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沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第五十六話 勾当内侍・源盛子

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「理由?そうだねえ、僕が言えるのはこれが僕のすべきことだから、かな。」

意地悪な弾正尹様は謎かけのような言葉しか教えてはくれなかった。

「主上のお気持ちを僕が代弁するのは不敬だしね、そこは差し控えさせてもらうよ。」

そんな風にはぐらかされて。

「ま、主上も僕も君だからこうして頼んでるってことだけは言えるかな。」


“君、姉さんの信奉者だったでしょ”


と―――。
一瞬だけ鋭い瞳で射抜かれ、わたくしは息を飲んだ。
知られていた…。
けれどいつから――。

「あの頃から今も主上のお傍に残ってる女官はほとんどそうだよ。じゃなきゃ、主上が傍に置くはずがないでしょ。」

弾正尹様は視線を落とし、わたくしの用意した茶を殊更ゆっくりと飲みながら

「左大弁家の姫とその女房については君が自分で判断するといい。ただ、ひとつ忠告はしてあげる。余計な先入観は捨てることだ。世間の常識も全部ね。」

まるで世間話でもするかのように軽い調子で、世間話とはほど遠いことをおっしゃった。
この御方はわたくしを試そうとしている。
わたくしは直感した。

弾正尹様が何を目的に、わたくしを試そうとしているのか、それが左大弁家の姫君とどう関係があるのか。
わたくしにはさっぱりわからなかったけれど。

一つだけわかっていたのは


「僕が君に求めるのは二つ。左大弁家の姫君とその女房の邪魔は決してしないことと―――何に代えても守れ。」


“その上で自分で判断しろ”と―――。


やはりあの姫君には何かあるのだということだけだった―――――。










「長恨歌」第五十六話 勾当内侍・源盛子










わたくしは幼少の頃から、可愛くない子供であった。
女の子でありながら女の子らしいものを好まず、逆に男のする格好やすることを好んでやりたがった。
大人しく邸の中にいることも苦痛で、何故自分は兄や弟達のように走り回ってはいけないのかと訴えては両親を困らせた。性格もきつく物言いも女人らしくはできずに、幼い頃は許されていたそれも、年を重ねるごとに疎ましく敬遠されるようになり、気がつけば姫君らしくできないわたくしは周囲から孤立し浮いた存在になっていった。
男になりたいわけではない。けれど皆の求める女人らしい女人にはなれず、またなりたくなかった。

何故わたくしはわたくしのままで。このままのわたくしではいけないのか。
何度も思い悩み、答えの出ない苦しみの日々は続いていた。

女官として出仕することを薦められた時は天啓だと思った。
女人らしくできないわたくしに人の妻、結婚は向かず、その話もない。このまま両親の元で悩み苦しむ日々を送るくらいなら、内裏で男と張り合い、立派に勤めを果たしてやろうではないか。きっとその方がわたくしには合っている。

出仕すれば何かが変わる。
新しい自分に出会える。

わたくしは後宮勤めに確かに希望を抱いていた。

「あなた、どこかおかしいのではなくて?」

けれど

「そんなのでは誰にも相手にしてもらえないわよ。どうしてあなたみたいな人が出仕を許されたのかしら」

実際に出仕するようになり、
わたくしはすぐに現実を突きつけられることになった。

「ここは今上帝のおわす後宮でわたくし達は今上帝にお仕えする女官なのですよ。立場をわきまえてふさわしいふるまいをしなさい。」

多くの公達に囲まれ仕事をするとはいえ、それ以上に多くの女達の園であった。たおやかで雅な、公達との恋の駆け引きを楽しむ同僚達と、女人らしいことを好まないわたくしは明らかに異なり、
ここでもまたわたくしは浮いていた。

仕事は完璧にしている。
それなのにただ女らしくない、それだけで同僚達はわたくしを疎遠にした。
あまり世間話を楽しめないことも要因であったのだろう。

砂を噛むような日々。
苛めや嘲笑されることこそなかったけれど。

わたくしはわたくし自身を肯定することが、できなくなっていた。


あの御方が入内してくるまでは……―――――。


『藤壺女御様』


内大臣家の姫君で、夫と離縁した後今上帝に望まれ入内された幸運な姫君。
かつてはそれこそ深層の姫君とはほど遠い耳を疑うような噂ばかりあった姫君が、帝の寵愛も篤い藤壺女御様になられた時の人。
当時のわたくしは数多いる女孺の一人にしかすぎず、下級の女官であった。当然藤壺女御様のお姿を拝見する機会などなく噂話ばかりが耳に入ってきた。そんな中でも、藤壺女御様が変わった御方であるということは伝わってきていた。

曰く、美姫とはいえないらしい。
曰く、姫君らしからぬ言動をされる御方らしい。
曰く、それでも今上帝の御心を捉えて離さないらしい。

わたくしは勝手に、藤壺女御様に親近感のようなものを感じ、藤壺女御様に自分を重ねるようになった。

藤壺女御様は大層気さくな方らしい。
藤壺女御様は筝や琴など好まないらしい。
藤壺女御様は寛容であまり身分や地位を気になさらないらしい。
藤壺女御様は…今上帝に対して不敬ともとれる言動をなさる時があるらしい。
それでも罰せられることなく許されるほど、藤壺女御様への今上帝の寵愛は深いらしい。

好意と嫌悪と嫉妬と。
同僚達の噂話は日々交錯していた。

そんな噂話を聞きながら、わたくしの中には藤壺女御様への憧れが募っていった。同時に、ほんの少しの嫉妬も。
わたくしと似ていながら、わたくしとは違い幸運で幸福な女御様。
女御様のようになりたいというわけではなかったけれど、ほんの少しの妬みは正直、あったのだ。

けれどたった一度、


一度だけの邂逅。


ありえないことに女房の格好をした藤壺女御様を、その姿のまま女房と勘違いしたわたくしは話をした。
話しやすい空気があり、また下々の者が使うような言葉使いをする彼女にわたくしはつい、女の園で生きるために無理やり身につけた女人らしいふるまいを忘れ、素で話してしまったのだ。すぐにはっと気がついた。けれど藤壺女御様は他の女達のように驚きや嘲笑の目でわたくしを見てはいなかった。
変わっていなかったのだ。全く、何も。
それどころか、ばつの悪い顔をして急に黙り込んだわたくしに、不思議そうな顔をされて

「どうしたの?」

とおっしゃった。
つい身分の卑しさが出てしまったと小さな声で謝罪すると、心底驚かれて、

「なんのこと?」

と続け…そこでようやく、話し方であるとわかったらしく、破顔したのだ。

「ああ…もしかして話し方?ならあたしもそうじゃない。同じね。堅苦しいのは苦手で。」

あの時、どれほどわたくしが嬉しかったか、女御様はご存知ないだろう。
初めて出会えた仲間。友人になれるかもしれない人。
わたくしのあり方を否定しなかった人―――。

そして

次にその姿を見た時に

藤壺女御様であることを知った。

噂は真実であると悟った。
噂の通り、藤壺女御様は姫君らしいことを好まれない御方なのだ。
憧れと羨望、一度だけの邂逅で知った人柄。
自身の気性そのままに偽らず生きられるのは藤壺女御様が内大臣家の姫君だからかもしれないけれど。

眩しかった。

わたくしには藤壺女御様のお姿が眩しく、輝いてみえた。


藤壺女御様はわたくしの憧れの人になった。


その藤壺女御様が亡くなってしまって十八年……

藤壺女御様のようにはなれなかったわたくしは今も


自分を偽り、多くの女達と同じ姿を装って生きている―――――。





続く


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雪 says..."ふにゃろば様"
そうですねー、この人も答え(瑠璃姫)に辿りつくか?!行方を追わなければならない新キャラですね。
新キャラ出しちゃったよ…登場人物が出れば出るほど話が長くなるのに……展開上、必要かなと思って……。


そうでした!!
かつて瑠璃は瑠璃パパから夜這いの手配をされてたんだった!!!
うーん、、あのときは!まあ、瑠璃パパに瑠璃を傷つける気は毛頭なく、よかれと思って幸せになってほしい思いからでしたし、
融がこんなにシスコンになったのは瑠璃が死んでからなのです。
死んで初めて、自分が姉を好きだった(家族愛)ことを実感したのですよ。それまで当たり前のようにいた姉が理不尽に命を奪われて、後悔もあり、立派なシスコンが出来上がったというわけです(^_^)v
2018.10.02 00:36 | URL | #- [編集]
says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018.09.29 01:52 | | # [編集]

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