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沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第七十四話 右近中納言・藤原高彬

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拍手御礼小説掲載
ねえ守弥、お前は最後まで僕を「中納言様」としか呼ばなかったね。
「若君」ではとっくにないけれど、「高彬様」とももう呼ぶ気はないのだろう。もしもお前があの頃のように僕を、
慈愛に満ちた瞳で見つめてくれていたら

僕は

あの頃のように純粋で誠実な…ただ主上とこの国のためにと心の底から思える人間に
戻れていたかもしれない―――。










「長恨歌」第七十四話 右近中納言・藤原高彬










昔の僕は、若さゆえの純粋さをもっていた。夢と希望と理想を胸に抱き、努力すれば輝く将来があることを信じて疑わなかった。
主上に絶対の尊敬を持っていたし、主上のために職務を全うすることに疑いを持ったことはなかった。今になってわかるのは、その根底にあったのが、“自分は必要な人間なんだ”という自信だった。

右大臣家の四男として生まれ、将来が約束された立場、守弥の支えのおかげもあって僕は順当に位をあげていった。優秀と言われていたしだからこそ帝の信頼をいただいているという誇りがあったんだ。
まあ、何度か瑠璃さんによってその自信は打ち砕かれたりもしたんだけどさ。僕の知らないところで女人である瑠璃さんが僕を差し置いて帝の助けになっていたなんて、それはもう、落ち込んだものさ。
それでも僕は自分がまだ未熟で若いからだと信じていたし、将来的には絶対に自分が朝廷にとって必要な人間になれることを信じていた。

…年を重ねて、自分を取り巻く環境が変化していき、
僕はやがて気づいたのさ。
僕がいなくても朝廷は回ることを。時代の波に、自分がすっかり乗り遅れていることを。

右大臣家の名誉と権力は下り坂だ。
僕はゆっくりとだが確実に権力の中枢から遠ざかっている。

これはもう、仕方のないことなのかもしれない。
誰のせいでもなく、僕に力が足りなかったせいかもしれないし、これが時の流れというものなのかもしれない。
それでも理不尽に思うのは、かつて自分より下にいると思っていた人間達に追い越されているせいだろう。
愚鈍だった幼馴染の融が、僕よりずっと優秀で帝に信頼された政治家になっている。融は遠くない将来、大臣になるはずだ。その時僕は――?

「………あの守弥が求婚ねぇ…」

守弥だけは永遠に僕の上をいくことはないと勝手に思っていた。大臣家の僕より下級貴族の守弥が上回るはずがないのだから。いくら守弥が真実優秀だろうと、それは絶対のはずだった。
官位を得た守弥は、それでもまだ僕の官位には遠く及ばない。複数の妻を向かえ一見順風満帆な人生を送る僕に比べると、いまだ婚家を得ず下位のままの守弥。仕官こそしたものの出世に興味はない守弥に無意識に安堵していた。

その、守弥が。

求婚。
ずっと年下の少女に本気の求婚をしているという。

身分低い女房だというから守弥の出世に繋がるわけではない、だから結婚してもこれまでと何も変わらないというのに
そんな結婚を選んだことがちくりと僕の何かを刺激する。

僕だって、出世のために結婚したわけじゃない。
瑠璃さんと結婚したのは、ただ純粋に好きだったからだ。
今の正妻も、絆されて結婚しただけで…後ろ盾を得るためじゃない。

それなのにさ、
なんでなんだろう?

出世を狙って婿入りすると聞いたほうがまだよかったなと思うのは。
今でも初志貫徹を貫く真っ直ぐな守弥を妬む気持ちがふくらむのは、何故なのだろう。

守弥が本当に好きになった相手と結婚することが…
面白くないと思ってしまうのはどうしてなのだろうか。

「左大弁家の女房、か…」

確か、この宴に左大弁家の二の姫が参加しているはずだ。東宮様の妃候補として参内していると聞いている。甥の話ではその二の姫付きの女房だというから、ついてきているかもしれない。

興味が沸いた。

自分でも悪い好奇心だと感じていた。

僕は参加していた宴の席を「酒に酔ってしまったから酔いを醒ましてくる」と言って抜け出すと
一人、
藤壺の辺りへ向かった。

十七の勝気な美女。

知っている情報はそれだけ。
だけど充分。
左大弁家の女房の中にそれに該当する女なんて、何人もいないだろう。

一目見るだけだ。

どんな女なのか見るだけ。

自分で自分に言い訳をして
僕は藤壺を歩いた。
人の気配を感じればそっと身を隠し、忍び足で向かう自分。見つかればあらぬ疑いをかけられかねない。そんな危険な橋を渡ってでも

守弥を本気にさせた女に


会ってみたいと思ったのだった。










僕の前を横切った影に咄嗟に身を隠した一拍後、その影の正体が甥だと気づく。
宴に乗じてなかなか会えないという女房と逢引するために甥も忍んできたのかもしれない。派手な外見とは違い姉に似て一途な甥だ、件の女房に会うはずと後をつけた。約束でもしていたのか、甥は迷うことなく進んでいく。

そしてしばらく進んだ後、一つの部屋で立ち止まり、周囲に人がいないことを確かめるとするりと入っていった。

見つからないよう距離をとっていたのを近づくため歩き出そうとしたところで甥が来た方向とは別の方向から誰かがやってくる気配がして再び身を隠し様子を伺った。

若い女房装束の女だった。

年の頃は十七、八といったところか。その顔立ちは美人の部類に入るだろう。
見慣れない顔からして宴のために参内したどこかの姫の女房だとあたりをつける。
女房は甥が入っていった部屋に入っていった。

「あの女房か…」

守弥と甥が求婚しているという女房。
確かに美人ではあるが一体何があの二人を惹きつけたというのだろう。美人なだけならもっと美人な女房も姫君もいくらでもいる。
いや、ただ若い美人なだけであの守弥が求婚までするとはとても思えない。

そっと、足音を消し二人が入っていった部屋に近づく。

逢引とは、これは守弥は振られたということか?
それとも、天秤にかけているのか…?
なかなかしたたかな女なのかもしれない。

「…………………………、……の、」

「………して、………すか」

話し声がする。
無粋とは思うけど聞き耳をたてた。

「………ごめんなさい」

女の声。
女が謝罪している。

「……中務少輔殿ですか」

「…違います」

「では、何故ですか。わたしは本気なのです。透子殿を大切にするつもりです。あなたを正妻に」

「そういうことではないのです」

「…他に想う方が?」

「……ごめんなさい。」

これは……

どうやら甥は振られているようだ。
本当にあの甥を袖にするとは…。

さすがにこれ以上聞き耳を立てるのは甥に忍びなく、気づかれぬよう静かに立ち去ろうと身を起こしたと同時に
中からどちらかが出てくる気配がして慌てて隣の部屋に身を滑り込ませた。
戸の隙間からわずかに見えた衣から出て行ったのは甥だとわかった。
女房の方はまだ室内に留まったまま――。

“もっと近くで見てみたい”

甥を振った、守弥の求婚を受けるのだろう女房に。


沸きあがった何かが僕の背を押した。





続く


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雪 says..."きよちゃん様"
こんにちわ!おひさしぶりです!!


旅行は別府杉乃井ホテルだったんですか??わああ!親近感!わたしもあそこは何度もいってるんですよ!ホテルにも泊まってますしアクアビートだけ楽しみには毎年行ってます♪
チャット会は残念でしたがまた開催はしたいと思っていますので次回こそは、ぜひ!
お待ちしています(^_-)-☆
2018.11.03 22:27 | URL | #- [編集]
雪 says..."和泉さま"
コメントありがとうございます!

さて、次の語り手は誰でしょうか^m^?瑠璃の合間合間に違う人が語る、みたいな割合ですが。
普通の姫ならされるがまま、でも瑠璃は強いですからね!おっしゃるとおり、自分で切り抜けちゃうかもしれませんが…どうかな??どうなるかな?
楽しみにしててくださいね♪
2018.11.03 22:23 | URL | #- [編集]
雪 says..."ふにゃろば様"
またしても大作ですね!!
もうその辺りの部分は書いちゃってるのですが答え合わせをお楽しみにしてください^m^
守弥贔屓、ええ、ええ!そうですとも!守弥は決して悪いようにはしません!いつもいつも、瑠璃が好きなのに鷹男のライバルにもなれない立場に甘んじさせちゃってますけどせめて、有能でいい男ではいさせたいのです!
高彬は…今回の高彬は卑屈でちょっと嫌な奴ですね。高彬はいろんなキャラにできるので助かってます、ごめんよ…。でもめっちゃ使い勝手いい…www
2018.11.03 22:20 | URL | #- [編集]
雪 says..."ハニーさま"
さて、高彬はどうでるのでしょう?!
瑠璃と気づくのか?!
そこがここからのポイントですね!
次の次くらいに答えがわかります^m^
2018.11.03 22:17 | URL | #- [編集]
雪 says..."めい様"
ここにきてやっと、高彬の登場です!
今回の彼は悪人ではないんだけど善人でもない感じですかね…

ありがとうございます。ここ数日すっかり寒くなりましたね。うちではもうコタツを出しました(笑)私が寒くって!
2018.11.01 23:53 | URL | #- [編集]
ハニー says...""
ふにゃろば様、更新(?!)ありがとうございます。

わはは!
雪様の本編を読み、ふにゃろば様のサイドストーリーも
読めるようになって
一粒で2度美味しい展開になってますよっ!!

ふにゃろば様のお話も、まさにそんな感じにぼやーっと
想像をしていたものが上手くお話になっててビックリ!

高彬は黒いと言うよりも、コンプレックスに固まった
小ちゃくて仄暗くて卑屈なイメージで良いのです。
黒い、って言うとちょっとカッコ良く聞こえません?(笑)

すでにこの辺りのお話は雪様が書き終えてるはずですが
ふにゃろば様の予想がどの程度まで当たるのか、
そこを確認するのもまた一興です。
ますます雪様の本編更新が楽しみになってきました!
2018.11.01 00:01 | URL | #- [編集]
says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018.10.31 05:56 | | # [編集]
和泉 says...""
更新有難うございます

次に誰があらわれるのか?
毎回楽しみですが、次回は特に楽しみです

黒融の場合、純な守弥の場合、鷹男の場合と
妄想に浸っています

まぁ瑠璃ちゃんは自力で高彬から切り抜けそうですが
2018.10.31 04:40 | URL | #- [編集]
ふにゃろば says..."黒高彬、降臨!?"
雪様、こんばんは。

おぉっ、ハニー様お気に入りの黒高彬
降臨ですね♪(え? 違う?)
融を「自分より下」で「愚鈍」と言い切るあたり、
立派に黒いと思うのですが♫
それに、高彬君? 守弥も「自分より下」の
カテゴリーにおいているようだけど、
それはどうかなぁ~とオバさんは思うのですよ。
15年もたった一人でコツコツと瑠璃の死について
調べていたという事を知ったなら、鷹男の目に
留まらない訳がない! そして今上帝のお気に入り且つ
弾正尹(=融)の後押しがあれば、元々優秀なんだから
高彬なんてアッという間に追い越しちゃうというのが
私の予想です(何せ、守弥贔屓の雪様のサイトですもの♪)

さて、この後。高彬と透子(=瑠璃)との展開は?
高:「…、失礼しますよ」
瑠:「っ! 誰っ!?」
高:「お静かに。怪しい者ではありません」
瑠:「たっ!(高彬!と叫びそうになって、慌てて黙る)」
高:「? 僕をご存知ですか?」
瑠:「あ、い、いえっ。せ、先輩の女房方から噂をっ」
高:「!(瑠璃の声にソックリなので、思わず息を吞む)」
瑠:「あの…、何か?」(何かヘマをしたのかと、ビクビク)
高:「いえ…。そうですか、僕の噂を。融通が利かない
   堅物とでも言われましたか」
瑠:「いえっ、有能な公達だと」
高:「へぇ、『有能』ねぇ(自嘲気味に嗤う)」
瑠:「あの…?」
高:「ああ、失礼。何でもないのですよ」
そして暫く黙ったまま、隣に座り合う二人。
瑠:「(高彬…。あんたも大人になったのね。18年も
    経つんだから、当然か。守弥程じゃないけど
    年相応の落ち着きと渋さを身につけて。
    何かもう、母親の気分だわ)」
高:「(驚いたな…。この声、瑠璃さんにソックリ
    じゃないか。ひょっとして守弥がこの娘に
    求婚したのは、この声が原因なのか?
    守弥は瑠璃さんを好きだったからな。
    あいつは隠しているつもりだったろうけど、
    僕も小萩だって判っていたさ。気付いてないのは
    鈍感な瑠璃さんくらいだよ。でも、もし本当に
    そうなら、守弥も純粋というか単純というか…)」
瑠:「あの、それで?」
高:「え?」
瑠:「いえ、何の御用かと」
高:「ああ…。いえ、甥から貴女の事を聞いてましてね。
   求婚しているが、色好い返事をもらえないと」
瑠:「…、その事でしたら、先程きちんとお断り致しました」
高:「何故です?」
瑠:「は?」
高:「いえ、身内贔屓かもしれませんが、甥はそれなりに
   出世頭だし、見た目が派手だから誤解され易いが
   性格も誠実です。正式に迎え入れたなら、他に妻を
   持っても貴女を蔑ろにするとは思えませんが」
瑠:「…、そうでしょうね」
高:「では、何故?」
瑠:「少将様がどうということではないのです。
   お相手として、考えられないだけで」
高:「では、守弥と?」
瑠:「っ!」
高:「ああ、守弥と言ってもお判りにならないか。
   中務少輔のことですよ。彼も貴女に求婚していると
   聞きましたので」
瑠:「…、失礼ですが、中納言様には関係ないのでは?」
高:「ところがそうでもないのですよ。彼は僕の元守役でね。
   今まで浮いた噂も無かったのに、どうやら貴女には
   本気らしい。それで、気になりまして」
瑠:「重ねて申し上げますが、中納言様には無関係です。
   お返事はご本人に直接させて頂きます」
高:「…、似てるな」
瑠:「え?」
高:「いえね。貴女によく似た人がいたのですよ。貴女の方が
   ずっと美しいが、声がソックリで。その気の強さも
   あの人を思い出させる」
瑠:「………」
高:「その人は僕の最初の妻でね…。勝ち気で負けん気が
   強くて、こうと決めたら引かない頑固な人だった」
瑠:「(あんた…、あたしの事そんな風に思ってたの)」
高:「でも優しくてお人好しで。自分が傷ついてでも
   他人を助けるような人でしたよ」
瑠:「(急に褒めないでよっ! 対応に困るじゃない!!)」
高:「その人は僕の初恋でね…。とてもとても好きだった」
瑠:「(高彬…)」
高:「…。甥がフラれたのなら、僕も立候補しようかな」
瑠:「は!?」
高:「守弥が求婚していいなら、僕が駄目ということは
   ないでしょう?」
瑠:「いえっそれは!!(な、何言っちゃってんのよっ!
   ダメに決まってるでしょ!)」
高:「勿論、今すぐに返事をとは言いませんから。
   考えておいて下さい(と言い捨てて、部屋を出て行く)」
瑠:「あ、あのっ! ちょっとっ!?」
そして部屋に残された瑠璃は、一人パニックに陥るのでした♪

あ~、長かった…(-_-;)
2018.10.31 03:04 | URL | #- [編集]
ハニー says...""
更新ありがとうございます。

あら?これは…
もしかしたら覗いた高彬に気付いた瑠璃姫が
うっかり高彬の名前を呼んじゃって
鷹男と違って高彬はすぐに瑠璃姫に気付く?
それとも同じ声だから惹かれ出す??

まぁ最終的には鷹男か弟に懲らしめられるかなぁと
期待をしてますけど(笑)
2018.10.31 00:24 | URL | #- [編集]
says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018.10.30 12:33 | | # [編集]

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