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沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第七十三話 左大弁家二の姫付女房・透子(瑠璃)

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生まれ変わって初めて参加する宴は右近少将様の笛の音で始まった。
少将様と同じ年代の若い公達が、笛や筝で曲を奏で宴の始まりを告げる。奥に作られた一段高い場所には着飾った公達らが扇を手に笛と筝の音に合わせ舞い宴に華やかさを添える。
内裏の庭園の、流れる水辺の前に公卿達が座り、酒の入った盃を流し歌を詠む。あたしは御簾を下ろした部屋の中から、他の女房達と一緒にそれを眺めていた。

「ご覧になって、右近少将様よ」

「相変わらずお美しいこと」

「心が洗われるような笛の音ね」

若い公達の中で一番人気は右近少将様のようで、女房達はその姿に色めきたち黄色い声をあげる。以前はそれに混じって二の姫も右近少将様をうっとり眺めていたのに小萩の記憶を取り戻してからはそういった様子はなく落ち着いている。

鷹男…

帝は庭園を挟んだ向こう、御簾と几帳に隠された一際目立つ豪華に彩られたあの場所から
同じように宴を、見ているはず――。

どれほど目を凝らそうと輪郭さえ窺うことはできない遠い場所。ここが今のあたし達の距離なのだと、
嫌でも痛感せずにはいられない切なさを感じる宴の始まりだった――。










「長恨歌」第七十三話 左大弁家二の姫付女房・透子(瑠璃)










「正直に話せば逃がしてやってもいい。このままここで…寺の渡廊で醜聞を作りたくはあるまい。」

睦言とはほど遠い、甘い空気など微塵もない睨み合い。
強い憎しみの瞳で見下ろす鷹男の瞳を、あたしも睨み返した。
互いに動かず、続く睨み合いを先に破ったのは、

鷹男の方だった―――。

ふいに軽くなった身体。押さえ込んでいた手を離すと鷹男は身体を起こした。
続いてあたしも身体を起こすと、最初に見た時と同じ体制に戻り再び月を見上げる鷹男を見つめた。

月を見上げたまま、鷹男は言った。

「興ざめだ」

あたしは単をかき集めて露になっていた自分の身体を隠す。
何も言わないあたしをちらりと見て鼻で笑うと

「不満か?」

と言う。

「…いいえ。」

それにあたしは、否定を返した。
あたしの返事に気をよくしたように、鷹男が笑う。

「確かに、気の強いところまで女御にそっくりだ」

これは前進したと思ってもいいのだろうか?
少しだけ、鷹男の態度が軟化して感じた。

「………今宵は瑠璃姫の月命日。他の女人など抱けるはずがない」

「……………」

一番手元に転がっていた酒盃を
拾い上げた鷹男は残りのそれを呑み込んだ。
酒で濡れた唇が月の光で輝いて妖しい美しさに目を奪われる。
かつてのあたしは、これほどまでに美しい人の隣に平気でいられたのかと…自分のことなのに不思議だった。

「………今夜だけ、信じなくてもいいので聞いてくれませんか?」

鷹男の視線がおりてくる。

「思い込みや偽りだと思ってくれてもいい。ただ、今夜だけ…許してほしいの。」

「………」

黙ったままの鷹男が否定しないことを了承だと受け取って
鷹男の瞳を見つめて言葉を紡ぐ。

「……いつまでもあたしを想ってくれてたのは嬉しい。すごく、嬉しい。でも………あたしは、あなたを幸せにしたかった」

鷹男の表情は変わらない。でもほんの少しだけ、その瞳が眇められたように見えた。

「死んだことであなたを不幸にしたあたしが言えたことじゃないけど…だけど、あたしは……あたしはあなたに幸せでいてほしいの」

どうか、お願い。

届いてほしい。

鷹男、あなたの心に。

今夜だけでもいい。
あたしの心を。想いを。

「あたしが死んだのは、あたし自身が招いたことだった。迂闊な行動が原因だった。だからどうか…気に病まないで。心を、閉ざさないで。幸せに、生きて。あたしはもう……次の人生を歩んでるから。大丈夫だから。」

例え瑠璃と認めてもらえなくても。
もういい。
あなたが幸せに生きてくれるならそれでいい。
あたしは透子として生きていく。

だから。

「あたしは誰よりも幸せだったわ。……だから、ありがとう」

大好きよ。

鷹男…

前世であなたを愛したことを


後悔なんてしていないわ―――。










気がついたら、鷹男の姿はなくなっていた。
あたしは渡廊で眠ってしまっていたようで、掃除にやってきた小姓に起こされて目覚めた。
肩には見覚えのない単がかけられていた。それが昨夜鷹男が身につけていたものだと思い出し泣きそうになる。
見上げれば月は薄っすら見えなくなりつつあって、夜が明けるのはすぐだった。
今日は宴がある。急いで戻らなくちゃ。

「あ、あの…」

小姓はとても困惑していた。

「ど、どなたでございますか?何故ここに……」

「ごめんなさい。すぐに帰るわ。」

渡廊なんかで女房が眠っていたらそれは驚くだろう。
謝罪して立ち上がり、どう説明しようか少し考える。
鷹男の帝が来ていたことをこの小姓は知っているのだろうか?わからないのに安易なことは言えない。

「観照様に案内していただいてここで少し、ね。勝手に入り込んだわけじゃないの。」

だから安心して?と嘘と真実を混ぜた説明をした。
最初は本当に勝手に入り込んだのだけど、観照様が案内してくれたのだから許可をもらったようなもののはず。

「観照様…ですか?」

だけど小姓は納得できないようで、不思議そうに首をかしげた。
やっぱり内緒にしていたのかもしれない。それはそうだ、まさか今上帝がお忍びでくるなどと、軽々しく話すわけにはいかないのだろう。何かあったら大変だもの。観照様のような高位の方にしか知らされていなかったのだろう。

「あたしも急いで戻らないと。ごめんなさいね。」

だからそれ以上詮索されないうちにさっさと帰ってしまおうと、引き止められそうになるのを押し切って牛車が待っているはずの外へ向かう。
不審者扱いされて尋問でもされたら何も言えなくて困ってしまうし第一宴に間に合わなくなったら大変だ。今頃もう、内裏には次々に公達が参内してきているだろう。

ぱたぱたと駆け足で後ろから追いかけてくる小姓が叫ぶ。

「お待ちください…!観照様とは……っ一体どなたの…っっ」

だけど先を急ぐあたしの耳にはもう

それは聞こえていなかった。





続く


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雪 says..."ふにゃろば様"
そうですね、観照は味方ですね!鷹男のところに案内したのだし!あの当時の観照はもう死んでますけど^m^
鷹男の心情の変化も!そうそう、そんな感じでいいと思います。
まだ信じ切れてはいないけど悪い人間ではないことは納得できたんじゃないかな。
2018.11.03 22:15 | URL | #- [編集]
ふにゃろば says..."遅くなって、ゴメンナサイm(_ _)m"
雪様、こんばんは。
そしてハニー様。身に余るお褒めのお言葉、
余りの嬉しさに舞い上がってるふにゃろばであります♡
お礼と言っては何ですが、今後はコメを
公開とさせて頂きますm(_ _)m
(ただ…、妄想を入れると長くなるんですよねぇ。
 呆れないで下さると、良いのですが💦っ)

観照様は瑠璃の味方だと思いますよ。
何故なら、観照様にとっても瑠璃は或る意味恩人だから。
もし入道の企みが成功していたら、鷹男は無論ですが
観照様も帝を呪詛しようとした怪僧・悪僧として
良くて流罪、最悪処刑されていてもおかしくないし。
鷹男のことも気に掛けていて、
「主上…。貴方様はいつまでそのように心を閉ざして
 おられるのですか? その様なことは貴方様だけでなく
 周囲にとっても良いことではありますまい。
 院も大皇の宮様も、貴方様の事を最後まで気にして
 おられましたのに…。貴方様にとって、彼の姫君は
 それ程までに重い存在でありましたか…。貴方様を
 御救いできるのは、藤壺女御様だけなのですね」
という心情。そこに透子(=瑠璃)が現れて
(徳の高い僧侶だから、透子の正体を瞬時に見抜き)
「おぉ! これぞ御仏のお導きというもの。
 藤壺様、拙僧がご案内致しましょう。主上のこと、
 よろしくお願いしますよ」という心持ちで
案内したのでは?

鷹男も、心境に若干の変化があったのではと
拝察致します(←高彬かいっ!)。
寝入った透子(=瑠璃)を見下ろして、
「フッ…、流石に瑠璃姫を自称するだけあって
 気丈な娘だ。私に睨まれながら、目をそらさず
 睨み返すとはな。それにしても、先程の言いよう…。
 声だけを聞いていれば、正に瑠璃姫そのもの。
 私への媚び諂いも無ければ、関心を得ようというもの
 でもないらしい。だとすると…、件の陰陽師に操られ
 本当に自身を生まれ変わりと信じているだけなのか?
 ならば、この娘も或る意味被害者と言えなくもないが。
 まぁ、良い。その度胸と言に免じて、此度は
 見逃そう」なんて心境で、単を掛けたのでは?
2018.10.30 23:55 | URL | #- [編集]
雪 says..."蘭さま"
瑠璃は透子として生きていく決心はつきました!が、果たして周囲はそう簡単にそれを許してくれるでしょうか??
まだまだ、色々問題は山積みですがとりあえず、皇女との再会までは瑠璃を捨てきることはできないかと。

観照さまは……不思議な人物なのです(^_-)-☆
2018.10.30 08:43 | URL | #- [編集]
雪 says..."手毬さま"
ありがとうございますー!
そうです、観照さまはすでにこの世の人では……??

あの場ではあれ以上のことはなく、話をするだけで終わらせるつもりで最初からいたのですが、どうやってまとめるかは書きながら流れに任せていたのですが、納得してもらえる台詞がかけてよかったです!!
これからはふっきれた?瑠璃と、おいすがる?男達の攻防に…なれたらいいなあ、なんてこのコメントを読んで思いましたがすでにある程度先までは書きあがっているのでどうなんだろう?
2018.10.30 08:39 | URL | #- [編集]
雪 says..."ハニーさま"
観照さまは……どうでしょうか??でも、鷹男のところに案内して救ってくれというのだからいい人のはずです(*^_^*)

いよいよ宴が始まります!宴の席でも何かが、起きる?!かも?!
高彬が動く??かも!

ちょっと執筆のペースが落ちてまして、他に気をとられて書く意欲が低下中…
なので更新ペースも落ちてます。。ごめんなさい。
2018.10.30 07:59 | URL | #- [編集]
蘭 says...""
透子として生きていくと決意したのは流石瑠璃ちゃんですね。
観照様の本命は気になります
2018.10.29 11:31 | URL | #- [編集]
says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018.10.26 10:17 | | # [編集]
ハニー says...""
更新ありがとうございました。

んん?
ねえ!もしかしたら、観照様だと思っていた相手が
例の…?!
だったらめちゃこわいんですけどーーーっ!!

そして宴ですね。
ここに高彬が絡んでくるのかな。
そして瑠璃さんに声や雰囲気が似ていると気付き
近付こうとして鷹男を煽ってくれると良いなー。

連日更新に慣れつつあったので
もとのペースに焦らされまくってます(笑)
あー早く次が読みたいですーーー!!!
2018.10.26 00:17 | URL | #- [編集]

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