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沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第五十九話 左大弁家二の姫付女房・透子(瑠璃)

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“やっと帰ってきた”

最初に思ったのはそんなことだった。
懐かしい風景、大勢の人間の気配、焚き染められた香や衣づれの音。今上帝の暮らす場所独特の緊張感やそれ故の清廉な空気。
かつてのあたしが、暮らした場所。

『藤壺女御様』

と。
あたしは確かにここで、呼ばれていた―――。










「長恨歌」第五十九話 左大弁家二の姫付女房・透子(瑠璃)










「と、いうわけで。とりあえずあたしは情報収集してくるわ!」

「姫様っ?!」

こういう時、大人しくしていなきゃいけない姫と違って女房の身分は助かるわよね。昔は女房に化けて歩き回ったものだけど今は正真正銘女房なのだから堂々と出歩ける。仕える姫君のために情報収集するのも女房の務め。慌てて引き止める小萩にひらひらと手を振って藤壺を出た。

ここまできて大人しく待ってなんていられるはずがない。まして、あたし達に与えられたのは藤壺。あたしを偽者だと思っている鷹男がどうしてあたしをここに入れたのかわからないけれど何か考えがあるのだろう。それにしたってすぐ近くに自分の産んだ娘…一度も抱くことすらかなわなかった娘がいるのだ。動き回ってでもいないと会いに行かずにはいられなくなる。だけど、鷹男の信頼を得ていない以上、勝手に会うのは…しないほうがいい気がする。

融に藤宮様、煌姫に秋篠様、父様、守弥。前世で縁のあった人達に再会して皆透子が瑠璃だと認めてくれた。それは幸運で幸福なことだけれど、鷹男にとっては…あたしを瑠璃だと信じることのできない鷹男にとっては、自分が信頼している人間達が揃って自分の想いをわかってくれない現状は、きっと、多分。
とても寂しくて悔しくて…孤独を感じているはずだから。
これ以上鷹男を傷つけたくはない。

ねえ鷹男。
あなたは冷たくすることであたしを突き放したつもりなんでしょうけど残念ながら効果は薄いわ。
だって、この藤壺。

“あの頃とちっとも変わってない”

どこもかしこも、十八年前のあたしが住んでいた頃のままだった。
時と共に住む主が変われば変わっていくのが当然なのに、ここはまるで十八年前から時が止まったかのようにあちこちに見覚えのある物ばかり。流れる空気さえあの頃のようで…今の自分が透子であることを忘れそうになる。

“あの頃に戻ったよう”

思ったことは小萩も同じだったようで、藤壺に入ったと同時にあたし達は目を見合わせて過ぎ去ってしまった遠い過去に想いを馳せた。

そのことに、鷹男の気持ちが今もあたしにあることを感じて。

鷹男が今も、あたしを想ってくれていることがわかって。

胸が熱くなると同時に絶対に諦めない強い気持ちが生まれてたのよ。










建物はそのままでも仕える人達は変わったわ…。
情報収集と銘打ってあちこち歩き回って、時には話しかけたりもして今の後宮の様子を探ってみて思った。
あの頃はもっと楽し気だった。それがどうしてなのか、どの女官も女房も。固く口数も少ない。暗いとまではいえないけれど決して明るいとはいえない彼女達に違和感を覚えた。
鷹男の治世は落ち着いていて貴族達の表立った権力争いもないはず。後宮に暮らす女御様や更衣達も、帝の寵愛を争っているという話は聞かない。
それなのにどうして…。

…そうだ。

守弥を訪ねてみよう。
あれ以来会っていないけど文は何度かもらっていて話がしたいと言われていたんだった。

確か、守弥は…

ほぼ一日中、中務省に篭っているって…――。

「弾正尹様の使いで中務少輔様に用があってまいりました。」





「………」

「………」

き、気まずい……

やってきた守弥と会うのはあの日以来。何も後ろ暗いことなどないはずなのにこの沈黙は何なのだろう。
あたしと向かい合うなり沈黙する守弥にあたしも何を言っていいかわからなくて沈黙が続く。何度かもらった文には当然のように何もなかったかのようあの日のことは書かれていなくて安心してたんだけど。やっぱり右近少将様の追及をかわすための方便だったんだと納得してたんだけどなあ…!

「「あ、あの…っっ」」

「「ど、どうぞ先に!」」

って何でかぶってるのよ!

「………」

「………」

そして再び沈黙。
本当に何よこれ。

「……も、守弥はいつもここで仕事をしてるの?」

とりあえず、差しさわりのない質問をしてみる。
そう広くない部屋で膝を突き合わせての沈黙は本当に気まずいっ。

「……いえ。いつもの部屋は書物が多すぎてとてもお通しできるようなところではありませんので。」

「そ、そう…」

それにしてもどうしてこう守弥は暗いのかしら。再会したあの時はそんなことなかったと思うんだけど今の守弥はあたしの顔を見ようとはせずずっと俯いたままだ。
あたし何か気に障るようなことした?

「…前は、ゆっくり話せなかったから来たのよ。色々、知りたいこともあるし。」

あたしが死んでからの守弥のこととかさ。
どうして高彬の側近をやめて出仕するようになったのかとか、今どうしてるのかとか。高彬のことも。そういえばどうしているのか噂を聞かない。

「……私の方からもお聞きしても?」

「…いいわ」

そうよね。守弥の方が知りたいことはたくさんあるかもしれない。何せ、今のあたしは瑠璃姫じゃないわけだし、たった一度のあんな短い再会で本物かどうかなんて確信できないだろうし。融からどこまで聞いてるのかはわからないけど守弥も混乱してるはずよね。

あたしは近江で生まれ変わってから上京するまでのことや融が見つけてくれるまでのこと、小萩のことや融に再会してからのことをどう話そうか考えながら頷いた。
守弥はゆっくりと顔をあげて、あたしをじっと見つめて口を開いた。


「今右近少将様とはどのようなご関係で?求婚されているというのは本当ですか?」



それ聞く??!!





続く


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雪 says..."ふにゃろば様"
瑠璃×鷹男ではなく、瑠璃×???な話ですよね…
いえ、瑠璃×守弥にするつもりはないんですよ?でも最後に瑠璃が誰を選ぶかは…大丈夫か?ちゃんと鷹男を選ぶのか?!と作者としてもちょっと不安になりつつある展開です。
私守弥も好きなんで、ついね。いいポジションに置いちゃうんです!
2018.10.06 00:13 | URL | #- [編集]
says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018.10.04 21:33 | | # [編集]

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