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沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第五十四話 弾正尹・藤原融

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拍手御礼小説掲載
やっぱり守弥は頼りになるよな。

姉さんの事件と平行して守弥はしっかりと現在の姉さんのことについても調べていた。
本当に姉さんかどうか疑って調べたというよりも、もうそれは性分なのだろう。姉さんならばこそ、僕達が再会するまでどこにいてどうやって生きていたのか、調べずにはいられなかったようだ。

近江の受領の姫ってまでは知ってたけどこれは守弥に感謝しなくちゃいけないねえ。

僕にこれを報告してきたということは、守弥も“それ”を望んでいるということだろう。

守弥からの文という名の報告書を手に、


僕は黒いと言われる顔で嗤った。










「長恨歌」第五十四話 弾正尹・藤原融










近江の受領如き、僕が出向くまでもない。僕は信頼できる部下を使者にたて近江に向かわせた。部下といっても近江の者達より官位は上、身分も上の人間だ。まして、この僕の使者で僕の言葉を伝える者だ。効果は充分だろう。本当は僕が直々に出向きたいところだけど生憎今は小物を相手にしている暇はない。
とはいえ、見逃せるかと言われるとそれはできないよねえ。

まさか姉さんが、こんなに苦労していたなんて…。

全く、許せない。
許していい話じゃない。

「父親の方はまあ…ぎりぎり情状酌量の余地はありかな。守る意思はあったようだしね。だけどこの正妻と娘…、僕の姉さんに許しがたい愚か者だね」

母親は問題ない。きちんと姉さんを娘として愛していたみたいだ。身の程も弁えて暮らしているようだし一体どうしてこれでここまで正妻に敵視されるのか理解できない。妻は自分一人がいいなんて言ってた姉さんだって相手の女を攻撃したりはしないはずだ。本当に夫を取り戻したいのなら、恋敵を攻撃するのではなくて夫を振り向かせる努力をするべきなのに。なんて、これは男側の勝手な言い分かもしれないけれど。

守弥によれば、近江の受領の愛人の娘として生まれた姉さんは、上京するまで様々な嫌がらせを受けていたらしい。近江守の愛人は他にもいるようなのに姉さん母子への風当たりが特に酷かったみたいだ。姉さんの今世の母親が元はこの正妻の女房だったというからその辺りに理由があるのだろうと守弥は書いているけれど、それはどうでもいいし興味ない。だって理由なんて関係ないからね。どんな理由があれ許せないんだから。
特に最後の…

「僕の姉さんに暴行を加えようとするなんて……よほどこの母子は命がいらないらしい」

上京前、一時的に本宅に身を置いていた姉さんを、男に襲わせる、なんて

「絶対に許せないねえ」

ははは。
死にたいとしか思えない。とんだ命知らずじゃないか。
姉さんだからこそなんとか一人で反撃して逃げおおせたとはいえ、未遂でも許す理由にはならない。
守弥も報復を望んでいるのだろう。正妻とその娘についてさらに詳細に調べあげている。なるほど、田舎の受領の妻如きがえらく矜持が高いらしい。そんなに正妻なことが自慢なら、その自慢、きっぱり潰してあげようじゃないか。娘の方もそっくりそのまま、今までの姉さんの立場と入れ替えてあげたら喜ぶんじゃないかな。

問題は男の方だ。
すぐに近江守が捕らえているようだけど…まだ生きているならちゃんと殺してあげなくちゃね?悩ましいのは僕自身の手で殺したいけど近江まで行く時間がないということだ。……ああそうか。こっちまで連れてくればいいのか。うん、それがいい。そうしよう。近江守がどんな状況で男を捕らえているのかはわからないけど僕に比べれば甘いだろうから殺してはないかもしれないな。姉さんに暴行しようとした男なんて八つ裂きにしても足りないほどなのに一体何をためらう必要があるのか。僕には全く理解できないね。まあ、そのおかげで僕が自分の手で復讐できるのならいいんだけどさ。

さあ、僕の使者はどんな楽しい報告を持ち帰ってくれるかな?










「も~りや」

「融様…」

昔弓削是雄が使用していた部屋に篭ったままの守弥を僕は上機嫌で訪ねた。
守弥もすぐに僕の機嫌の良さに気づくと開いていた本を閉じる。

「そのご様子では上手くいったのですね」

「うん、上手くいかないわけがないよね」

僕の返事に、
守弥もにやりと嗤った。
だから僕も、“同じ”笑顔で返す。

「これは失礼を。弾正尹様に愚問でしたね」

満足気に笑む守弥に「まあね」と返してから、少しだけ首をかしげてそういえばと尋ねた。

「守弥はよかったの?お前だって何かしたかったんじゃない?」

姉さんを害そうとした人間を許せないのは守弥も同じ。あの母子は僕がすっぱりと仕返ししてあげたけど、守弥も何かしらしたかったんじゃないだろうか。
僕だって、直接この手で制裁を下せた方がすっきりするところなんだけど、仕方なく部下に委ねたくらいだもの。

「私が融様にご報告した結果ですから満足しております」

「ふうん」

そういわれればそうなのかな?守弥も僕がこうすることをわかってて情報をあげてきたんだもんね。そう考えると僕は守弥の望み通りに動いたことになるのかな。ちょっと癪だけど仕方ないか。僕らは同志だからね。考えることは同じだから当然か。

「白湯でもお出ししましょう。どうぞ」

なんとなく立ったままだったのを、守弥に促されて座る。守弥も一息つくことにしたようで本を隅に寄せると傍に用意してあった湯から手早く僕に差し出した。それを見て、僕が来ることをわかっていたのかなと思う。つくづく優秀というかなんというか…若干、手の上で踊らされているような利用されているような気がしないでもない。
だけど同時に、この会話の後で僕と休憩をしようということは、とその意図を読み取ると楽しくなるから僕も黒いよなと思う。

「んじゃま、休憩のお茶請け代わりにあの母子の末路を話そうか。」

「有意義な休憩です」

僕もそう思う。
自分の手で制裁を下せなかったんだから愉快な話は是非聞かないとだよね!










「なんですって!?一体どういうことですかそれは!!」

近江守の元正妻は、それはそれは素敵な声で叫んでくれたそうだよ。
普段は余裕ぶって夫が帰ってこなくなっても声を荒げることもしなかったというのに、その時ばかりは顔色を変えて僕の使者の前だというのに叫んだそうだ。

「何故今更…っ!夫を支え続けたのはこのわたくしですわよ!?」

まあ、間違ってはいないよね。近江の地主の娘と結婚したからこそ近江の受領になれたんだから。だけどその後は本人の努力があってこそだからね。それをいつまでも引きずって恩に着せ続けてたんじゃ嫌にもなるってものだよ。もうとうの昔に近江守本人の力なのにね。
恩を感じていたからこそこれまでの彼女の所業にも目を瞑っていたっていうだけで充分恩は返しているのにこれ以上正妻として遇する必要はなくない?

「弾正尹様のご命令により、このわたしが静子様の養父となった。よって、静子様が近江守の正妻。遥かに身分が上であることを理解し、今後はわきまえるように。」

「な…っ」

そう、思い切って僕の部下の養女に迎えさせたんだよ!姉さんの今世の母親をね!
あ、部下の言葉遣いが尊大なのはわざとだよ。僕がそうするように命じたんだ。立場をわからせるためにね。もっとも、混乱してそれどころじゃなかったみたいだけど。

「これより十日の後、こちらの邸を明け渡す準備をするように。ここは静子様のお邸とするのであなた方は出て行くように。近江守殿が別邸を用意している。」

別に新しいそこよりずっと立派な邸を用意してもよかったんだけどさ、それより出て行かせるほうがより屈辱だろう?だから、邸を入れ替えさせることにしたんだよ。

「あなた!!」

「………弾正尹様直々のお声かけだ。」

たかだが受領に僕の好意を断れるはずないもんねえ?
近江守自身は複雑そうだったらしいけど、そもそもずっと正妻の元には帰ってなかったっていうからいいんじゃないかな。

「待ってよ…ちょっと待ってよ……透子の母親が正妻ですって?!お父様?!どうして!?嘘よね??」

残念だけど嘘じゃないんだな~。
君達母子はたった今から愛人とその娘になるのさ!
って、直接言ってあげたかったなあ。ああ、残念。

「…弾正尹様はいずれ透子様をご養女に迎えられるおつもりだ。そうなれば天と地ほどに身分が違うことを忘れぬよう。透子様へのこれまでの数々の無礼な仕打ち、弾正尹様は大層お怒りである。命が大切ならば大人しく反省することだな。」

「養女?!」

「透子を弾正尹様がとは…どういうことです?!」

これには近江守も驚いてみたいだよ。まだ姉さんの許可は得てないけど僕がその気でいることは本当だしね。姉さんは僕の養女どころか姫宮様の生母で今上帝の妃なんだけど今のところ一介の女房のままってのは悔しいところだね。

「透子様はそれほどに大切な御方だということ。本来であれば……」

ここで僕の部下ってばちょっと口ごもっちゃったらしいんだよね。なんでか言いにくかったんだって、怖くて。
大事な大事な、必ず伝えるように念押しした言葉だからきちんと言ってくれないと困るんだけど!


「―――――透子様への暴行未遂の件で殺してやりたいくらいだ、と……。殺されたくないなら気配を殺して小さくなって生きろ、との仰せである。もしまた透子様の周辺で気配を感じたら……………問答無用で殺す、と――。」


当然?でしょ?そうだよね?やっぱり守弥とは意見が合うなあ!
このくらい当然言わなきゃだよねえ?
反応?ああ、真っ青になってがたがた震えてたらしいよ。近江守も青くなってたって。自業自得なのに馬鹿だよね。むしろ命があるだけ感謝すべきじゃない?―だよね。





「ま、そんなわけで姉さんの今の母親は近江守の正妻で姉さんは正妻の姫になった。あの母子はそれまで姉さん達が住んでた別邸に引っ越させたけど着物や調度品の持参は許さなかったよ。愛人が正妻と同じ品質のものを持つべきじゃないそうだからね。家人も最低限だけで姉さん達がいた頃より少なくして本宅に引き上げさせたよ。」

「これまで愛人と見下してた立場に自分達が落ちることはさぞ屈辱でしょう」

「うん。本当に殺してもいいくらいなんだけど…姉さんにばれた時にやりすぎてるとまずいかなって。」

嫌がらせ程度ならまだしも、暴行未遂がね。万死に値するのにさ。

「…確かに。瑠璃姫ならそこまでは望まないでしょう…。」

「殺すまでしたら怒られるどころか嫌われそうだもんね。」

想像しただけでしょんぼり項垂れる。
守弥はくすりと笑った。
優しい、慈愛に満ちた穏やかな笑顔だった。
姉さんを思い出しての笑顔だと、すぐにわかった。

「瑠璃姫はどれほど罪深い人間も、生きて償うべきだとおっしゃる方ですからね。」

僕も満面の笑顔で笑った。

「そんなわけでお人よしの姉さんにはしばらくの間この件は内緒で!そのうち落ち着いたら近江守からでも文を書かせるよ。」

「それがよろしいかと。今はそのような些事は瑠璃姫に無用でしょう。」

「さ、じゃあそろそろ休憩は終わり。」

話を終えると僕は立ち上がって「続き、頑張ってね」と守弥に声をかけて去ろうとした。
そこへ、

「融様。お待ちを。」

守弥から待ったがかかる。

「なに?」

振り返って、笑顔で聞き返してあげたら
どうしてだか守弥は渋い顔。

「まだお聞きしていないことがあります。」

「ああ…」

あのことね。

全く、守弥はごまかされてくれないねえ。

「私も是非、ご一緒させていただきたいのですが……男はどこに?」

なんでわかっちゃうかなあ。
僕があの男を連れ帰らせてるって。
それ前提で聞いてくるんだもんなあ。鋭いったらないね。

「瑠璃姫に暴行を働こうとした男をどのようにされるおつもりで?」

その質問に僕は片目を瞑って笑って


「内緒。」


今度こそ本当に守弥の前を後にした―――。





続く


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雪 says..."ふにゃろば様"
ふふふ、そうですね、煌姫以外の妻は融の本性を知らず幸せに暮らしているのかも(^_-)-☆
近江の母子はですねー、忘れなければまたその後を書きたいなとは思っています。ただ現状、書くネタてんこもりで!忘れなければいいんだけど。完全に小物ですからね(笑)
2018.09.27 22:30 | URL | #- [編集]
says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018.09.27 00:04 | | # [編集]
雪 says..."ハニーさま"
先日はチャット会でしたので2日連続更新にしました♪
内容的にも、前話は盛り上がりに欠けたので(^_-)-☆
ざまあ!なお仕置きのその後、でした。

もっとキツイお仕置きですかwww
相変わらずハニー様ってばwww
いやでもいずれまたその後を書こうとは思ってるんですよ。書くネタがありすぎて大変なことになってますが(^_^;)

次話からいよいよ、後宮編に突入します!
お楽しみください~。


追伸・チャット会でお会いしたかったです!!
2018.09.25 00:02 | URL | #- [編集]
ハニー says...""
コンスタントな更新ありがとうございます。

うんうん。
とても良い味を出した弟君ですねー。
どことなく無邪気さがありそこがまたイイ!

近江お話がまた出てくるとは思いませんでしたが
そうですよね、当然、これまでの生い立ちは
気になるところですよね。
そして、知れば放っておけるはずがない。
あの母娘にはもっとキツいお灸でも良かったかな。
更におぞましい男に夜這いをかけさせるとか。

捕まった夜這い男の末路も、きっと悲惨ですね。

次の更新も楽しみにしてます!
2018.09.23 09:47 | URL | #- [編集]

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