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沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第七十話 右近中納言・藤原高彬

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「透子殿に中務少輔が求婚していたのです。」

甥から受けた相談は驚きが大きくて。
僕は守弥が右大臣家から去ってから初めて、
守弥に会いに邸まで訪ねていった。










「長恨歌」第七十話 右近中納言・藤原高彬










「中納言様」

守弥の邸は古くこじんまりしていて、人の気配も極端に少なかった。派手なことを好まない守弥らしいと僕の知る昔の守弥を思い出す。こういうところはあの頃と変わっていないのかもしれない。守弥ももう官位も授かっている天上人だというのに、亡き父君が残されたこの邸を今でも手入れしつつ暮らしている。

通された客間に、守弥は帰ってきてすぐにやってきたのだろう。手には文箱が抱えられていた。急に来たのは僕の方なのだから別に身支度してからでもよかったのに。やけに大事そうに抱える文はもしかして求婚しているという女人に贈るものなのだろうか。御所から帰ってきてその手に持っているのなら、これから贈るものではなくもらったものなのかもしれない。

もしかして、求婚の返事なのかな。

そうであれば隠すように後ろに置いたのも頷ける。気になりつつも目的は後回しにして、当たり障りのない会話から入る。

こうして守弥と話すのは本当に久しぶりのことで、こみあげてくる想いは一言で言い表せない。そのせいで僕が口にする言葉は悉く本音とも嫌味ともとれるものばかりだった。
だけど守弥は冷静で。もう少し、苦しそうな表情をさせてしまうかなと後悔したのは一瞬、変わらない守弥の顔を見て僕の言葉で守弥が傷つくことはないのだと落胆する。言い過ぎたかと後悔しても無駄だった。

「今からでも…戻ってくる気は?守弥がいないと何かと不便でさ。」

これは冗談めかした本気。守弥が受け入れることはないとわかってはいても万が一を期待して口にした。冗談めかすことで、断れた時の保険にした。
本当に…守弥が僕の傍を離れて、守弥の有難さを痛感する日々だったから。
仕官して守弥自身の人生を歩いている守弥が、中務少輔の身分を得た守弥が戻ってくるはずはない。ただの守弥に戻って…従者でしかない身分に戻る選択をする人間なんていない。

「……とんでもないことです」

やっぱり守弥は受け入れない。

「……そうか…。」

僕は無理やり笑ってみせた。
冗談さと伝わるように。

「…それで、どのようなご用件でいらっしゃったのでしょうか。」

用件を急ぐ守弥。
もう僕と話すのさえ嫌になっているのだろうか。

「左大弁家の二の姫付きの女房を、知っているね……―――?」

沸きあがった黒い靄。
ゆっくりと沈む船から素早く先に逃げた守弥と、船乗りとして最後まで船と運命を供にする自分。
自分達がそんな風に思えて、守弥に対するよくない感情が、自分の中に芽生えていくのを感じていた。

「求婚、していると、聞いたよ」

と―。
甥から聞いた情報をぶつけた。
面白いくらいに動揺した守弥。

ああ、守弥のこんな顔。

昔はさせるのは瑠璃さんくらいだったっけ。

瑠璃さんの代わりが、守弥にできたんだ。


羨ましい、な―――。


「どんな姫なの?」

口元を歪めて尋ねた。

「…っ……どんな、と…言われましても……」

あざとく首をかしげて見せる。
無邪気に見える笑顔を作って。昔の自分を演じてみせる。

「甥に相談されてね。意中の姫に守弥も求婚していると。驚いたよ。」

「……そうですね」

「教えてくれてもいいんじゃない?昔の主の頼みとしてさ。」

ずっと独り身でいた守弥。
浮いた話など聞いたことがなかった。僕が知らないだけで守弥なりに色々あったのかもしれないけど。
結婚している僕だけど。幸せかと聞かれたらどう答えていいかわからない。客観的に見れば幸せに違いないし否定する気もないけど。上手くいえないもやもやが、ある。
なのに守弥を見ていると感じる。
守弥は、その相手に本気だ。
本気の相手と結婚できることは、完璧な幸せを得るのも同様――。

瑠璃さんを失って、
守弥も憔悴していたはずなのに。
辛さのあまり忘れようとした僕を見限って出て行ったくせに。


自分は新しい幸せを手に入れるの……―――?


「守弥は年下が趣味なのかと聞かれたよ。なんて返事していいか困ったんだけど…そこのとこ、どうなの?」

聞いたところによると甥と同じ年の十七歳。
美人で勝気な女房だと聞く。

だけどさ、それってさ。

ちょっと、瑠璃さんを彷彿とさせない?

瑠璃さんは美人とは言いがたかったけど間違いなく勝気だったよね。
そして勝気な女人なんてそうそういるものじゃない――。

「………年齢は、関係ありません……。」

「ふうん?」

動揺はすっかり消して、困惑すら消し去った冷静な無表情の守弥に戻る。
追求する僕をわずらわしく思っていることがわかった。
これ以上聞かれたくない。そんな心の声が聞こえてくるようだった。

「……身分相応の相手です。それだけです。」

嘘っぽい。
だって守弥が何の変哲もない相手を好きになるはずないよね。

俄然、興味が沸いた。

「左大弁家の女房、かぁ。」

ちょうど宴のために参内してるんだっけ。
宴の間は人も多いしばたばたしてて機会が多いよね。色々と。

「困ったな。僕は甥にも守弥にも幸せになってほしいのに。どちらを応援していいか困っちゃうね。」

どんどん大きくなる靄が僕を包み込んでいくのを感じながら

「そうかあ、守弥が求婚してるのかぁ」

と、


嗤った―――――。





続く


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雪 says..."ハニーさま"
卑屈な高彬をお待ちでしたか!
高彬をどういうふうにするか決まらず、出番も遅くなりました。
ここからやっと高彬も参戦ですよ。
何気に高彬の登場を待ち望む声は多かった気がします。。

チャット会の参加ありがとうございました。
来週は同盟の方もチャット会なのでお待ちしていますね♪
こちらのチャット会もまた第3回目を開催できたらいいなと思っております。
2018.10.22 21:35 | URL | #- [編集]
ハニー says...""
更新ありがとうございます。

はい!
期待通りの卑屈そうな高彬の登場ですね!
変に良い人でいてくれるよりも
女々しくて情けなくて歪んでいるキャラが
良いと思います。
守弥を困らせるだけの為に、この後透子に
接近するのかな。
色々絡み出しそうですねー。

今夜のチャットも楽しみにしていますね!
2018.10.20 15:41 | URL | #- [編集]

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