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沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第七十二話 左衛門佐・藤原宣孝

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"宵闇の君"と呼ばれた男が、弓削是雄という陰陽師だったことがわかったという。二度目の尋問では生き残った女らに知らぬふりをされ騙されたが、"宵闇の君"の正体を掴んだ今、三度目の尋問をすべく、
女らを前にしたわたしは

過去二度の尋問とは比べものにならないほどの怒気を女らに向け

刀身を女の首にあてた―――。










「長恨歌」第七十二話 左衛門佐・藤原宣孝










三度目の今回は、尋問などという生易しいものではない。拷問してでも吐かせるつもりで女を見下ろした。
上手くごまかせたつもりでいたのだろう、女の顔には恐怖と共に何故という感情が浮かんで見えた。
何故今更ではなくついに、であると。わからせるために女の首にあてた刀に力をこめる。女の首から一本の赤い線が浮かぶと血が流れ落ちた。

「…っひ……っっ」

「これ以上隠すことあればお前の一族も道連れにすると心得よ」

「っっ」

十八年前、知りながら口を閉ざし傍観していた罪は、女一人の罪として罰せられ流刑になった。当然残された親族の風当たりは酷かったはずだがそれでも連座にならなかったのは感謝すべきこと。しかし十八年経って今、女達が男の存在を知りながら故意に隠していたことが発覚し、主上の逆鱗にふれた。
洗いざらい吐かせ次第、まだ生きている女達は処刑される。
それも簡単にはいかせない。ありとあらゆる苦痛を、拷問でその身に受けなくてはならない。
全てを話すのなら一族の連座は免除となろう。今ここで、主上の最後の温情に縋り、知っていることは全て話すことが、女に許されるただ一つの道――。

自分の不能さに頭にくる。二度も女らを尋問しておきながら隠された事実があることを見抜けず、聞き出すことができなかった。すでにその身に罰を受け、見るも無残な姿をした老齢の女達にわずかばかりであっても同情してしまった自分の至らなさだ。

「お前は、藤壺女御様を殺害した黒幕が弓削是雄と知っていたな」

「…っ…、………し、しらな…ぁうっ」

もう一本、赤い線を描く。今度は先程よりも深い傷となり溢れ出た赤の量も増える。

「今度はその手を潰す。」

流れ出る血を抑える手に刀を当てて睨んだ。

「言え。」

「……な、。名前は……し、知らなかった、のですっほ、本当、です……っっ」

刀の代わりに足で蹴り上げた。
女の軽い身体が宙に浮かぶ。

「黒幕がいることは知っていた。それが自分に通ってくる男であることも知っていた。そうだな。」

「………っぁ……い」

痛みに蹲る女から毀れる言葉は返答になっていない。

「主上の最愛を奪っておきながら温情を受け、十八年も生きながらえ、隠し続けた罪は重いぞ」

「…………ぅ」

もうこの女らが、これ以上生を全うすることはありえぬが
一族をも道連れに心中する道を選ぶか。
例えその道を選ぼうとしても、許されぬ。

「弓削是雄の目的はすでに判明している。動機を話せ。」

知らないとは言わせないと。
再び刀身を女に向けた。

「何故弓削是雄は、藤壺女御様の魂を交換させようとした。交換させようとしていた相手は誰だ。」

「………」

「連れて来い」

「?!」

尚も黙秘を続けようとする女の前に、連れて来させたのは女の一族の生き残り。
両親はすでに死んでいるが当時幼かった弟と妹は生きている。その二人を、女の前に引きずり出した。

「二人がどうなるかはお前次第だ。」

「……っやめて!!!」

猿轡をされた二人はしゃべれない。手足も縛られ、女の前に転がった二人は、栄養失調のせいか細くみすぼらしい姿をしているために年齢より幼い容姿。当時の面影があるかどうかはわからぬが、女には二人が自分の身内であるとわかったようだ。
その二人に
女に向けていた刀身を向けた―――。

「お前次第だ。」










「女は吐きましたか」

しばらく場を離れ、待機していた部屋に左衛門督様がやってくる。立ち上がり、迎えたわたしが見た表情は固い。吐かなかったのかと一瞬苦く思ったがそれはすぐに左衛門督様によって否定される。

「ああ、吐いたよ」

「では」

「まとめて牢に入れてある。主上の沙汰を待って処刑されるだろう。」

わたしも左衛門督様も、激昂する性質ではない。だが、さすがに温情を受けておきながら主上を欺いていたとあっては怒りを隠しきれなかった。どれほど酷く残虐だと言われることも、今ならば躊躇なくできるだろう。
主上の悲哀を身近で見てきた左衛門督様は特に―――。

「事情があって急ぎ解明しなければならなかったとはいえ、君の案は当たりだったね」

「ありがとうございます」

先ほどの尋問、あれは、狙いがあっての行動だ。女らより遥かに年若く、穏やかに見られがちのわたしは、老齢の女らから見れば簡単に欺ける相手と見えていたはず。事実、二度も尋問したわたしに、女らは知らないふりを通した。
そのわたしが、明らかな怒気を放って殺すことも当然と刀身を向ける。拷問する準備を見せつけ、その気があることを匂わせる。家族を利用するのもわたしの本気を見せつけるため。
若いからこそ激情で何をするかわらないと、女達に思わせるのが目的だった。
もちろん、殺すことも厭わない気持ちは本心だったが。

「役割を反対にするのもいいかと思ったけどね。」

「わたしではまた欺かれかねません。…申し訳ありません。」

「いや、君の手柄だ。よくやった。」

そこへ、わたしより年上で落ち着いた雰囲気を持つ左衛門督様が出る。左衛門督様は見るものからすると冷酷に見えるお顔をされている。一目で、わたしより高位の方だとわかったことだろう。わたしのように上手くごまかすことは難しいかもしれないと、不安が生じたはずだ。しかも左衛門督様はすでに一度、女らを尋問している。騙されたと知って、わたし以上に激怒しているだろうと想像することは簡単だ。

「激怒しているはずのわたしが優しい態度で接したのだ。混乱しているのが手に取るようにわかったよ。」

「恐怖で震えあがっていたのでしょうね。」

左衛門督様は笑っているのに笑っていないという一番恐ろしい顔ができる方だから、とは。心の内でだけに留める。
拷問をしようとしていたわたしを止めて現れた左衛門督様に、女らが感じたのは安堵かさらなる恐怖か。
一瞬くらいは助かったと期待したかもしれないが左衛門督様の目を見ればすぐに間違いを悟ったことだろう。恐怖を増幅させた左衛門督様が優しく、穏やかに語りかけただけで、

女達は皆あっさりと口を開いた―――。

左衛門督様と交代で外へ出て、戸口の外で聞き耳を立てていたのだが狙い通りの展開だった。
その後はもう、別室で待機して左衛門督様に全てをお任せした。

「散々痛めつけた後に甘味をやるとは、なるほど上手い手だ。」

「…甘味にはなれていなかったかと。」

「ん?」

「なんでもありません。」

それで、と。
左衛門督様の顔が引き締まる。

「弓削の動機がわかった」

ただの陰陽師が今上帝の女御様を殺害したその動機、


それは―――



「弓削は恐れ多くも主上から藤壺女御様を奪おうとしていたらしい。―――――動機は、一方的な恋情だ」



今上の帝の寵姫に邪な想いを抱いていたことが理由―――。


「弓削是雄は…藤壺女御様に懸想していたということですか?」


考えられないことだった。
天子である主上の想い人に、尊き御身の女御様に。
懸想した挙句奪おうとするなど…――

「それだけならば珍しい話ではない。女御様に憧れを抱く公達というものは昔からいるものだ。」

あ…

思い出す。
わたしが生まれるずっと昔、今上の御世で此度のような事件が、起こっていたと……

「違うのは弓削の企みの狙いだ。弓削は、恐れ多くも女御様に恋心を抱いた。だが当然それは叶わぬ恋。弓削は…想いを叶えるために藤壺女御様を殺害したのではなく――身体を交換しようとした。藤壺女御様の身体を残しその魂だけを……自分の知る女の身体に移そうとした。」

「!では…!実行犯として処刑されたあの女は?!」

左衛門督様が頷いた。


「そう。……処刑された女はこう供述していた。…『藤壺女御様に成り代わりたかった』と―――。その言葉のままだったのだ。動機は…“藤壺女御様の身体に乗り移ること”だったのだ。」


上手くいけば文字通り寵姫になれた。
そして弓削是雄はその罪が暴かれることなく藤壺女御様を手に入れることができた。
例え身体は違っても――。
藤壺女御様の高潔な魂さえ自分のものにできるなら……それで、よかったと………。

「もしかすると、処刑された女とは利害が一致した共犯だったのかもしれないな。」

思い出す。
過去の尋問で弓削是雄の存在を告白した、すでに息を引き取った女の言葉を。

あの女は言っていた。

『やっぱり』

と―――。

わたしが、処刑された犯人が「藤壺女御様に成り代わりたかった」と言い残していたことを伝えると、
確かにあの女は
見えるはずのない目を見開き言ったのだ。

『…や、っぱり……』

と―――。

痛恨の涙を流し何度も謝罪の言葉を吐いたあの女も、牢に入れた女達も、薄々感じてはいても見ないふりをした。
実行犯は弓削是雄を慕っていたわけではなく利害一致した同志。残る女達は……自分達の恋しく想う男が自分ではなく藤壺女御様を欲していることに嫉妬し耳を閉じ口を閉じた。
死んだ女だけが白状したのは死を前に恋した男が自分ではない女を愛していた事実をようやく受け入れたからか…――。

「………魂を交換する…そんなことが……本当にできるのでしょうか……?」

左衛門督様だけではなく、
きっとわたしも。

青い顔をしていたことだろう。

「わからない…だが……それを狙っていたということだけは、確かだ…」

そこでわたしは、
左衛門督様により知らされた。


「弓削是雄は十八年前から今も…術に失敗して失ってしまった藤壺女御様の行方を捜している。」





続く


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雪 says..."ハニーさま"
そうなんですよ!!
会話の行間にちょっと1.2行描写とか書けばすぐに短編小説の出来上がり!
番外編、外伝?そんな感じのお話になるんですよ!ほんと、もったいない!
今まで私だけで楽しんでてすみません(>_<)
これからはぜひ、毎回公開設定でしてもらいたいですね♪ハニー様からもお願いしてくださいwww
2018.10.28 23:04 | URL | #- [編集]
雪 says..."ふにゃろば様"
そうなんです、動機は明らかになりましたが自分勝手だし成功してたとしても決して弓削の思い通りにはならなかったはずなんです。でも、彼は実行したのですね。自分勝手な犯人ですから、自分の欲望のためには色んなあれこれはどうでもいいことだったのでしょう。他の方法も彼には無意味だったのかと。

伏線はもうひとつありました。
実行犯の女の供述にあった「藤壺女御様に成り代わりたかった」という言葉は、すでに最初の方の回で語っているのです(*^_^*)身体さえ手に入れればなんとでもできると彼女もまた、自分勝手な理屈で共犯になったのです。

そしてそして今回は公開コメントにしたのですね!!喜ぶ方が大勢いらっしゃるのではないでしょうか?
この2人が手を組むことになったやりとり、ほんと、こんな感じだったんじゃないでしょうか?!
相変わらず、ぴったりな想像ですわ!
2018.10.28 22:47 | URL | #- [編集]
ハニー says...""
こんにちは。

なんとっ!
ふにゃろば様の妄想劇場が公開されてますね!!

想像以上のものでしたよー、ビックリ!
雪様のおっしゃった通り、ほとんど物語として
出来ちゃってる!すごいすごいっ!!

いつも雪様お1人だけでふにゃろば様のこのような
面白いコメントをご堪能していたとは。
ずるいですねぇ。私も毎回読ませてもらいたいです。
ぜひ次回コメントも公開してもらいたいです♫
2018.10.25 12:43 | URL | #- [編集]
ふにゃろば says..."う~ん…"
雪様、こんばんは。

遂に動機が明らかに! まぁ、想像の範囲内でしたが。
助けてもらって、何処の女房か探る内に藤壺女御と判り
己の邪恋を叶える為に、自身の職を追及して
実行に及んだということですか…(*´Д`)

バカだねぇ…。瑠璃は女房に扮してあちこち歩き回って
いたのだから、守弥と違って出仕していた弓削なら
逢える可能性はあったろうに。
(事実、その後も2回くらい会っているようだし)
最初に会った時に「女御の女房」みたいなことを
瑠璃は言っているのだから、
「藤壺女御様は、後宮内ではあまり良く思われて
 いないようだ。呪詛等もあり得るかもしれないので
 御守りをお渡ししたい。会って頂けるだろうか」
なんて言えば、身に覚えがあってお人好しの瑠璃なら
会いに抜け出したろうに。そうやって好意と信頼を得ていく
という方法もあるのに。

まぁ、その程度じゃ、満足出来なかったんだとしても!
魂を交換して、その後上手くいくと思ってたのかな?
まず、鷹男が気付かない訳がないし。
瑠璃にしたって、自分をこんな目に遭わせた相手を
好きになる筈がないのに。
鷹男と瑠璃の絆を甘く見ていたか。
術後に瑠璃を力尽くでモノにしてしまえば
どうにかなると思っていたのか。
「このままでは、我が想いは叶わぬ。例え破滅しても
 やるだけのことをやってみよう」と半ば自棄で
捨て身に出たのか(←周りがメーワク!)。
何にせよ、ラスボスには是非とも生きて
心情を語って頂きたいものであります。

それにしても…。雪様、ヤラレましたっ!
34話での宣孝君と女の会話に
そんな伏線が張られていたとわっっ!!
実行犯の女と弓削との出会いは、さしずめこんな感じ?

瑠璃の周辺を探っていた弓削は
実行犯の女のこんな呟きを耳にし。
女:「フンッ、何よっ! さして美しくもない癖に。
   音曲もからっきしで、立ち居振舞いも乱暴で。
   その辺の女官の方がよっぽどお淑やかだわ。
   なのに…、ただ内大臣様の総領姫というだけで
   女御として入内できるなんてっ! それも
   過去に他の殿方を通わせておいて、何て図々しい。
   …、承香殿女御様ならまだ判るわ。主上が東宮で
   いらした頃に入内されて。その後もずっとお支えして。
   御子は東宮として立太子されて。何より女御として
   相応しいお美しさと品格がおありになる。あの御方なら
   仕方がないわ…。でもっ! あの藤壺は許せないっ!!
   あの程度の女が寵姫になれるのなら、私の方がっ」
弓:「…、ならば、私が力を貸しましょうか?」
女:「っ! 誰っ!?」
弓:「貴女と同じ望みを持つ者ですよ」
女:「同じって…、貴方もあの女を!?」
弓:「(女の口調に不快を感じつつも、それを顔には出さず)
   ええ、まぁ」
女:「…、初対面の貴方を信じろと?」
弓:「ほう…。中々疑い深い方のようだ。だが、それなら
   先程のようなことは軽々しく口にせぬほうが良い。
   何処で誰が聞いているやもしれぬ。この私のようにね」
女:「…、脅す気?」
弓:「とんでもない。力を貸すと申しておるでしょう?」
女:「だから、その根拠は? 何をもって貴方を信じろと!?」
弓:「先程からの貴女の言…。取りようによっては
   謀叛にもなりかねませんよ。何せ主上の最愛の寵姫で
   あられる藤壺様への不平不満なのですから」
女:「っ!」
弓:「私が一言声をあげれば、貴女は即罪人だ。
   だが、私は今尚黙っている。このままでは、
   私も共犯となってしまう。それでは、足りませんか?」
女:「………。先ず、貴方の言う『力』とやらのことを
   聞かせなさい。話はそれからよ」
弓:「仰せの通りに」
なんて、展開だったりして。

P.S.この前のチャット会で、ハニー様が私めの
もーそーを読みたいと書かれていたので、
今回は公開コメにさせて頂きます♪
(読まれて、後悔したりして…(^_^;))
2018.10.24 16:44 | URL | #- [編集]

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