたくしの方こそ、何故あの男の名が今になって姫様のお口から出てきたのか、
あの男の名など不快なだけというのに。

わたくしは嫌悪を隠さずお答えしました。

「姫様をお守りするためにそういう男の情報は常に得るようにしておりましたから。万が一にでも姫様に変な男を近づかせないように気を付けていたのです。あの男は、女達の間を渡り歩く女の敵でしたわ。あまり派手なことをしていませんでしたから知る者は少なかったでしょうけれど。」










「長恨歌」第四十九話 左大弁家二の姫・柊花(小萩)










美しい男でございました。女人の如き白い肌に美しい顔立ちは多くの女を虜にしておりました。無口な男だったそうで、自分の話はしないのに、女達の話には熱心に耳を傾け愚痴にも近い話をよく聞いてくれるそうでございます。女という生き物は、殊に話すのが好きな生き物で、溜め込んだ鬱憤を話すことで発散するものですから、熱心に話を聞いてくれる男の存在は、女達によって窮屈な後宮生活の拠り所になるのも無理ないことでございました。美しい容貌以上に、そのような点が女達の心を掴んでいたのだと推察します。とはいえ己の正体を明かさない男を結婚相手にとまで考える女は少なかったのではないかと思うのですが。

夜も更けた頃、ふらりとやってくる男を、昼間御所で見かけた者はほとんどおりませんでした。男は気まぐれに、決まって夜深い時分にだけ、女達の元へやってきていたようでした。
わたくしがその男の存在を知ったのは、あろうことかこのわたくしにも、あの男は声をかけてきたからです。わたくしは女御様にお仕えする女房ですから、自分の恋人でも安易に受け入れることはしません。女房を通じて姫様を、などと不届きなことを考える輩はいますから篭絡されないよう厳しく自制していたのですわ。ですから、わたくしはわたくしに声をかけてくる殿方にはまず警戒から入ります。身元を念入りに調べ、背後関係などないか、目的に裏はないかなど、慎重に調べた上で、本当に信用できると思える殿方しか受け入れません。あの男に声をかけられた時も、わたくしはまず怪しみ、男の身元を調べた結果、男がわたくしだけではなく多くの女達に声をかけ通っていたことがわかったのです。

「あのような男は何をしでかすかわかりませんから。徹底的に姫様から遠ざけました。」

あの男と通じているらしき女房を見つければ、それとなく姫様の傍から離し、局の女房達には女御様のことはどんなことであれ他言無用で破れば厳しい罰を与えると厳命しました。長年姫様にお仕えしていたからでしょうか、女房の勘というものですわね、あの手の男は危険だと感じたのです。

「全然知らなかった…」

「姫様にお話しするほどのことではありませんでしたから。姫君にお仕えする女房にとっては常識ですわ。」

妙な噂の多かった瑠璃姫様ですから、入内前はさほどそういう心配をする必要はありませんでしたけれど、高彬様とご結婚された後は噂も落ち着いて時折妙な輩が沸くこともありましたから姫様をお守りできるよう気を付けておりましたし、高彬様と離縁された後から入内が決まるまでは特に日々気を張っていたものです。

「さすがに女御様に不埒なことを考える者はいないのでしょうけれど万一ということがありますから。ですがどうして今になってあの男のことを?」

わたくしの知る限り瑠璃姫様とあの男に接点はなかったはずですし、第一十八年も前の、わたくし達が藤壺女御様と小萩だった頃のことですわ。どうして今になって、透子になった姫様からあの男の名が出るのでしょうか?

「それは……」

歯切れが悪く、言葉を詰まらせる瑠璃姫様。
こんな時は大抵、何かがある時でございます。

「…姫様。わたくしは昔から、瑠璃姫様の身に起きたことを後になって知ることが多ございました。わたくしはいつも、そのことが悔しくて悲しくて……寂しゅうございました。」

「小萩…」

瑠璃姫様の腹心の女房という自負が、童の頃から姫様にお仕えしているわたくしこそが誰よりも瑠璃姫様のお傍にいて瑠璃姫様のことを知っているという自信が、そんな時は打ち砕かれ切なくなったものでございます。仕方ないことと、理解はしていても。
全てを知りたかったわけではありません。隠されることが嫌だったわけではありません。ただ…
瑠璃姫様の危機の時に、何も知らず何もしていなかった自分が……
口惜しくてならなかったのです。

「…実はさ、三回くらいかな?あたし、その男と話したことあったんだよね。話したっていってもほんの二、三言くらいだったし覚えてなかったんだけど……。そもそも、名前も知らなかったしね。」

「まあ!いつの間に?!」

驚きました。あれほど姫様に近づかせないように気を付けていたのに!

「はは…ほら、あの頃、時々女房に化けてたじゃない?その時にちょっと、ね…」

「だからおやめくださいと何度も!」

何が起こるかわからないのですから!
仮にも瑠璃姫様は主上の寵姫で女御様でしたのに!
全くうちの姫様ときたら!女御様になってもちっとも大人しくしてくださらなかったのですから!

「前世のこと!前世のことだよ小萩!今頃怒らないでよ!十八年も前のことで!」

「何故わたくしに教えてくださらなかったのです!」

わたくしは前のめりで瑠璃姫様に問いただしました。

「名前も知らなかったって言ったじゃない。二、三言挨拶した程度のことをいちいち話さないわよ。」

「何もされなかったのですか?!」

「されてない!されてない!…………と、思ってたん、だ、けど……」

「姫様…?」

また、瑠璃姫様の歯切れが悪くなり、
その表情が暗くなりました。
よもやわたくしが知らなかっただけで、瑠璃姫様ご自身もお忘れになっていただけで、あの頃、瑠璃姫様はあの男に何かされていたというのでしょうか?
おぞましい想像にわたくしの顔も青くなってゆくのを感じました。

そうです、当時男の名も知らなかったという姫様が、何故今になってあの男の名を知ったのでしょうか?どこから、いえ誰から、瑠璃姫様はその名を知り男の存在を思い出したのでしょうか?理由が、あるはずでございます。

「…ねえ、小萩。自分の知らない間に誰かの恨みを買っていたとしたら……知っても理由がわからなかったら…」

“どうすればいい?”

瑠璃姫様のお顔は
今にも泣きそうに歪んでいました。

「思い至らないのよ………どうして……」

どうして?
あの男が瑠璃姫様を恨んでいたと?
今になってそれを聞いたと、そういうことなのでしょうか?

「あたし……それほど無神経な人間だったかなぁ?小萩…あたしは……藤壺女御はそんなに酷い人間だった?」

「っ!そんなはずがありません!!!」

咄嗟に、わたくしは強く、大きな声で否定しました。

「瑠璃姫様は、藤壺女御様は無神経な御方でも酷い御方でもありませんでした!!」

何故姫様がそのように思い詰めるのかはわかりません。
けれど、例えご自身であってもあの頃の瑠璃姫様をそのように思ってほしくなくて、
わたくしは強く否定しました。
あの時の、理不尽に主の命を奪われた時の怒りが、蘇るようでした。

「恨んでいるというなら、それは逆恨みでしかありえません!瑠璃姫様は、姫様は…っっどんな相手でも傷つけることを厭う、助けようとする御方だったではありませんかっ!!逆恨みは、するほうが悪いのです!おかしいのです!!瑠璃姫様が責任を感じることはないのです!!!」

当時、主上の寵愛を一身に受ける瑠璃姫様を羨む女は多くいました。それは当然のことで、仕方のないことでもあった。
けれど瑠璃姫様は内大臣家の姫君で誰をはばかる必要もないご身分でした。故に、羨みはしても妬む人間などいるはずがなかった。

けれど…

実際には、多くの女達が瑠璃姫様を妬み、害されるのを期待していたのだから後宮の女というものはなんと愚かで罪深いのでしょうか。そうとも知らず瑠璃姫様は、ご自分を逆恨みする女達のためにどれほど心を砕いていたことか。

「小萩……」

「人というものは愚かな生き物です。どれほど素晴らしい相手でも、恨む人間は恨むのです。そんな相手に申し訳なく思う必要などありません。」

断言したわたくしに、

“ありがとう”と小さく呟かれた瑠璃姫様。


そしてあの男が十八年前、


瑠璃姫様に何をしたのか、


わたくしも初めて、



知ることになったのでございました…―――。





続く


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雪 says..."ハニーさま"
じれじれさせたい!と思って書いてるわけではないのですが(^^ゞあのネタも書きたい、このネタも書きたい、あの伏線を回収しなきゃ、とかやっているうちに進展がノロノロな亀になってしまっています。
各キャラ語りにさせると本当に長くなる!ずっと誰か一人の視点で書くと中編できるのにな~。


弓削の動機はいずれまた(まだそこまで書いてない)。
2018.09.16 01:02 | URL | #- [編集]
ハニー says...""
更新ありがとうございます。

彼は、恨んでいたのではなく、
きっと愛しすぎたから、なのでしょうね。

うーん、でもまだ当時の状況が全然見えてきません。
歯がゆいですが、この丁寧にじっくりとそれぞれの
描写を書き込んで頂くからこそ、雪様の作品は深みが
愛って面白いのですよね。

焦れ焦れさせられながらも、お楽しみを先延ばしに
されることに快感を覚えてきました。
次は誰のだーんだろう。
更新を楽しみにしていますね!
2018.09.11 20:23 | URL | #- [編集]
雪 says..."ふにゃろば様"
腐れ外道!!
いいですねそのフレーズ(笑)(笑)
なんかツボwww
どっかで使いたいなあ~!
2018.09.11 00:51 | URL | #- [編集]
says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018.09.10 01:26 | | # [編集]

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