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沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第六十五話 勾当内侍・源盛子

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拍手御礼小説掲載
「今はまだ何も答えられません。」

申し訳ありません、と。左大弁家の女房は頭を下げた。

「ご迷惑はおかけしませんからもう少し…自由にさせていただけませんか。」

そうして懇願する顔は真剣で
もとより邪魔をするつもりはなかった。弾正尹様に言われたからだけではない。わたくし自身が、理由はわからないながらもそうするべきであるように感じてしまっていたから。

「主上に害をなすようなことは絶対にありませんから。それだけはお約束しますから。あたしはただ…どうしても主上と話したいだけなのです。」

まるで恋でもしているような必死さで。
聞く者が聞けば誤解を招きかねないことを言う。それとも、誤解ではないというのか。
左大弁家の女房でありながら。東宮妃候補の主人に仕える女房でありながら。

主上の信頼する藤の大尼君様も弾正尹様もこの女房に肩入れし協力さえしている。橘大納言様までがさりげなくを装いつつも協力しているのも知っている。
そうまでする価値が、理由が、この女房にあるというのか。
何故皆様はそこまでしてこの女房を主上のお近くにと望むのだろうか。

「……あなたが主上の闇を払えると?」

気がつけばそんな言葉が零れていた。
まさか。ありえない。
ただの若い女房に主上のお心を晴らせるはずがない。主上の抱える闇はそのように簡単なものではない。姫宮様でさえ一時的にしかお心を晴らせないのだ。それこそ藤壺女御様ご本人が黄泉から蘇ってでもきてくださらない限りできるはずがない。

透子殿が驚いた顔になる。

「戯言です。お忘れください。」

すぐに訂正する。馬鹿なことを言ってしまった。
なのに女房は泣きそうな顔で答えた。

「そうしたいと思っています。」

「何を……」

できるはずがない。
無謀にも程がある。
処刑すらありえるのに本気で言っているのだろうか。

「そのためにもどうしても…どうしても帝にお会いしてお話したいのです。伝えなければいけないことがあるんです。」

藤の大尼君様も弾正尹様も橘大納言様も承知だというのだろうか。
あの方々もそのためにこの女房に協力していると?

「あなたに……あなたに何ができるというのです」

これまで誰にもできなかったことを。
何故あなたならできるというのか。
何故あの方々はできると信じたのか。

「下手をすると死ぬのですよ?いいえ…確実に死を賜ります。」

これまでいなかったわけではない。
主上のお心を癒そうと、藤壺女御様へのお気持ちを忘れさせようと、藤壺女御様に成り代わろうとした女は数多いる。身分の高い姫君から身分の低い女官まで、中には大層美しい姫君もいたし庇護欲をそそる儚さをもった姫君もいた。妖艶な美しさをもった姫君もいた。けれど誰も主上のお心を掴むことはできなかったのだ。ただの一人もだ。
どんな姫君も藤壺女御様に成り代わることはできなかったのだ。

それどころか…

藤壺女御様の御名を口にして近寄ってきた女人達は悉く主上のお怒りを買って追い出された。藤壺女御様を悪く言った人間には出家に追い込まれた方もいる。まして身分のあってないような女房如きなら殺されてもおかしくはない。

「心配してくれるのですね。ありがとうございます。勾当内侍様はお優しい方なのですね。」

「そのようなことを言っているのではいのです!あなたは主上の恐ろしさをわかっていない!」

なのに。

女房、透子殿は言ったのだ。

「そうかもしれませんね。でも…諦めるつもりはありません。」

真っ直ぐにわたくしを見返して。

強い光を称えた瞳で。

「きっとあたしは、そのために生まれてきたんですから。」










「長恨歌」第六十五話 勾当内侍・源盛子










偽りは感じなかった。
むしろ真実だけがあるように見えた。

「それに、あたしが諦めたら…誰が帝を救えるんですか。あたししかいません。あたし自身もそれを望んでいるのですから、どんな結果になっても後悔はしません。ここで諦める方が後悔するってわかりきってるもの。」

「あなたは……」

一体何者なの…?

出てしまいそうになった疑問はなんとか押さえ込み口には出さなかった。
弾正尹様はおっしゃった。常識を捨てて見ろと。
そこに答えを読み解く何かがある気がした。

まだ十七と聞いている。
左大弁家の、二の姫様に仕える下級貴族の女房だと。
なのにこれはどういうことだろう。
この貫禄、この落ち着きぶり。この自信。豪胆さ。
話し方も下品とも言えるのに不思議と嫌悪感は感じず好感さえ覚える。
憧れたあの方のお姿に重なって見えるのはわたくしの気の迷いだろうか。

「ですから勾当内侍様、協力していただけませんか?なんとかして帝に…主上にお会いできるように。」

それも、密かに。
二人きりで。
ゆっくり話しができるように。

「殺されても化けて出たりしませんから安心してください。」

本当にこの方は、

一体何者なのだろうか。

「………主上はもう十数年以上、どなたも閨にお召しになりません。」

何故、
わたくしは答えてしまったのだろう。

「ですからあなたを主上の閨に呼ぶことはできません。」

わたくし自身さえ罪を問われかねないことなのに。

「女官らを遠ざけ、主上とお話するには閨に侍るしか方法はありません。」

時の帝の中には女御様や更衣様ばかりではなく女官にも寵愛を与える方もいらっしゃる。帝の御子を産んだ女官の例も少なくはなく女官でありながら帝の妃のような扱いを受けることもある。そのような帝であれば女房といえど閨に侍る機会を設けることは不可能ではない。一夜限りでもと望めばそれこそ、可能性は高い。
月のさわりなどで帝のお相手ができない主人の女御様や更衣様に代わり、その女房が帝のお相手を勤めることもなくはないのだ。他の妃らに帝のお相手をする機会を与えてしまうよりずっといいと判断して時に自ら薦める。自分の女房ならば裏切ることはなく、例え寵愛を受けたとて、敵になることはないと判断してのことだ。
けれど、今上の帝では無理だ。
今上の帝はもう十数年も、どなたも閨に呼ぶことなく一人寝をされている。東宮様の生母である承香殿女御様でさえ昼間のお渡りばかりで閨から遠ざかって久しい。東宮様がおられる今、新たな皇子の誕生は火種を生むだけと拒否されれば、正論に誰も反論はできない。過去にあった事件を考えればそれこそ、主上のおっしゃる通りでもある。
更衣様ばかりか女御様さえ伽を許されないのだ。女房如きが許されるはずもない。

透子殿の目的が主上の閨に侍ることではないことは理解している。
透子殿の顔色は変わらず動揺は見せなかった。

「それ以外で他に機会があるとすれば……………一つだけです。」

「……それは?」

「…月に一度、藤壺女御様の月命日の日、主上はお姿を隠されます。どこにいらっしゃるのか誰も知りません。探すことも許されません。まして…主上にお会いしようとするなど、殺されても文句は言えない日です。」

透子殿が息を飲んだのがわかった。

「その日だけは主上は誰のことも遠ざけお一人になられているはずです。女官らを遠ざけ、主上とだけお話するには……その日しかありません。」

殺されにいくようなもの。
それでも行くというのか。

「どうするかは、あなたがご自分で決めなさい。わたくしに教えられるのはこれだけです。」





続く


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雪 says..."はるさま"
月命日に瑠璃を偲びに鷹男が向かう先は…?!
無事見つけ出し、二人は会えるのでしょうか?
今世での二人の関係を変える一歩に…?ああ、どう返信してもネタバれになりそうです!!
2018.10.15 22:49 | URL | #- [編集]
雪 says..."蘭さま"
さてさて、瑠璃は鷹男を探し当てることができるでしょうか?!
そして鷹男はどう動く?!
答えまで、少し、閑話?を挟む、かも。。すみません!!
2018.10.15 22:43 | URL | #- [編集]
雪 says..."ハニーさま"
できたら今週も連日更新したいなと思っておりますよ(*^_^*)
後宮編に入ってやっと鷹男の出番が増えてきましたからね!ヒーローらしい動きをしてくれたらいいんだけど。
鷹男と瑠璃の二度目の邂逅はさて、どんな展開になるのか?予想を裏切っちゃうかも…(^_^;)

高彬と弓削のことももちろん、出てきますよ!
あれこれ書くべきシーンが多すぎてるのが主役カップルの仲が一向に進んでない要因…!
2018.10.15 22:41 | URL | #- [編集]
はる says...""
雪さま🌼

瑠璃ちゃんの月命日…
鷹男が行くのは二人の思い出の場所でしょうか??
きっと瑠璃ちゃんにはわかるはず。
早く、瑠璃ちゃんと鷹男の笑顔が見たいです。
2018.10.14 00:16 | URL | #- [編集]
蘭 says...""
今度こそ信じてね、鷹男!
鷹男の居場所、きっと瑠璃ちゃんが分かってますね。ドキドキ💓しています。
2018.10.13 20:09 | URL | #- [編集]
ハニー says...""
連日の更新、ありがとうござます。
いよいよ盛り上がって来た中で連日読めるのは
本当に嬉しいです!
ありがとうございます!!

さて、彼女は順調に味方になりつつありますね。
もともと瑠璃姫の人柄に惚れ込んでいた女性なのだから
当然の流れというところでしょうか。
月命日の日、鷹男はどこに出掛けるのかな。
秋篠様とかに聞いてそこに奇襲をかけるとか。
猛烈なプッシュに鷹男が気がつく日も近いかな。

うまくいきそうな流れになりつつあると
弓削や高彬の動きも気になって来ます。
あれこれ読みたいシーンが多くて困ってきました。

次の更新も楽しみにお待ちしています!
2018.10.13 12:28 | URL | #- [編集]

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