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沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第六十話 左大弁家二の姫付女房・透子(瑠璃)

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まさかそれを聞かれるとは思わなかった。
何もその話題じゃなくても他にたくさん聞くことはあるんじゃないの?十八年ぶりの再会なのよ?しかも生まれ変わっての!他にもっと色々あるでしょう!

「瑠璃姫」

だというのに守弥は真剣な顔でこちらをじっと見て答えてほしいとばかりに促してくる。

「関係、というか…なんていうか……」

「求婚されているというのは事実ですか?」

何故か後ろめたくて俯いてしまう。

「事実…というかなんというか………」

「瑠璃姫」

「事実です」

なんかこれっておかしくない?子が親に叱られるようなことをして問い詰められてるみたいじゃない?
そう思ったら納得いかなくて堂々と反論しようと勢いよく顔をあげた。

のだけど、

すぐに諦めた。

いやだって守弥の顔が!
表情が!明らかに怒ってるんだもん!怖いんだもの!
こんなに怒った守弥は見たことないっ。

「………何故、そのようなことに?」

再び俯いてしまったあたしの頭上から、冷静だけど怒りを抑えたような守弥の問いかけがふってくる。
内心、どうしてこんなことを問い詰められなくてはいけないのか、どこが怒られるようなことをしてしまったのか、そもそもどうして守弥にとか反論したいことはたくさんあって納得できないんだけど。
逆らえない空気に渋々、左大弁家での出会いから求婚に至るまでの経緯を説明した。

「それで、瑠璃姫はどうお答えになるおつもりで?お受けするのですか?また右近少将の妻に…なるおつもりで?」

驚いて顔をあげた。

「まさか!少将様には何度もお断りしているわ!諦めてくれないだけで…知り合いの子供相手にそんな気持ちになるわけがないじゃない。そもそも少将様が本気かどうかもわからないのに……」

「私には本気のように見えましたけどね」

「高彬の甥っ子よ?男として見れないわよ」

昔の夫の甥にその気になれって方が無理だわよ!瑠璃姫としての記憶がなければ違うかもしれないけど瑠璃姫の記憶を引き継いでるあたしは外見は十七でも中身はおばちゃんなのよ!
と、力説したところで。
守弥の表情が和らいで見覚えのある昔の守弥に戻った。
どうやらお怒りはとけたみたい…?

「失礼しました。私が口を出す問題ではありませんでしたね」

「…もしかしてあたしを試したの?」

ふいに浮かんだ確信にも似た問いを口にすると

「いいえ。少々、感情的になりすぎました」

としれっと守弥は否定するんだけど。
どこがよ!全く!全然!感情的になってるようには見えなかったけど?!

「………瑠璃姫は、これからどうなさるおつもりで?」

「え?」

「今上帝の…女御になりたいのですか?」

「それは…」










「長恨歌」第六十話 左大弁家二の姫付女房・透子(瑠璃)










「…記憶がある以上、あたしは透子でもあるし瑠璃でもある。透子の家族も大切だけど瑠璃の家族も…気になるのよ。」

正直に心の内を話した。
守弥は真剣にあたしの話に耳をかたむけていた。
自分の死の前後は覚えていないこと、そのせいで姫宮を産んでいたことを知らなかったこと。一度も抱いてあげることもできなかった姫宮に、会いたくてたまらないこと。会いたくて会いたくて、後宮まで乗り込んできたことを。
あたしは守弥に話した。

「今上帝に瑠璃姫だと名乗り出るおつもりで?」

「……それはできないの」

「何故です?」

言いにくくて、そのことを口に出してその現実にまた直面するのが少し苦痛で、言いよどんだ。

「………あの人は、信じてくれない。」

そしてぽつりと、ようやく出た言葉は
意図したわけではなかったけれど小さくたよりなく響いた。

「…それは、」

「藤宮様とね、融も。秋篠権大納言様も。色んな人があたしを瑠璃だと言ってくれたの。でも…あの人は信じてくれなかった。あたしは瑠璃の名を騙る偽者、二度と名乗ることは許さないって…取り付く島もなかったそうよ…。」

それでも会いたくて。
鷹男に会いたくて。
名乗るなとは言われても来るなとは言われてないなんて屁理屈を言って、望まれてもいないのにここまでやってきた。あの人は今もあたしを忘れていない。あの人が今もあたしを想ってくれていることを支えに、もしかしたらという希望を捨てられなくてここまで。
自分勝手なことはわかってる。
自嘲の笑みが零れた。

「さっきね、二の姫について今上帝に挨拶してきたのよ。あの人…御簾の向こうから…冷たい声で…声をかけてもくれなかった…」

あたしのことなんて見てもいなかったのかもしれない。
御簾越しでは視線がどこにあったかさえわからない。
藤宮様の女房に化けて参内していたあの頃、あの人は必ず人払いをして、「瑠璃姫」と微笑んでくれた。すぐ、近くに座って……―。

「…瑠璃姫」

「…なに?」

無理に微笑んで守弥を見上げた。
その守弥の瞳にあたしを労わる色を見つけて泣きそうになった。

「姫宮様のことはともかく、無理に…瑠璃姫に戻らなくてもいいのではないですか?」

「……え?」

どういうこと?
伸ばされていた手が自分でも気づいていなかった涙をぬぐうように掠めた。

「弾正尹様と藤の大尼君様の協力があればいずれ姫宮様には対面できるでしょう。今上帝が信じないというのなら、無理に押し通す必要はないのでは?貴女が傷つくだけです」

「瑠璃だって…生まれ変わっていることを知らせる必要はないってこと?」

思ってもみなかったことを言われた。
今まで誰もそんなことは言わなかった。
守弥の意図がわからなくてただただ困惑した。

「お伝えはしたのでしょう?今上帝がお信じられないだけで。ならばこのまま透子様としての人生を歩まれることも考えてもいいのではないでしょうか?今上帝に信じていただくことも、信じていただけたとしてまた女御様となられるのも、茨の道です。生まれ変わってまで厳しい道を選ばなくてもいいのではないでしょうか。」

「………どうしてそんなことを言うの?」

“まるで、あたしを鷹男から遠ざけようとしてるみたい。”

あたしの心の声が聞こえたのだろうか。

守弥が微笑んだ。

「…っ」

十八年経った、大人の男の、顔だった。

息を飲んだ。

その顔があまりにも、あたしの知る昔の守弥とは違ったから。

あの頃よりずっとずっと大人びた

知らない男の人の顔のようだった。

「愚かな男の昔話をしましょう」

そうして守弥は語り出したのだ。
あたしの知らなかった、いいえ、守弥自身も、知らなかったあの頃のことを。

「その男は、滑稽なまでに愚かでした。ただひたすらに信じた主に尽くすことを生きがいに、それ以外の生き方を考えたこともなかった。真面目といえば聞こえはいいが堅物な周囲が見えないだけの愚かな男でした。自分自身のことすら、見えないほどに…」

気づいたのは、想い人が亡くなった後でした。
男は、自分が恋をしていたことにすら、気づいていなかったのです。いいえ、恋などという淡いものではありませんでした。相手が自分でなくとも、幸せであってくれればいいとまで想えるほどに、愛していたのです。

身分や立場が違いすぎることを理由に、自分の想いは愛ではないと思い込んでいた。いや、もしかしたら認めたとしても叶わぬ恋ならと、無意識に否定していたのかもしれない。ただ遠く、風の便りででも、その方が幸せで暮らしていると聞けるだけでいいと、本気で思っていたのです。目の前で自分以外の男と幸せにしている姿を見るよりよほどいいと…今思い返せばとっくに自覚していたのに、見て見ぬふりをし続けていました。
想いを告げる機会も時間も、いくらでもあったのに。その方が手の届かない遠い場所に行ってしまうまで……時間は充分にあったというのに。

男は、想い人が亡くなったという知らせを聞いて初めて、激しく後悔しました。そしてようやく認めたのです。自分が…その方を、愛していたことを。

救いようのない愚かさです。死んでから自覚しても、何もかもが遅い。もう二度と会うことはできない。告げることすら二度とできはしない。

「もり…や……?」

考えすぎだろうか。
誤解だろうか。
あたしの自惚れだろうか?

そうよ、そうに違いない。
そんなわけがない。

だって、守弥の話は、まるで…

まるで――


「そして奇跡が起きた。死んだはずの想い人に、生まれ変わって出会うことができた。私はもう二度と、同じ過ちは繰り返さない。」


まるで守弥があたしに本気で求婚してるみたいじゃない……―――


「先日は焦りのあまり性急すぎましたが、私の気持ちは昔と変わっていません。瑠璃姫、今世では私を男として見てください。貴女に本気で求婚する、貴女に恋する男として。」


「……本気で…言って、いるの……?」

震える唇から零れた問いかけは
掠れていた。

「瑠璃姫、いえ、透子様。貴女が峰男と私を名づけてくださったあの日から、ずっと私は…貴女を想っていたのです。」





続く


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雪 says..."ハニーさま"
ここから鷹男との距離が縮まっていきますよ!多分!
鷹男は手ごわいですが瑠璃が攻め込んでいきますので!
そんなにすぐは上手くいきませんがー。
事件と絡めつつになるのでなかなか展開が進まず、じれじれさせております。
でも短いスパンで更新続けられそうなので待つことなく読み進められるかと思います。
2018.10.06 00:19 | URL | #- [編集]
雪 says..."ふにゃろば様"
一応ね、今回のこれは以前のまいた伏線を回収したつもりなんですよ。ほら、求婚してたとか言ってたのをここでちゃんとさせてみたというか。でもまたひっぱっちゃったけどね(涙)!!!だってだって、そんなすぐにあっさり断っちゃったら切ないじゃん!守弥好きなんだもの私が!
てことで鷹男×瑠璃のつもりで書いてはいるものの、進む道は瑠璃に任せる方向ですのであしからず!
2018.10.06 00:16 | URL | #- [編集]
ハニー says...""
連日の更新、本当にありがとうございました。

少々仕事が忙しく、3話まとめて読みました。
人間模様が複雑に動き始めましたね。
守弥が告白するのは予想外でした。
鷹男が瑠璃を無視するのも。
何かしら言葉を交わし声を聞いて「もしかして?」
と気になり始めるのかなーと甘くて考えてました。
まだまだ試練は続くのでしょうか。
続きが気になります。
次回の更新も楽しみにしていますね!
2018.10.05 06:53 | URL | #- [編集]
says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018.10.05 02:03 | | # [編集]

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