FC2ブログ

沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第六十二話 右近中納言・藤原高彬

  2 

現在拍手小説はありません
近頃宮中が騒がしい。

僕の知らないところで何かが起こっている。近く久しぶりの宴があることからそのために準備に慌しいがそんなことが理由ではきっとない。確信に近い予感を胸に抱えながらも僕は普段と変わらぬ日々を過ごしている。

東宮様と承香殿女御様を有する僕ら右大臣家は表向きにはいまだ絶大な権力を持つ一大勢力だけど逆に言えば東宮様と承香殿女御様がいなければすぐに失墜するくらいの力しかない、それが今の右大臣家だ。
もちろん、次代の帝の縁戚であるということは絶対的な権力を持つ。けれどそれは父と承香殿女御様のお力あってこそのもので持続していくには先を読む力、政治力が必要だ。父が身体を壊しほぼ隠居に近い生活を送る今、残された僕ら兄弟には、父ほどの力はない。父が政治の表舞台から去ってから緩やかに求心力を失っていく右大臣家を見ながら痛感する日々だった。

兄達は気づいてすらいないだろう。今の右大臣家に擦り寄る人間達は権力に群がる下心のある人間ばかりで、いざというときに頼りになる助けようとする人間はきっといない。人を見て、本質を見抜き、先を見通し、先手を打つ、あらゆる事態を考慮して対応策を練り、いざという時の備えをする。信頼できる人員を随所に配置し、揺らぐことのない地位を築き守り続ける。次代の帝の縁戚になることは貴族にとっての夢だけど、本当に大事で難しいのはその立場を守り続けることだと思う。

右大臣家を守ろうと懸命に足掻いた。父がいたからこそ安泰だった地位を守るために。出仕すらできない父がいまだ右大臣でいれるのは、東宮様と承香殿女御様のために他ならない。離れていく人間を引き止めるため、足掻き続けた。状況を読めない兄達は今の立場に胡坐をかいて危機感さえ抱いていない。自分達の立場は一生安泰で崩れることがないと根拠もなく信じていて僕を敵視するばかり。
確かに互いに結婚し婚家に入った僕らは明確に言えば政敵かもしれない。特に次兄は梨壷女御様を入内させたことで父から地盤を引き継ぎ、東宮様の後見を継ぐのは自分だと宣言している。父の官位を次兄が継げば、その通りになるだろう。

守弥がいれば…。

時々そんなことを思う。
乳兄弟でもあったかつての側近は、身分こそ低かったけれど頭脳明晰で判断力に長けていた。右大臣家をまとめるだけではなく先を読む力もあって、右大臣家のためにと常に他家の情勢に詳しかった。時には政敵の弱みさえ握ってきていたのだから、すごさもわかるというものだろう。
父もそんな守弥がいたからこそ、何か事が起こった時の対処に迷うことなく、時には守弥に任せたりもしていたくらいだ。

その守弥がいない今。

僕に頼れる頭脳はない。
優秀といわれた僕だったけど、今思えば守弥がいてこそだったのだと後悔してももう遅い。

守弥が右大臣家を去ってからだ。
ゆっくりと、力を失っていったのは……。

身分だけで生き残れるほど、実際には政治の世界は甘くないのだ。

反対に、融は自身の力で頭角を現し、帝の絶対の信頼を得て出世していった。
内大臣様はすでに官位を返上し引退しているというのに、融は自分で力を得ていった。もう昔の、瑠璃さんに“ぼんくら”と言われた融はいない。いるのは心の読めない、目だけが笑っていない笑顔の、弾正尹だけだ。










「長恨歌」第六十二話 右近中納言・藤原高彬










融なら今起こっているだろう何かも、きっと知っているのだろう。むしろ中心にたって何かをしているのかもしれない。一昔前なら僕もそこの場所にいたはずなのに――。

何を間違えたのだろう、僕は。

どこからこうなってしまったのだろう。

瑠璃さんが死んでしまってから?
それとも
瑠璃さんと離縁してから?

だってそれ以外には、昔と何も変わっていない。

いっそ兄達のように鈍感でいられたなら
何かが起こっていることにすら気づかず、こんな歯がゆい悔しい想いはせずにすんだのに…。

「右近少将様が参られました」

「ああ、通して」

甥の右近少将が邸に訪ねてきたのはそんな時だ。
恋に悩んでいるという甥の恋愛相談からまさか、

この頃ずっと感じていた違和感を読み解く切欠が隠されていたとは。

甥の恋する相手にもっと関心を寄せていればと

やっぱり僕はいつも、後で悔やむことばかりなのだ―――。










「叔父上は中務少輔をご存知ですよね?」

訪ねてきた甥は思いつめた顔をしていて、その甥の口から出た名前に驚く。

「中務少輔…?」

「昔右大臣家で家司をしていたと聞きました」

「………」

「大江守弥です。ご存知ではないですか?」

苦い想いが広がる。
けど顔には出さず、穏やかに見える微笑で答える。

「もちろん知ってるよ。僕の乳兄弟だ。」

甥は少し驚いて

「そうでしたか」

と言った後、考え込む仕草になる。
うちを辞めてすぐ出仕するようになった守弥。中務少輔になっていることももちろん知っていたけれど甥の口から守弥の名前が出たことに驚いてすぐに返すことができなかった。甥が守弥と知り合いになったのだろうか。守弥とは何を話したんだろう。守弥は僕のことを…なんと言ったのだろう。
決して喧嘩別れしたわけではない。ただ意見が合わなかっただけだ。守弥が僕の側近を辞めて出仕するというなら喜んで応援するつもりだった。なのに…
なんとなく気まずくて、次第に話さなくなってどれくらい経つだろうか。

「どのような方なのですか?」

「…どうしてだい?」

本当は薄々わかってるんだ。守弥が僕に絶望して出て行ったことくらい。
わかっていても…どうしようもなかった。
あの時はあれが、最善だと思ったのだから。いいや、そうじゃない。守弥が僕に絶望したのは…時と共に忘れていったせいだ。人は忘れていく生き物だ。忘れることで自分の心を守り生きていける。忘れることは悪いことじゃないと、融や守弥以外の皆が言った。諦めることも悪いことじゃないと。正しい判断だったと。融と守弥以外の誰もが…そう、言ったんだ。間違いではないはずだった。今だってそう思ってる。
なのに何故なのだろう。
どうして今、僕の傍に融も守弥もいないんだろう。

「叔父上よりも年上ですよね。どこの姫君に通われているのでしょうか」

「守弥がどこかの姫に通っているという話は聞かないな」

きっと間違いなく、今でも独身を通している。
僕なんかよりずっとずっと、堅物な融通のきかない奴だから。

「どうしてそんなことを?」

守弥と知り合いになったからといって何故そんなことを聞くのだろうか。

「中務少輔は年下の女人が好みなのですか」

憮然とした顔で放たれた予想外の言葉。

「実は、どうやらわたしと中務少輔は恋敵なようなのです。透子殿に中務少輔が求婚していたのです。」

ですから恋敵がどんな人物なのか知りたくて、と。

僕が心の底から驚いたのは言うまでもないことだった。





続く


イイね!と思ったら押してください<(_ _)>
にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ

関連記事
雪 says..."ハニーさま"
なんだかんだで高彬には期待が大きいのですね(笑)
白にも黒にもなれるバイプレーヤー
今回は黒高彬…かな??

あえてここで高彬をはさんでみました(^_-)-☆
2018.10.10 22:39 | URL | #- [編集]
ハニー says...""
更新ありがとうございました。
なんだか情けない高彬が読めて気分が良いです、笑
でもここで何か気がつくのか?!
切れ者っぽさが残っていたとしても
生まれ変わりまでは、想像できないでしょう。

でもっ!
前話の続きかと思ったのにーーっ!!
雪様、焦らしプレイですね。
瑠璃と鷹男との絡みが読みたいですーーー!!!
2018.10.08 08:18 | URL | #- [編集]

コメントする






管理者にだけ表示を許可する

該当の記事は見つかりませんでした。