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沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第五十五話 勾当内侍・源盛子

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拍手御礼小説掲載
滅多に開かれることのない宴が急に開かれることが決まり、御所中が浮き足立ち慌しい雰囲気に包まれていた。準備に追われる女官はもちろん、各殿舎に仕える女房らも参内する公達も、身に纏う香から衣装の準備、披露する管弦の練習に余念がない。今度の宴は東宮様の妃候補達との見合いの意味合いも兼ねられており、これまで梨壷女御様しかいなかった東宮様がいよいよ新たに妃を迎えられるかもしれぬとあって、どの家の姫が選ばれるのかと、皆が推測や想像の噂話に忙しく騒ぎ立てる。
近年は明るい話の少ない日々が続いており、華やかな宴の開催や東宮の妃が増えることは明るい話に違いなく、どの者も楽しげに仲間達と語り合っている。

そんな中…――

清涼殿にほど近い藤壺にひっそりと、一人の姫君とお付きの女房が参内していた。
まだ年若い姫君は東宮様の妃候補の一人であり、正式に宴に招かれていたのを一足早く参内することになったのだが、その理由は知らされていなかった。
しかも、振り当てられた殿舎がまさかの藤壺。
藤壺は昔、主上の寵愛深かった女御様が殺害されて以来、忘れ形見の姫宮様だけが住むことを許されている神聖な殿舎。今もそこかしこにありし日の藤壺女御様を思い出させる物が残されており、主上は女御様がご存命であった頃のまま変えることをお許しにならない。

その、藤壺に…姫君を迎えるから準備をするようにと言われた時、わたくしは初め自らの耳を疑った。
東宮様の妃候補であり宴の間だけと聞いても…やはり腑に落ちず、驚きは消えなかった。

「あくまで一時的な滞在である」

ひどくお怒りの様子の、それなのに藤壺にとお決めになられた主上は、恐ろしいの一言だった。主上にそれ以上の説明をする気がないことは一目瞭然で、わたくしからお尋ねすることはとてもではないけれどできず、疑問を抱きながらも素早く、滞りなく準備を進め、

「姫様がご滞在中の間のお世話はわたくしがさせていただきます。ご不便がございましたらお申し付けください。」

本日、藤壺の一室に左大弁家の姫君を迎えることとなった。










「長恨歌」第五十五話 勾当内侍・源盛子










「ありがとうございます。わたしは二の姫様の女房で透子です。よろしくお願いします。」

不躾にならぬ程度に観察すれば姫君付の女房は大変に落ち着いた雰囲気があり、そこには参内したことへの緊張や興奮などが見当たらない。妙に大人びた、まるで昔からここにいたような存在感と自然さに…内心驚きを隠せなかった。
短期間ながらもこの姫君に関して調べたところ、あの藤壺女御様の弟君で主上の信任厚い弾正尹様の推薦であるということがわかった。なるほど、それならばこの藤壺を与えられたことも頷ける。東宮妃もさることながら姫宮様のお話し相手にとお考えなのかもしれない。けれど本来皇族のお世話が仕事のわたくしが何故この姫君につけられたのか…やはり納得できない部分も多かった。

「勾当内侍様はお忙しい方でしょう。ご迷惑はかけませんのでお気になさらず。」

「…いえ、主上からくれぐれもと申し付かっておりますので」

「今上帝が?」

わたくしは本来、姫君のお世話をする立場にはない。掌侍達をまとめ主上と宮中内外との取次など事務的なことを請け負うのがわたくしの勤め。そのわたくしをこの姫君につけるのは…主上の真意はわからなかった。

「東宮様とのご対面はもう少し後になりますが、姫宮様へのご挨拶もまだご遠慮していただきます」

これに、
透子と名乗った女房が過剰に反応した。

「どうしてですか?!藤壺に入ったのだから…姫宮様のご挨拶しなくては失礼になるのではないですか!?」

姫君は御簾の奥、声を聞くことはなかったけれど気配が動いたことは感じた。確かに、藤壺にお部屋をいただきながら藤壺の主である姫宮様にご挨拶をしないというのは失礼にあたる。けれど…

「主上のご下命です。姫宮様への挨拶は主上のお許しがあってからにするようにと。」

室内がざわつく。
それも当然だった。それではまるで自分達が警戒されているようだと感じたのだろう。この左大弁家の姫君は一人を除き全て弾正尹家からの女房がつけられている。左大弁家の姫君といいながら弾正尹家の姫君であるかのように、弾正尹家の威光を前面に出した形である。

「………ということは、今上帝にご挨拶できるということですか?」

透子殿が訊ねる。

「その通りでございます。姫宮様へのご挨拶は主上へご挨拶した後、お許しをいただいてからになります。」

主上は直々に見極めるつもりなのかもしれない。東宮様にふさわしい姫君かどうかを?それとも…姫宮様の話し相手にふさわしいかどうかを?どちらにしろ、この姫君にそこまでするほどの価値があるのだろうか?
そもそも何故弾正尹様はこの姫君の後見を買って出たのだろう。

「明日、お迎えにまいりますのでご準備を。」

今度は御簾の奥から、

「―――――わかりました。」

姫君の返事が返ってきた。










藤壺女御様は誤解されやすい御方ではあったけれど、あのように裏表のないまっすぐなご気性の方にわたくしは会ったことがない。その弟君である弾正尹様もかつては藤壺女御様同様に裏表のないお優しい方であったが……

「左大弁家の姫君、君が任されたんだって?」

歩いていたところを後ろからかけられた声に振り返った。

「弾正尹様、わたくしに御用でしょうか」

訊ねたわたくしにしかし、

「いいや?君の方が僕に聞きたいことがあるんじゃないかと思って。」

弾正尹様は真意の読めない笑顔でおっしゃった。
わたくしはなるべく表情を変えないよう努めつつ、弾正尹様のお言葉の意味を探ろうとその顔を窺う。けれどいくら窺おうと弾正尹様の笑顔が崩れることはなく諦めの溜息をつくとそこでようやく作られた笑顔ではない笑顔で笑われた。どうやら無駄なことをしてしまったようだ。

「弾正尹様が答えを教えてくださるというのですか?」

意地の悪い笑みで弾正尹様はおっしゃった。

「そうだねえ、君次第かなあ。」

わたくしは眉間に皺を寄せ、時間の無駄ならば失礼しようかと思案する。そんなわたくしの声が聞こえたかのように、弾正尹様が続けた。

「喉が渇いたね。」

「…茶菓子をご用意いたしましょう」

先程よりも大きく、隠すつもりのない大きな溜息をついたわたくしに
弾正伊様は朗らかな笑い声をたてたのだった。





続く


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雪 says..."ハニーさま"
お待たせしました~やっと、やっとの後宮編です!!
ここから鷹男が出張ってきますのでお楽しみに(^・^)

チャット会、お会いできず残念でした。
えっ、曜日を勘違いしてたんですか??
ありゃぁ~それはすごく残念…!
また来月、予定していますので今度こそお話したいです♪
2018.09.27 22:08 | URL | #- [編集]
ハニー says...""
更新ありがとうございます!
いよいよ、やっと、やっと!!
後宮編が始まりましたねー。
もう、大興奮ですっ!!
この先、ますます更新が待ち遠しくなりそう。

チャット会は不参加、失礼しました。
三連休だったので、曜日感覚が狂い
1日勘違いしてしまって。
次回は是非!
2018.09.25 07:11 | URL | #- [編集]

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