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沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第六十三話 左衛門督・藤原明人

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月が照らす光だけでは心もとなく、
わたしはそっと、二人の近くその表情が窺える傍まで近寄った。
いかに御所のお庭とはいえ尊き御身の主上をお一人で歩かせるわけにはいかない。主上ご自身に無用と言われても、相手が正体不明の女となれば譲ることはできなかった。
どこに武器を、そして仲間を潜ませているかわからないのだから。










「長恨歌」第六十三話 左衛門督・藤原明人










宴に先んじて藤壺に入られた姫君は、左大弁家でありながら弾正尹様の後見を得ているということで、後宮ではすでにその意味が憶測が憶測を呼び噂の的となっていた。弾正尹様に配慮してなのか与えられた殿舎が藤壺であることもまた人々の興味をひいていた。
大々的な参内ではなかったものの、後宮に住む者らにはわからぬはずがなく、やがて噂は公卿らの耳にも入った。しかしその理由を問う前に宴の招待客の増員が発表された。

主上の御言葉でそれまで招待されていなかった幾人かの姫君が急遽、招待されたのである。姫君はすでに夫を通わせている姫君からまだ未婚の姫君もおり、一様に東宮妃候補であるわけではないことは明らかだった。そのために左大弁家の姫君が先んじて藤壺に入っている意味を疑問に思う者はいなくなり、代わりに我先にと各家は姫君の参内を急がせるように動き内裏の喧騒はますます騒々しいものになっている。

誰も彼もが、久方ぶりの宴に純粋に心をはずませているのだ。

「左大弁家の女房を、ですか…?」

そんな中、わたしに下された命は左大弁家からついてきている女房の監視だった。

「怪しい動きがあれば報告してほしい」

「は。ですが…理由をお聞きしても?」

左大弁家の二の姫はあの弾正尹様が後見している。その姫君の女房に、監視しなければならない何があるというのだろうか。
主上は弾正尹様に絶対の信頼を寄せているはずだ。

「…弾正尹はああ見えて人がいい。騙されていなかと心配なのだよ。」

「弾正尹様がですか?」

わたしは首をかしげた。
あの弾正尹様が?騙される?人が…いい?
わたしの知る普段の弾正尹様からすると主上の御言葉はいまいち腑に落ちなかった。
しかも相手はたかだが女房。聞けばまだ十七だという。そんな相手にあの弾正尹様が騙されるなどということがありえるだろうか?しかし実際に二の姫の後見を買って出た唐突感は否めず、主上の御言葉を疑うのも不敬に感じた。

「特に姫宮への接触は阻止してほしい」

「姫宮様を狙っていると?!」

そうであればとんでもないことだ。もしやどこぞの公卿に買収され、姫宮様の寝所に手引きをする狙いでもあるというのだろうか。今上帝に溺愛される皇女様の降嫁を望む家は多い。主上がいつまでもお決めにならないからと強硬手段に出ようとしているのだろうか。
しかし主上はそうではないと否定された。

「目的はわからぬ。だが、何かしらの目的を持っていることは確かだ。はっきりするまで姫宮には近づけたくない。」

手は出さなくていい。とにかく行動を監視して報告をしてほしいと。
主上はおっしゃった。
ではわたしが調べましょう、と言った。
けれど――


「私が自分で確かめる」


これだけは他の者に任せられないのだと、

主上の意思は揺らがなかった。










そして夜半、件の女房が抜け出すのを確認すると後をつけた。
しばらく様子を見ても動く様子もなければ誰かがやってくる気配もない。素早く判断し、急いで主上へ報告する。まさか主上自ら出向くなどとは思わなかったが危険も考えればそのまま見送るわけにはいかず、身を隠し、黙しているようにとの命令と引き換えに護衛の許可を得た。

先をゆく主上から離れ、暗闇に身を隠しわたしも奥へと足を進める。

やがて大木の幹の根に、座り込んだ女の姿が見えた時にはどきりと鼓動が跳ねた。夜の御所の庭である。女が霊や妖の類にとり憑かれたのではと腰元にさした刀に手をかけ様子を窺う。
腰をかがめ忍び足で姿を隠しつつ二人の様子がわかる距離まで近づく。

「ここで、何をしている」

主上の冷たい声が響いた。

座り込んだ女はすぐには反応を見せなかった。たっぷりの間をとった後、ゆっくりと顔を上げ、
主上を見上げた。

すぐにでも抜刀しそうな自分をなんとか押さえ込み、息をとめる。やはり、霊か妖か。このような時分にいることも、このような場所に座り込んでいることも、すぐに反応を見せなかったことも
全てが異様でおかしかった。
普通の女人のはずがなかった。

「答えよ」

尚も主上が問う。
主上に何かあらばすぐ動けるよう、注意深く女の反応を待った。

「………考え事を、していたのです」

そしてようやく、女は答える。

「眠れなくて――。」

理解できないことを言う女だった。考え事など、部屋ですればいい。眠れないからとこのような夜に庭を出歩く女などいるはずがない。まだ若い、はっきりとは確認できないがそれなりに整った顔立ちをしている女だ。
主上はといえば一瞬、顔色が変わったように見えたが月の光しかない暗闇での出来事だ。はっきりとはわからなかった。

「夜の御所は妖の棲家。女は格好の餌となろう」

主上は女に言った。
御所に昔からまことしやかに囁かれている噂。普通の女ならば、このようなことを言われては恐怖に震えて逃げ帰る。しかし女は笑ったのだ。

「本当に恐ろしいのは人間ですわ。妖も霊も………物の怪もいません」

主上のおっしゃる通り、ただの女房とは思えない。
主上の眉が小さく動き、だが無表情なまま女を見下ろしていた。

女が立ち上がる。
主上と向き合う様は不敬なほど堂々としていた。

「……………左大弁家の、女房か」

「…はい。」

「弾正尹とも藤宮とも親交があると聞いている」

「……はい。」

「自分が藤壺女御の生まれ変わりだ、と?」

「………」

藤壺女御様の生まれ変わり?!
主上は一体何を?

「答えよ」

「あたしからは、何も。」

主上のお顔が鋭さを増した。
じり…と、一歩、主上が女に近づく。女は動かない。不敬にも視線を逸らすことすらしなかった。
主上のおっしゃるとおりだ。
狙いがあるとしか思えない。
その狙いが、藤壺女御様の生まれ変わりだと名乗ることだと?

「何も?」

「ええ、何も。主上がご自分で判断なさってください。あたしは何も言うつもりはありません。」

「身元の調べはついている。何故近江からわざわざここまで来た?何が目的だ。」

主上の手が伸びる。
女へ向かって―――

「っっ?!ぐ……っ」

「弓削是雄の手先か。今度は皇女を狙うか」

「…っ、ちが……」

女に向かって伸びた主上の片手は女の身体を軽々と持ち上げていた。首を持ち上げられた女はそのまま背後の大木に押し付けられ、苦しげな呻き声をあげる。

「二度もやられると思うな。皇女に手出しはさせぬ。」

「っ…」

咄嗟に動くことができなかった。助けるべきか否か迷ったこともある。だがそれ以上に、月光に照らされた主上のお顔が、女を掴みあげる主上があまりに恐ろしかった。
女が苦しそうにもがく。これ以上は…と、止めに入ろうとした。

どさっ……

その一歩前、
主上は手を放し女はその場に崩れ落ちた。

その姿を


冷酷な光を宿した主上が見下ろしていた。





続く


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雪 says..."はる様"
まず最初の再会はすれ違い?になりました(ーー;)

そう、そうなんです!!それだけ鷹男は苦しんでいたのですー
他の人達が簡単に信じてくれた分、鷹男は難しい、難易度マックス!

二人に幸せな結末が訪れるよう、応援してくださいませ。
2018.10.12 16:09 | URL | #- [編集]
雪 says..."ふにゃろば様"
さてさて、明人達をまたどうするかも迷うところですねえ。
二人にはじっくりゆっくり距離を縮めてもらおうかと考えていたのですが…
瑠璃が鷹男を落とす過程を応援してくださいませwww
鷹男は瑠璃を守れなかったぶん、瑠璃の産んでくれた姫宮のことはなんとしても絶対に守りぬくつもりのようです。
それが変なふうにこじれて…目を曇らせているのかもしれません。
2018.10.12 16:04 | URL | #- [編集]
雪 says..."ハニー様"
病んでるんですよー。みんな病んでるんです!融も、藤宮も!
特に鷹男が重症のため、すんなりとはいきません。
名乗らないで信じさせるのは至難の業ですよね。。わたしも自分で書いておきながらどうしたらいいんだと頭を抱えましたものwww
ここからは特に瑠璃の力次第ですね。
ハッピーエンドになれるよう、彼女には頑張ってもらわなくては!!
2018.10.12 16:00 | URL | #- [編集]
雪 says..."蘭さま"
鷹男が頑なです…
でもでも!そんな鷹男を陥落させるべく、瑠璃の奮闘が始まりますので!
あっさり信じちゃったらそれはそれで面白くないのでね(*^^)v
まずは、話を聞いてもらうべく、瑠璃が頑張りますよ!
2018.10.12 00:03 | URL | #- [編集]
はる says...""
雪さま、こんばんは🌛

なんという悲しい再会…
胸が苦しくなりました。
それくらいずっと鷹男は苦しんできたという事でしょうか。
でも、きっと気がついてくれますよね。
幸せな二人を見られるように祈っています。
2018.10.10 22:42 | URL | #- [編集]
says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018.10.10 21:17 | | # [編集]
ハニー says...""
更新ありがとうございます。

はーーー。
息を飲みながら読ませて頂きました。
緊張感いっぱいですよー。

鷹男、声を聞いて少し気にかかりましたね。
なのにまだ信じられない。
病んでますねー。
瑠璃姫はあくまでも名乗らないままで
どうやって信じさせるのかな。
「鷹男」って一言、呼びかけたらいいのに。
次の更新は鷹男のターンかな?
ワクワクしてます。楽しみです!
2018.10.10 06:41 | URL | #- [編集]
蘭 says...""
鷹男!なんてこんなに酷い!
瑠璃ちゃんが可哀想 ><
せめて、話を聞いてあげたらどうなのよ!
声だって、瑠璃ちゃんのそのものでしょう?

再会と言うのに (泣)
2018.10.10 00:14 | URL | #- [編集]

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