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沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第五十話 先々帝皇女・藤の大尼君(藤宮)

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拍手御礼小説掲載
「よい手を思いつきましたわ」

わたくしはにっこりと、秋篠権大納言殿に微笑みました。
大納言殿は何故か頬を引きつらせ、「何でしょうか」と問う声は気のせいか震えているように聞こえました。

「瑠璃姫をあるべき場所へ戻す方法ですわ」

そう答えると、
「やはりそのことですか…」と小さな呟きが溜息と共に零れます。

「主上がわたくしを哀れんで透子という女房を見逃すというのなら、それを利用すればいいのですわ。」

「え……」

「弾正尹殿も引き込めば尚良いですわね。わたくし達の心を想う主上は、否定なさらないでしょう。」

「ど、どういうことか…お聞きしてもいいでしょうか…?」

知りたくはないけれど聞かずにはいられない、と。
幻聴なのかそんな大納言殿の心の声が聞こえてくるように、
大納言殿はわたくしに説明を求めました。

でしたら教えて差し上げましょう。
大納言殿は大切な大切な、協力者ですから。
一人のけ者にはできませんものね。

「先日、弾正尹殿とも相談したのですわ。」










「長恨歌」第五十話 先々帝皇女・藤の大尼君(藤宮)










主上が瑠璃姫の転生を信じていなことを、融様はご存知ありませんでした。融様は直接主上にご報告したけれど、今はその時ではないとだけで、まさか信じていらっしゃらないとはわからなかったそうでございます。

「てっきり姉さんの身の安全のために黒幕を見つけるまでは遠ざけていた方がいいということかと思っていました。」

「主上は融様には否定されなかったのですね?」

「はい。二度と姉さんの名を騙るなとか許さないとか…そんなことは一言も。」

「………」

思えば、大納言様の話は“透子”にだけ伝えるつもりだったのかもしれません。その場にわたくしも同席することを、主上は考えていらっしゃらなかったのかもしれません。わたくしも最初から同席するつもりはありませんでしたし流れでそうなっただけでした。わたくしにも話を聞かせたのは大納言殿の判断ですけれど、主上から止められていたわけではないでしょう。融様には一見信じているようにお答えになったということは、わたくしにも否定するおつもりはなかったはず。であれば、大納言殿に口止めするべきでしたでしょうに…

やはり主上も動揺はしていますのね。

うっかりわたくしへ口止めするのを忘れるなんて。
無理もありませんわ。瑠璃姫のことですもの。否定はしても動揺はなさったのでしょう。

ならばわたくしも、主上が信じてくださっていると、そしらぬふりをするべきでしょうか?

「…主上は、瑠璃姫はただ一人だと。生まれ変わりなどありえないと、そうおっしゃったそうですわ。」

「!そうですか……お気持ちはわかります…。」

「ですが透子は瑠璃姫ですわ。」

主上がどれほど否定されようと、信じないとおっしゃっても事実です。
ですから主上のためにもわたくしは瑠璃姫を瑠璃姫のあるべき場所へ戻さなくてはなりません。

「主上は僕達を案じて信じたふりをしてくださったのですね…。」

「…わたくし達には“鷹男”のままですわね…。」

おそらく、
主上はわたくし達が再び傷つくのを案じてくださったのでしょう。瑠璃姫を喪って深く傷ついたわたくし達が、生まれ変わりを見つけたことで歓喜しているのを、否定することで悲しませたくないと思ってくださった。お優しい、あの頃のままの“鷹男”が、今の主上の中にも確かにいるのです。

「藤宮様。僕たちはどうすればいいでしょう?主上の御心に気づきながらどんな風に…」

わたくしは少し、考えてから答えました。

「主上の御心遣いを無下にはできませんわ。」

「ということは、信じていないことは知らないふりを?」

「融様が言葉を尽くしても阿闍梨殿や大納言殿の話を聞いても、主上は信じないのでしょう?これ以上何ができまして?」

「それは…そうですが…」

「できることは、一日も早くお二人を再会させて差し上げることだけですわ。一目では無理でも、接していくうちに主上もお気づきになるでしょう。」

「そう上手くいくといいのですが…」

融さまの心配ももっともですわ。主上がこれほどまでに頑なになっていたとは。
主上の固く強固な殻を破るのは、容易なことではないでしょう。
けれど、

「あの瑠璃姫ですわよ?融様だって、生まれ変わりを探すのに変わり者を探せばいいとおっしゃったくらいではありませんか。瑠璃姫は瑠璃姫らしくそのまま振舞えば、主上とて嫌でも認めざるをえませんわ。」

融様が苦笑しました。
とても魅力的な、成熟した殿方の素敵な笑い方で。

「確かに。」

「幸い、瑠璃姫の方もさほど落ち込んでいらっしゃいませんでしたし、参内に前向きでした。瑠璃姫と騙るなとは言われても、会いにくるなとは言われていないからと。まあ、すでに瑠璃姫らしい前向きさでしたわ。」

問題は、瑠璃姫を後宮にあげる手筈ですけれど。

「………主上が僕たちを気遣ってくださっているというのなら、それを利用してはどうでしょう?」

「どういうことです?」

融様は悪気など一切ないといったような、
けれど裏があるような明るい爽やかな笑顔でおっしゃったのです。

「僕たちを傷つけたくないから、主上は僕たちには姉さんの生まれ変わりを否定しない。そこを利用して、姉さんを出仕させるんです。傷つけたくない僕たちの頼みを、主上は断らない。内心信じてはいなくとも、僕たちが願えば主上は一先ずは受け入れてくださる。僕たちは善意から、姉さんを主上にお返ししたいとお願いするのです。」

「…わたくし達に免じて一度目は許すとおっしゃったほどですものね…わたくし達が“鷹男”のためにする懇願を“鷹男”が断るはずありませんわ。」

わたくしと融様は顔を見合わせ
にっこりと、
共犯者の微笑みを交わしました。

ええ、そうですわ。
善意ですわ。

主上を想うわたくし達の真心と願いなのですわ。

そんなわたくし達を、主上が突っぱねることなどできるはずがありませんわ。

「そしらぬふりで瑠璃姫ですから出仕させますねと言い切るのですわね。」

「無理矢理ねじ込むわけじゃないから出仕の方法も主上に堂々と相談しましょう。主上の近くにいられるように出仕させるにはどうしたらいいかも主上にご相談して。」

「いいですわね。わたくし達の真心ですものね。」

「主上のためを想ってのことですから。」

信じていない、望んでいない者を傍に置く方法を主上自らにお決めいただくなんて…
ふふふ、
楽しくなってきましたわねえ。
融様ったらなんて素敵な、素晴らしい案なのでしょう!

「…ただ、姉さんの身が心配ではあります。僕たちを騙していると主上がお怒りになったら……」

その通りの懸念事項にわたくしも眉を寄せました。

「絶対に自分から瑠璃姫だとは言わないと瑠璃姫は言っていましたわ。後は……わたくし達が無理に進めたと主上に念を押しておきましょう。」

「そうですね…“透子”に何かあれば姉さんと信じる僕らが傷つくと、主上に印象つけましょう。」










「わ、わたしは関係…――」

「え?何かおっしゃいまして?秋篠権大納言」

完全に顔を青くして
ぎしりと固まったようにぎこちない動きで大納言殿が何かを言いかけましたけれど、

「………いいえ」

聞き返すと目を泳がせて口を閉じました。

「ということですから大納言殿。わたくしが主上が信じていないことを知っていることは内緒ですわよ?」

「……………はい。」

おかしいわね。
片目を瞑ってお茶目に明るくお願いしたのですけど。
大納言殿は汗までかかれてうなだれていますわ。
ああ、それよりも。
大納言殿にお願いがあったのだったわ。

「それでね、大納言殿にしていただきたいことなのですけれど」

「え」

わたくしは首をかしげました。

「何を驚かれるの?協力を頼んでいたでしょう?」

「いえ…その……まだ他にあるのかと………申し訳ありません…」

「おかしな方ですわね。まだ何もお願いしていないですわよ?」

くすくすと笑ってそう言うと
大納言殿はまるで恐ろしいものを見たかのような顔でわたくしを凝視しました。嫌ですわ、失礼ですわ。出家した身とはいえ自分で言うのもなんですけれど祖母譲りの美貌と褒められますのに。

大納言殿は「う…」とか「あ…」とか短い声をあげつつも言葉にはなっていませんでした。

「藤壺女御様の御身に関わる大事な協力をお願いしたいのです。」

「わ、わたしにできることでしたら何なりと……」

「もちろん、できることですわ。」

できないことなど頼むはずがございませんでしょう?
大納言殿ったら心配性ですわね。

「“瑠璃姫”の再びの参内について記した文を書きましたので主上に届けてほしいのです。その際、おそらく主上から詳細を問われるでしょう。大納言殿にはその時にわたくし達の後押しと、主上が“透子”にお怒りにならないよう念押しをお願いしますわ。」

「っっ!!無理です!」

「簡単ですわ。決して“透子”の本意ではないということと、“透子”の身分ではわたくし達に逆らえるはずがないということを、主上にお考えいただけるよう注進してくれるだけでいいのです。そこのところを主上が忘れないでいてくだされば、“透子”は安全ですわ。」

身分に逆らえず、本意ではないのにほぼ無理矢理に参内させられた者を、意に沿わないからといって処罰する主上ではございません。いくらお怒りになろうとも、冷たいと誤解されていても。
主上は昔からそういう御方なのです。

ね?
簡単でしょう?

「………主上は二度目はないと……お怒りだったのですが…………」

「ええそうね。だから“透子”だと言っているでしょう?“瑠璃姫”だなんて一言も言っていないわ。本人はね。」

瑠璃姫の生まれ変わりと信じるわたくし達が瑠璃姫と呼ぶ分には何の問題もないのですもの。
問題があるのは、透子が自分で名乗ることでしょう?
名乗らないと言っているのだから何の問題があって?

「ではお願いしましたわよ、秋篠権大納言殿」

「……………………………………………………」

大納言殿の瞳にはうっすら涙の膜ができていてましたけど
それほどわたくし達の案に感動してくださったのだろうと

わたくしはもう一度、

「お願いしましたわよ、秋篠権大納言殿」

と。

にっこり。


微笑んだのでございました。





続く


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雪 says..."ふにゃろば様"
黒い二人がタッグを組みましたとさ!(^^)!
秋篠は当初こんな翻弄されるキャラになるとは思ってなかったのですが…すっかり三枚目キャラに??
書いていくうちに彼はあんなになりました。。

もうすぐ瑠璃の特攻が始まりますよ!敵(鷹男)もなかなか手ごわいですが!
2018.09.16 01:04 | URL | #- [編集]
says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018.09.15 00:24 | | # [編集]

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