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沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第六十八話 左大弁家二の姫付女房・透子(瑠璃)

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拍手御礼小説掲載
法珠寺はひっそりと静まり返っていた。
見張りの侍達の姿もなくとても帝がお忍びできているとは思えない静かな様子に、ここではなかったかと不安がよぎる。
牛車から降りると昔の記憶を頼りに奥へと進んだ。出迎えの小姓も僧ももちろんいない。先触れもせず侵入者なはずの自分がこうまですんない入り込めることに、自分でも不思議なほど違和感を感じていなかった。

きっとここでも、鷹男の心に配慮して誰もが遠慮しているんだ。

だとしたらやっぱり鷹男はここにいる。


この寺のどこかに、鷹男はいる……。










「長恨歌」第六十八話 左大弁家二の姫付女房・透子(瑠璃)










「ご案内致しましょう」

「あ…」

突如現れた僧があたしの前に立ち、静かに微笑んでいる。

「あの…っ」

「こちらです」

「え…」

どうして?
困惑するあたしを他所に僧はゆっくりと歩き出す。慌ててそれを追いかけながら疑問をぶつけようと口を開く前に
静かな声が答えを紡いだ。

「お待ちしておりました」

あたしを?

「ど、して……」

あたしが誰だか知っているの?何故?
共もつけず、先触れもなく、単身乗り込んで声もかけることなく勝手に入ってきていたあたしは不審者だ。それなのに僧は驚くことも捕らえることもせず、用件さえ言っていないのに当然のように案内すると言う。
もしかしてすでに融が伝えてくれていたのだろうか?それに思い至ると納得して、困惑していた心も落ち着いた。

「観照様、ですか…?」

後ろをついて歩きながら、恐る恐る尋ねた。先を歩く僧は高齢でかなりの高位だろうと思えた。落ち着き払った静かな佇まいも貫禄があった。
月の光しかない暗い廊下を僧が持つ火の明かりだけを頼りに歩き、人気のない静まり返った寺は常であれば恐怖を覚えたかもしれない。

僧が立ち止まる。

あたしを見つめて

「はい」

と返事をした。

「あ、あの…っありがとうございます、観照様。やっぱり鷹…帝はここに?」

再び歩き出した観照様の後を追いながら流行る気持ちを抑える。
あたしが来ることを知っていたなら、案内してくれると言うのなら、あたしの目的が鷹男の帝だということも、鷹男がここにいることもご存知のはず。

観照様は歩みを止めることなくおっしゃった。

「はい、この先におられます。」

胸がつきりと痛んだ。

「帝は毎年ここへ?」

「はい。夜明けまでじっと月を見上げてお過ごしになられます。」

「一人で、ですよね…?」

「今上帝の御心には常にお一人しかいらっしゃいません」

「それは……」

さらに尋ねようとした時、観照様の足が止まり振り返った。

「これより先はあなた様お一人で進まれてください。」

「………ありがとう、ございます…」

息を飲み、覚悟を決める。
ぎゅっと胸の前で拳を握り、前を見据えて足を踏み出す。

その、後ろから

「どうぞ、今上帝をお救いください。あなた様にしかできないことでございます。」

観照様の声があたしの背中を押した。










鷹男…

つきあたりの渡廊に、見つけたのは座り込む鷹男の姿。
一人月を見上げる瞳は切なく哀愁を帯びていた。周りに転がるいくつもの酒杯、冠をはずした髪はところどころ乱れほつれた黒髪が肩に流れている。石帯をつけていない袍から覗く下襲に単の奥には小袖さえ見え隠れしそうなほどで凶器なまでの色香を放っていた。襪も浅履も履いていない長い足は片足は曲げもう片足は無造作に投げ出され、こんな時なのに羞恥に顔が赤くなる。

酔っている、のだろうか。

こちらの気配に気づいていないのか、鷹男は振り向かない。

高鳴る鼓動を抑え呼吸を整えて、
覚悟を決めてもう一歩、踏み出した―――。

ぎし…

他に何の音もしないせいで床を踏んだ音が響いた。
その音に、月を見上げていた鷹男がこちらを振り返った。

「った……っ………」

名前を呼びそうになって飲み込む。この期に及んで迷いが生まれる。
その一瞬で、鷹男はまたあたしから視線を逸らし、再び月を見上げた。
意を決してその傍へ
ゆっくりと歩みを進めた。

「……………」

鷹男は何も言わない。
あたしも言葉が見つからなくて、座り込む鷹男のすぐ横で立ち止まった。

「―――――そなたは命が惜しくはないのか」

短くない静寂の後、鷹男が口を開いた。

「……どうして、ですか」

答えたあたしに、視線を向けた鷹男のそれは冷たく鋭かった。

「私がそなたを殺せないとでも思うのか」

「っっ…あたしはっ……殺されるようなことはしていないわ」

なんとか言葉を紡ぐと許しも請わず鷹男の隣に腰を下ろした。
同じように月を見上げ、視線は鷹男に向けない。

「忠告は無駄だったようだな」

気配で鷹男があたしから視線を逸らしたのがわかった。

「…何を言っているのかわかりません。だって、こんなところに帝がいるはずないもの。こんな夜更けに、供もつけず一人でいるなんて…あるはずがないもの。」

あたしは瑠璃だとは名乗っていないし、姫宮にも近づいていない。今ここにいるのだって、帝ではない。この間は着ているもので帝だとわかる状況だったけど、今の鷹男の姿からは誰も今上帝だとは思わないだろう。しかも、帝が夜更けに御所を抜け出して、供もつけず一人寺にいるなんて、一体誰が思うというのか。いつの間にか迷いも恐れも吹き飛んで、いつもの自分に、怖いもの知らずの強気な瑠璃になる――。

隣からふっと、小さく笑った気配がした。

「度胸だけはあるようだ」

月から視線を下げ、鷹男に戻す。
いまだ鷹男とは視線は合わない。

「藤宮や弾正尹から頼まれたのであろう。私を…その声で癒せとでも。」

「………この声だけは変わらないと言われるわ。」

覚悟を決めて紡いだ言葉に
ようやく鷹男が、あたしを見た。視線が、合わさる―――。

「あくまで自分が藤壺女御だと?」

「…それはあなたが決めればいい。認めてくれるならもう一度……あなたの名前を呼びたい。」

「…名を?」

視線が絡み合う。

「あなたがあたしに名乗った名前。仮初のあなたの名前。あたしだけが呼んでいた…あなたの名前よ。」

「…藤宮辺りから聞いたのであろう。」

「もらった御文のお歌だって覚えてる。」

「覗き見た者がいてもおかしくはない。」

「じゃあ吉野のことは?前東宮様、の、こと、だって……」

その時、

鷹男が妖しく笑った。

赤く濡れた唇が弧を描く―――――。

「いいだろう。そこまで言うのなら信じさせてみよ。そなたが本当に…藤壺女御だと。」


“女御によく似たその声で

私を篭絡してみるがいい―――。”


獰猛な瞳が


あたしを真っ直ぐに射抜いていた―――。





続く


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雪 says..."ハニーさま"
期待しててください!!
ご期待にそれなりに沿える展開になってますので!
鷹男VS瑠璃、勝敗の行方は!?

その前に、焦らしの脇役キャラ語り。申し訳ないwww
2018.10.20 00:14 | URL | #- [編集]
雪 says..."ふにゃろば様"
そうそう!まさしくそんな感じですよ!
鷹男の心中は!
月を見上げて瑠璃に語りかけるのはまさにそんなんだと思います!!
鷹男語りは書いてないので出せないですが!

次話はちょっとおいしい展開になってますのでお楽しみに(*^_^*)
その前に焦らしますwww
2018.10.20 00:08 | URL | #- [編集]
雪 says...""
鷹男と瑠璃とのあれこれがちっとも前に進んでいない自覚があるので毎日更新することで補っているつもりなのです(ーー゛)
テンションあげあげで♪読んでくれると嬉しい\(^o^)/
鷹男はラスボスですわー
動きが鈍くて鈍くて!もうこの鷹男大変です。
2018.10.19 23:15 | URL | #- [編集]
ハニー says...""
連日の更新、本当にありがとうございます!
「妖しく笑った」「どう猛な瞳が」ときたら
期待度が嫌でも上がってしまいます!!
きゃーー!
この後、どんなやり取りが?!
冷たく病んだ鷹男を瑠璃姫がどう篭絡するのか
めちゃくちゃ楽しみです!!
2018.10.19 00:24 | URL | #- [編集]
says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018.10.18 02:00 | | # [編集]
蘭 says...""
雪様

毎日更新は嬉しいです。
だんだん話しは熱くなりテンションが上がってきましたた。
どうやって鷹男が信じてくれるでしうね。
2018.10.18 00:41 | URL | #- [編集]

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