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沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第六十九話 左大弁家二の姫・柊花(小萩)

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拍手御礼小説掲載
瑠璃姫様…

日が暮れてからひっそりと後宮を退出した瑠璃姫様は
もう今頃、主上と再会を果たしておいででしょうか?
あれほどまでに頑なにわたくし達の転生を信じようとしない主上に、一体どうお伝えすれば信じていただけるのか。
わたくしには到底思いつかず、さりとてこのままでよいとは言えず、なんとか瑠璃姫様が瑠璃姫様であると主上に信じていただきたいと願うばかりのわたくしはなんと無力なのでございましょう。これでは生まれ変わる前と何も変わらず瑠璃姫様のお力になることもできない…切ない、口惜しいことでございます。

あの、御簾越しに果たした、十五年ぶりの主上との再会…

あのように冷たく重いお声は、小萩だった生前には聞いたことがありません。思えばわたくしが主上とお会いする時はいつでも、帝としてではなく瑠璃姫様の背の君や姫宮様のお父君としての主上ばかりでしたから…
わたくしが知らなかっただけで主上は昔からあのような冷徹な雰囲気をお持ちだったのでしょうか?

恐れ多くも今上帝でございますから、それこそが当然の、あるべき姿なのでしょうか…―――。










「長恨歌」第六十九話 左大弁家二の姫・柊花(小萩)










後宮に入る前日のことでございます。

申し訳ないことながら今世ではわたくしの女房になっている瑠璃姫様がわたくしの後宮入りのための支度に追われる最中、融様から面会の申し出がありました。

急な参内が決まった経緯に融様のご尽力があることはわたくしと瑠璃姫様には当然のことですが、今世の両親には青天の霹靂でありそれはもう、大層驚かせたことには違いありません。それに関しましては融様の方から上手く辻褄を合わせた説明と説得があり両親も納得しているのですが、わたくしの後見人まで申し出てくださり後宮に連れて行く女房も弾正尹家から出してくださるとのお申し出には恐縮するばかりでした。両親としましても遥か身分が上の弾正尹家からの申し出に断るわけにはいかず、また願ってもいない幸運と快諾したようです。

融様がわたくしを推すことすなわち、東宮妃にほぼ決定ということになるのですから――。

「別に内緒にしたいわけじゃないけどこれは小萩自身のことだからさ。姉さんに関係なく小萩の気持ちをちゃんと確認したかったんだ。」

瑠璃姫様があちこちと忙しく走り回っている時分、母の北の対に呼び出されたわたくしを待っていたのは融様で、
挨拶した後両親は退出していき融様と二人で話すことになりました。

「わたくしの、でございますか…」

正直、瑠璃姫様がどうなるかの方が心配で不安で大切で、
わたくし自身のことは口実くらいにしか捉えていなかったのですが…

「そうだよ。小萩も今や東宮妃候補にまでなる姫君だ。姉さんのことばかりじゃなくて今世の人生をちゃんと考えなきゃ。」

「ですが…」

「言っただろう?父さんも母上も僕も姉さんも。小萩にも幸せになってほしいんだよ。」

「融様…」

なんと勿体無いお言葉でしょうか。
わたくしは感動で涙ぐみました。

「小萩は東宮様の更衣になりたい?」

「…わたくしの入内は決定事項では?」

父からはそのように聞いておりました。そのつもりでいるように、と。もっとも、聞く以前から察してはいたのですが。

「まあ、その辺りはどうとでもなるからさ。小萩がどうしても嫌だっていうなら僕がなんとかするから。」

それくらいの力はあるから信頼してよ、と。
融様が微笑みました。

わたくしは考えます。
小萩としての記憶を取り戻す前、左大弁家の二の姫の柊花として生きていた頃は、わたくしはただ流されるまま。父や母の言う通りに東宮様に入内することに何の抵抗もありませんでした。それが義務であり幸福であるのだと、疑っていなかったのです。小萩としての記憶を取り戻した今、瑠璃姫様のように自分で選んだ、お慕いした方と結婚することに憧れはあります。自分もそうできたらという想いが、ないわけではありません。

ですが…

「わかりません…」

現状、今のわたくしにお慕いする方はおらず、東宮様に入内することに喜びも悲しみもないのです。

わたくしの答えに、融様は困り顔になりました。

「うーん、そっかぁ。」

わたくしは恋愛事に疎くその手の感情が薄いのかもしれません。とうとう前世でも特別にお慕いする方がいないまま生を終えましたから。

「でもさ、小萩にとっては東宮様は子供のような年齢だろう?ほら、小萩も今は実年齢は十五だけど中身は――」

「融様、女にそれは失礼ですわよ。」

「ご、ごめん…」

融様のあまりに失礼な物言いにわたくしはむっと顔をしかめました。
それは、融様の言う通りですわ。わたくしは身体こそ十五の少女ですけれど小萩の生を足せば十五どころか……
ですがそれはそれ。
いくつになっても女は女なのです!失礼ですわ!

「そ、そうじゃなくてさ、東宮様をそういう目で見れるかどうかを心配して……ごめんって、小萩!怒らないでよ~」

わたくしは溜息をつきました。

「…わたくしの方こそ、申し訳ありません。前世でも今世でも身分も考えず失礼なことを。」

「いや、小萩だからそれは全然いいんだけどさ。」

「融様はお優しいですね」

にっこりと微笑んだわたくしに、
融様はあの頃によく見ていた、照れたような笑顔になりました。
やっぱり、本質はあの頃の融様と何も変わっておられないのですわね。
瑠璃姫様の女房にすぎないわたくしに、東宮様とのことを心配してくださるのも融様のお人柄故でしょう。

「東宮様にお会いする機会は、ほとんどなかったのです。」

遠いあの頃を、思い出し目を細めました。

「わたくしは藤壺女御様付きの女房でしたから、承香殿女御様のお産みになられた東宮様にお会いする機会はほとんどありませんでした。」

特に藤壺と承香殿が対立していたということはありませんでしたけれど、恋敵といえば恋敵のお立場でしたから、あちらの東宮様にわたくし共がお会いできる機会は多くなかったのです。時折遠目から、幼いお姿を拝見する程度で。

「ですから、わたくしには東宮様は知らない方にも等しくて。幼いお姿の記憶も少ないのでさほど抵抗はないかもしれません。大人になられた東宮様にお会いすれば東宮様は今のそのままの東宮様として受け止められるかと。」

「そうか。」

「ええ。ですから…お会いしてから決めるのでもよろしいですか?」

もちろん、本来であればそんなこと不可能です。姫君の結婚に、本人の意思など考慮されないものですから。まして東宮様への入内ともなれば…政治的な事柄が最優先、適任とされればわたくしが断ることなど処刑されても文句は言えません。
それでも。
融様がこうしてわたくしの意思を確認してくださるということは…
きっとおそらく、融様はわたくしが嫌だと言えば助けてくださるおつもりでいる。その力も方法もおありになる。そういうことなのだと思うのです。

「わかった。小萩がそうしたいなら、いいよ。」

「ありがとうございます。」

実際にお会いした東宮様がご立派で、心の年齢差など跳ね除けるような大人な方ならば、
子供を相手にするような心持ちにはならないでしょう。
こればかりは、お会いしてお話してみないとわからぬことでございます。噂はあてにならないものですからね。

「本当にさ、本気で小萩も僕の養女になればいいと思ってるから。身分とか考えずに幸せになれる相手を見つけなよ。」

入内するとなれば更衣じゃなくて女御にもなれるからね!

と…。

融様はまた、あの頃と同じ顔で笑ってくださったのでした。





続く


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