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沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第五十二話 左大弁家二の姫付女房・透子(瑠璃)

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ああ、あたしは罪深い――。

大切な人達を片っ端から泣かせてる。
再会した父様は、床に伏したまま号泣した。おんおんと…それはもう、懐かしい泣き方で。瑠璃として生きてた頃も幾度となくこうやって父様を泣かせていたっけ。

それにしても母様が名乗る前に瑠璃だと気づいてくれたのには驚いた。融からは記憶があやふやだと濁して聞いていたけど…年も年だしそういうことなんだろうと思っていたのに。確かに見知らぬ人間が入ってきたのに気にも留めず最初は座ったままうたた寝していたし見た目も…ずいぶんと年をとっていたからああやっぱり、融が言っていた通りなんだと泣きそうになった。なのに――

「女というものは愛されると変わるというのは本当ですわね。ほら、殿もそうは思いませんか?瑠璃様ったら少し会わない間にこんなに美しくなって……」

いやいやいや。
少し会わない間って十八年だし。
愛されて変わって「見える」んじゃなくて正真正銘生まれ「変わった」んだけど。

「あ、ああ…そう、だな……」

父様もどう返事をしていいか困りきってる。
てっきり、声が瑠璃のままだから母様はあたしをあたしだと思っただけで、死んだことも転生したことも理解していないのだと思ってた。父様もそうだったはずだ。後で聞いたけれど本当に母様の状態というのは、人や思い出を覚えていなかったらしいから。
だけど母様は言ったのだ。昔の母様の眼差しのままのしっかりした口調で。

「今上帝は瑠璃様が亡くなって十八年経った今も尚、瑠璃様を愛しているのですもの。美しく生まれ変わるのも当然なのでしょうね」

「っ母様?!」
「お前……っっ」

「お腹を痛めて産んでいないとはいえ、童の頃からお育てさせていただいた娘ですもの。わからないはずがありませんわ。わたくしは今も昔も、瑠璃様と融様の母のつもりですわよ。わたくしの独りよがりだとしても、ですわ。」

「母…さ、ま……」

そうだ…父様だけじゃない、母様も…なさぬ仲の娘のあたしを、あんなにおかしな噂ばかりたつあたしを……昔から母様は心配してくれたり叱ってくれたりはしたけれど、ただの一度も嫌悪の視線を向けられたことはなかった………実の娘でもないのだから呆れられて嫌われたっておかしくないほど、瑠璃姫は醜聞にまみれていたというのに…

母様が笑う。
にこやかに、昔の母様の笑顔で。


「わたくしは瑠璃様はいつか帰ってくると信じておりましたわ」










「長恨歌」第五十二話 左大弁家二の姫付女房・透子(瑠璃)










それから、あたし達は融も交えて親子水いらずの時を過ごした。
互いに離れていた時を埋めるように。
たくさんのことを話した。
近江で生まれ変わり、左大弁家の女房になるために上京したこと。そこで同じように生まれ変わっていた小萩と再会したこと。あたしが仕えることになった左大弁家の二の姫が小萩で、つい最近高熱にうなされたのをきっかけに小萩だった記憶を取り戻したこと。

「なんと…」
「まあ…」

当然だけど二人ともすごく驚いてた。
藤宮様の計らいで尼寺に参拝に来ていることにして実は小萩もここへ来ていることを伝えると二人はすぐに呼ぶようにと言った。

「小萩もわしらの家族だ」

「そうですよ、あの子も童の頃からここで育ったのですから」

そんな風に二人は言って。
生まれ変わった小萩にも会いたいと喜んでくれた。あたしが死んだ後、病にかかった小萩は三条の邸で息をひきとったのだという。
万里小路ではなくここが、小萩にとっても実家だったのだ。父様も母様も融も。あたしが死んだ後も小萩をちゃんと大事にしてくれていたのだと思うと自分の家族の優しさに胸が熱くなった。

「内大臣様……」

「小萩…か……?」

おそるおそるといった様に、入ってきた小萩は緊張のせいか小さく震えていた。そっとその背を押して、

「小萩も家族だからって父様と母様が」

と教えてあげると

「えっ…?」

小萩はすごく驚いて、それから。
声をあげて泣き出した。
それが引き金になって、融に助けてもらって身を起こしていた父様がまた泣き出すし、それを見たらあたしも泣いちゃうし、融も泣くし。母様も泣いちゃって。
あたし達は五人で大泣きした。

泣いて泣いて泣いて。
時々笑って、また泣いて。

あたしが死んでからのそれぞれの出来事を、たくさんたくさん話し合った。

「融が見つけてくれたのよ」

融があたしが知っている融よりずっと優秀になっていて驚いたと言えば、

「あの頃の融は本当にぼんやりした子だったからなあ」

と父様が呆れた溜息をついて

「ぼんやりって……そこまででもなかったと思うけど」

と、融がすねる。

「融様は今も昔も変わらずお優しい子ですわよ。ねえ、小萩」

「ええ。姉君想いのところは昔から変わっていないかと。」

それに母様と小萩が慰める。

「瑠璃や、もうどこへも行かないでおくれ」

「そうですよ。もう一度この家の姫として暮らしましょう。もちろん、小萩も一緒に。」

「父様…」

父様があたしの手を両手で強く握り締める。

「小萩は左大弁家の姫君ですけれど融様の力を使えば引き取ることもできるのではありませんか?二人とも養女になればいいではありませんか」

そう訴える母様の瞳には懇願の色があった。

「そうだね。僕の養女になればいんだよ。姉さんも小萩も。」

融までがそんなことを言い出す。

「でも…」
「ですが…」

「もう一度後宮に行きたいんだろう?――主上のお傍に。それには今の身分のままでは身を守れない。内大臣家の姫だった姉さんでさえ…だったんだから、わかるだろう?」

融のその言葉に、父様が声を荒げた。

「後宮へ?!ならん!なりませんぞ瑠璃や!!」

「父様?」
「父さん」

「後宮は危険だ!もう二度と…二度とお前をあんな場所へはやりませんぞ!瑠璃や、せっかく生まれ変わったのだから今度こそ平穏に暮らすのだ。二度と……二度と先立つような親不孝な真似はせんでくれ………」

「………」
「父さん……」

声を震わせて
本当に辛そうな、心の底からの懇願に

あたしは何も言うことができなくて俯いた。
親にこんな顔をさせたことが申し訳なくていたたまれなかった。

「………姫宮様のことはどうしますの?」

けれど母様が言った。

「殿のお気持ちはわかりますわ。わたくしも、せっかくこうして再会できた瑠璃様をあのような場所へ帰したくはありません。けれど……瑠璃様は母親なのですよ?母親が子を見捨てて自分だけ平穏に幸せに暮らせとおっしゃるの?」

「…父さん、僕も母上と同じ意見だよ。姫宮様は母親を知らないままお育ちになった。主上は姫宮様を大切にしてはいるけれど…母親の代わりにはなれない。姫宮様は母親に、姉さんに会いたいはずだよ。会って、抱きしめてほしいはずだよ。」

「姫宮様は今上帝を心配していまだ未婚の身。けれどいつまでもそれでいいわけがありません。今上帝のお心を癒せるのが瑠璃様な以上、姫宮様のためにも瑠璃様は後宮へ行くべきですわ。」

「安心して、父さん。今度こそ絶対に僕が、姉さんを守る。約束するよ。二度と姉さんを危険な目には合わせない。」

「融…」

父様があたしを見つめる。
じっと、真っ直ぐに、あたしを。

「………瑠璃」

「…はい。」

「……後宮へ、行きたいか?」

「……………はい。」

「…そうか…。」

「ごめんなさい、父様」

ゆるゆると首をふる。
それから小さく、父様が笑った。

「お前は昔からこうと決めたら譲らなかった。…変わらぬな、昔のままだ。………いい、行きなさい。主上と姫宮様の元に。」

「父様…っ」

「小萩、お前はどうする?」

「わ、わたくしの居場所は瑠璃姫様のお傍です!一度は至らず瑠璃姫様をお守りできませんでしたが今度は間違えませんからどうか…っどうかもう一度瑠璃姫様のお傍にいることをお許しくださいませ!!」





そして、


あたし達は再びあの場所へ、



後宮へ入ることになる―――――。





続く


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雪 says..."ふにゃろば様"
やっと…やっとですよ!!
やっと後宮にいってくれる~~~っっ
長かった……ここまで長かった…

その通り!今の瑠璃の身分では逆に守弥とかの方が身分が近いので簡単なのですよ。
そこのところもついていきたいなあと思っております。

次回はチャット開催日に更新、チャット中にもう1話更新するかも??
内容は、アノ人達…です!
2018.09.21 14:22 | URL | #- [編集]
雪 says..."蘭さま"
母上は、真実を前にして痴呆から覚醒したからこそ、信じて疑わないのです(#^.^#)
変にしっかりしてる方が常識とかそういうので頭が固くなって目の前の現実に気づけなかったりね。

そうです、いよいよ後宮へです!!
2018.09.21 14:19 | URL | #- [編集]
says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018.09.21 00:29 | | # [編集]
蘭 says...""
内大臣のお母様すごい!これ!でもあさっと信じてくれたわね!

どんどん後宮へ行きますね!
2018.09.19 11:02 | URL | #- [編集]

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