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沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第六十四話 左大弁家二の姫付女房・透子(瑠璃)

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何よ…

何よ何よ何よ鷹男の馬鹿!!!

信じてくれてないことはわかってた、怪しまれてることだって承知の上。だけど…だけどあんな冷たい目で…っあんなふうに恫喝するなんて…っっ
掴みあげられた首をさする。ちくちくした痛みにじわりと涙が滲む。
本気の目、だった。
本気であたしを憎んでる目だった。知らない相手を前にした、敵を見る目だった。

「二度もやられると思うな。皇女に手出しはさせぬ。」

あれはどういう意味だろう。
あたしの目的が姫宮だと思っているの?あたしが姫宮の命を狙っていると?
二度も、と鷹男は言った。二度、ということは一度目はあたしが殺されたことを言っているの?

………。

“弓削是雄の手先”
鷹男は疑ってるんだ。あたしがかつてあたしを殺した男と繋がっているかもしれないと。そんなはずないのに、鷹男の心はそこまで凍てついてるのだろうか。
十八年前、弓削是雄の意を汲んで藤壺女御だったあたしを死に至らしめたのは女達だったと聞いた。ならば、鷹男はあたしが現れたことを、弓削是雄が裏で糸をひいていると疑っているのだろうか。黒幕が弓削是雄だったと発覚したことと、あたしが現れた時期が一致している偶然は確かに疑いたくもなるのかもしれないけれど。

“皇女に手出しはさせぬ”

鷹男は姫宮を今度こそ絶対に守ろうとしてる。


鷹男をあんな風にしたのは間違いなくあたしだった…―――。










「長恨歌」第六十四話 左大弁家二の姫付女房・透子(瑠璃)










あの後、鷹男は倒れこんだあたしを一瞥しただけで踵を返し行ってしまった。
脅すために来たのだろう。もっと問いただされるかと思ってたのに。
考えていた以上に鷹男は頑なだった。

どうやったら鷹男の心を溶かすことができるのだろうか…。

早々に暗礁に乗り上げてしまったような、あまりの難易度の高さを突きつけられた感じだ。
こうなったら…

「もうやめよやめ!鷹男の言うとおりにしてたらいつまでかかるかわかったもんじゃないわ!鷹男があそこまでしてくるっていうんならこっちだって勝手にしてやろうじゃないの!気遣ってなんかあげないんだから!」

落ち込んだのは一時。すぐに思いなおすと拳を握って立ち上がる。

「見てなさいよ鷹男!この瑠璃様を怒らせたこと後悔させてあげるんだから!」

宣戦布告よ!!










「大尼君様からの御文をお持ちしました。直接主上にお渡しするようにとのことですのでお取次ぎを。」
「弾正尹様から言付けを頼まれております。必ず主上にお伝えするようにと。」

あの日以来、あたしは脅しに屈することなく伝手を最大限に利用してあの手この手でなんとか鷹男に近づこうと奮闘している。
けれどことごとく空振りに終わっているのが現状だった。
藤宮様や融にお願いしてあれこれと鷹男の帝に近づける用事をもらっているのだけど相手は今上帝だ。一介の女房がそうそう近づける相手のはずがなかった。会えても以前のような御簾越しで言葉もかけられなかったり、はたまは取り次いですらもらえなかったり。伝言も文もお付きの女官に預けるしかなくすごすごと引き下がったこともある。なんていうかこう…強引に行けば行くほどに向こうも頑なになっていってるみたいな…。

もうどうすればいいのよ、これ…

あの日のように偶然?出会えるなんてことも起こることもなく。
むしろ徹底的に避けられてるような気さえしてくる。
口実にして参内した宴も近づいて宴に出席する姫君達が日々後宮入りしてきて後宮もどんどん賑やかになってきている。今は宴の準備に追われてあたし一人の奇行もさほど目立っていないけど、最近はさすがに帝付きの女官達から白い目で見られるようになってきていて…

これってもう…手詰まり?

女官達にどう見られているかなんて手にとるようにわかるわよ。きっと間違いなく、帝のお手つきを狙ってるとでも思われてるはず。そうじゃなきゃ、なんとしても二の姫が東宮妃に選ばれるようにと強引なまでに主張しているとでも思われてるのかもしれない。勾当内侍様には何度か遠まわしに注意のような忠告も受けた。あたしの言動が二の姫の評価に繋がるのだからと言われるのは当然だけど驚いたのは鷹男の恐ろしさを説かれたことだった。

「邪魔をするつもりはありませんが主上のお怒りを買うような行動だけはしませんよう。…命がいくつあっても足りません故。」

せっかく生まれ変わったのにまた殺されるのはさすがに嫌だなあ。
まして誤解されたまま鷹男に殺されるなんて絶対避けたい。

「透子殿が来られる度に主上のご機嫌が悪くなり…恐怖に倒れる女官が増えています。いい加減どうにかしてほしいと訴えが絶えません。」

しかもそこまで言われちゃって。
どうりで。最近の女官のお姉様方からの視線がきついのはなるほどそういうことでしたか。

「大尼君様のお名前や弾正尹様のお名前を出されては誰も文句は言えませんのでわたくしが代表で言わせていただきますが。」

「すみません……」

さすがにそこは素直に謝罪したわ。
周りの人に迷惑かけていいってことにはならないもの。

はあ…。
でもどうしたらいいんだろう。

勾当内侍様の前というのも忘れてつい溜息をついてしまう。

「………透子殿は何がしたいのですか?」

「え?」

「どうにも主上にお会いしたいようにお見受けしますが…そこまでする理由は何なのでしょうか?」

「それは……」

「大尼君様や弾正尹様からの文などは口実なのでございましょう?」

「…どうして?」

思わぬ勾当内侍様からの鋭い指摘にどきりとする。
勾当内侍様はこちらの真意を読むべく真っ直ぐにあたしを射抜いていた。

「主上のお怒りを恐れぬ人間などおりません。けれどあなたは…恐れていないように見える。」

「……そんなことはありません。」

否定したあたしに、
勾当内侍様は否を唱えた。

「いいえ。あなたは全く恐れてなどいない。それどころか…挑んでさえいるように見えます。恐れ多くも主上に…主上もあなたに対して悋気をお隠しになられない。それなのにあなたは主上のお怒りを前にしても平然としていらっしゃる。何故なのでしょうか。死を賜ることが恐ろしくはないと?主上も何故、あなたにあれほどまでにお怒りなのでしょう?透子殿…あなたは主上に何を言ったのです?」

なんだかおかしくて、
思わず、小さく笑った。

「言うも何も。お話すらできていないのに何も言えるはずがないじゃないですか。」

それこそあたしとしては言いたいこと話したいことがたくさんあるっていうのに。
話す機会ももらえない。

「弾正尹様はわたくしにあなた方の邪魔をするなとおっしゃった。常識を捨てて判断しろとも。…どういう意味なのでしょうか。」

融がそんなことを?

「あなたがしていることに答えがあるというのでしょうか?」

「………」

あたしは黙った。
答えることはできなかったからだ。
むやみに自分が藤壺女御だったことを打ち明けることをする気はなかった。藤宮様や融、父様や母様。煌姫。橘大納言様。大事な人達が知ってくれているだけで充分だった。

「もしやあなたは……」

勾当内侍様が言った。

「透子殿。あなたは…もしや主上に藤壺女御様についての何かをおっしゃったのではないですか?それ故主上はあれほどまでにお怒りなのではないですか?」

あたしの?

「どんなことであれ、藤壺女御様についての話題は禁忌です。口にして許されるのは主上がお許しになられたほんのわずかな方々のみ。主上のお怒りの原因はもしや藤壺女御様のことにふれたからではありませんか。」

それ以外に考えられません、と。

勾当内侍様はあたしを睨んで言ったのだった。





続く


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