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沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第七十五話 秋篠権大納言

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多くの者達が久方ぶりの宴に酔いしれる中、
限られた一部の者達は密かに清涼殿の帝の御前に集まっていた。

藤壺女御様転生を知る、限られた一部の、主上の信頼を得ている者のみの集まりで


十八年の時を経て集められた全ての全容がつまびらかにされた―――――。










「長恨歌」第七十五話 秋篠権大納言










主上、藤の大尼君様、弾正尹殿、左衛門督、中務少輔、左衛門佐、そしてわたし、秋篠権大納言。集められたのは主上を除いて六名。藤壺女御様転生を知るのは、これに元内大臣家の人々と限られた人間のみ。

「さて」

御簾も几帳も置かず、扇を開き
主上が言葉を紡ぐ。

「中務少輔、改めて皆に報告をせよ。」

「は」

主上までとはいかずとも端正な顔立ちの中務少輔はかつて右大臣家で家司をしていたという。そんな男がこの中に参加することを許されていることに少し意外な気がした。主上は身分問わず有能な者を好む傾向があるから、それほど有能ということなのかもしれない。現に、中務少輔はたった一人で弓削の目的を調べあげた。十八年前の、本人が姿を消している事件だ。容易なことではなかっただろう。

中務少輔が主上にお言葉をいただくのは滅多にないことだったのか、初め、中務少輔はやや青ざめて緊張して見えた。しかしいざ報告をと促され話し始めると、すぐに緊張はなりを潜め冷静な淡々とした口調と態度で説明を始めた。

「―――――以上のことから、弓削是雄の目的は藤壺女御様の転生ではなく魂の交換だったと推測します。」

ざわり、と
空気が揺れた。
主上以外の皆が、初めて知る新事実に大きく動揺を見せた。いや、よくよく見れば左衛門督と左衛門佐は青ざめてはいるものの動揺は少ないように見える。すでに知っていたのかもしれない。

「次に、左衛門督。報告を。」

「は」

左衛門督がわずかに前へ進み出る。
左衛門督と左衛門佐は弓削是雄の動機を調べていた。

「弓削是雄は藤壺女御様に…懸想していたようです。藤壺女御様を手に入れるための手段だったと女達の供述で判明しました。」

「…つまり、弓削は姉さんが女御のままでは手に入らないからと、禁術を用いて魂を交換しようとしたと?」

「なんてこと……」

弾正尹殿が怒りを押し殺した声で確認する。
藤の大尼君様は絶句し言葉を失った。

主上と弾正尹殿の悋気にあてられた様子の左衛門督に代わり、今度はわたしが進み出る。

「しかし結果、弓削の企みは失敗、藤壺女御様は命を落としました。ですが…弓削は諦めなかったのでしょう。自分の術の痕跡を辿り、藤壺女御様が転生している可能性に思い至った。弓削の邸に残されていた紙片から藤壺女御様が亡くなった十八年前に誕生した姫君達を調べた形跡がありました。」

各家に確認したところ怪しい男が姫の寝所に入り込んできたことが確かにあったらしい。どの家も姫の名誉のため公にはしなかったそうだがそこで弓削は藤壺女御様の魂が入っているかどうかを確認したのだと思われる。未遂であった、とどの家の者も口を揃えて主張していたし弓削の目的を考えれば夜這いではないことは明白だ。

「禁術か…」

主上が苦いお顔で呟かれた。

「はい。そのような術があると知られればとんでもないことになります」

中務少輔は術の存在を確信しているように話した。確かにそんな術を乱用されれば何をされるかわからない。最悪、主上に成り代わろうとされでもしたらとんでもないことになる。
とても捨て置ける話ではなかった。

「本当に……本当にそのようなものがあるのでしょうか……」

小さく呟いたのは左衛門佐だ。

「主上、藤壺女御様の生まれ変わりを名乗る者が現れているとか。本物なのでしょうか?」

今度は左衛門督が切り込んだ。
わたしと弾正尹殿と藤の大尼君様がぴくりと反応し、主上を見た。

「………容易に判断できることではない。弓削に送り込まれた者である可能性もある。」

「主上っ」
「主上…」

藤の大尼君様と弾正尹殿が声をあげる。
主上は二人をちらりと見てから視線を戻した。

「あまりに荒唐無稽な話だからね。魂の交換に失敗して死んだとして、では何故転生することになったのか。説明がつかない。」

「それは…そうですが…」

「人は皆、転生するのだと阿闍梨は言っていた。ならばここにいる私達も誰かの生まれ変わりだ。だがそんな記憶は持ち合わせていない。何故藤壺女御だけが記憶を持つ?」

反論できる術を、誰も持たなかった。
重い空気に皆が口を閉ざした。
主上は続けた。

「私が神を否定することは許されぬことだとは承知している。だが…何故神は、そのような人の理に反する行為を許されたのか……神のお導きなどとはとても信じられぬのだよ…」

誰も否定できなかった。
藤壺女御様が弓削の手を逃れていたこと、命は失ったものの転生を果たしたこと。前世の記憶を有し、再び主上の前に戻ってこられたこと…――。
全ては奇跡としかいいようのない出来事であり、説明する術を持つ者はいなかった。
主上の疑念はもっともであり、納得していただける言葉はない。


しかし――


「主上」

藤の大尼君様が閉ざしていた口を、開かれた。

「ならば奇跡が起こった。それでいいではありませんの。主上は難しく考えすぎなのですわ。そのようなことでは、せっかく戻ってきた幸福を失うだけですわよ。」

「藤宮」

「あの瑠璃姫ですわよ?わたくし達の想像の及ばない突拍子のないことをするのが瑠璃姫ではありませんか。ねえ、弾正尹殿?」

その言葉を受けて
弾正尹殿が微笑んだ。

「ええ、大尼君様のおっしゃる通りですね。我が姉ながら、昔から何をしでかすかわからない人ですから。主上も覚えがあるのではないですか?」

「弾正尹、そなたまで何を」

小さくあがった笑い声は大尼君様だった。

「弾正尹殿、主上に教えてさしあげてはどうかしら?あなたが瑠璃姫を見つけるために目安にしたことを。」

これに、弾正尹殿が慌てた。

「大尼君様!それは……っっ」

「あら、主上はお怒りになどならないでしょうから心配はいらなくてよ?心配するべきは、瑠璃姫本人にばれた時ではない?」

「大尼君様…」

皆の視線が弾正尹殿に向かう。
それを察して、しばらく迷ったようにしていた弾正尹殿が、困ったように頭をかいて言った。

「別にたいしたことでは…僕はただ……変わった姫を探してみただけで…変な噂のある変な姫がいればそれが藤壺女御様だなって。」

くすくすと藤の大尼君様の笑い声が響く。
だが、笑えない。
大尼君様以外は誰も笑えなかった……!

否定も肯定もできるはずがないではないか!!

主上の御前で藤壺女御様を愚弄したとでもとられたらどんなことになるか……っっ

どっと背中に汗がふきだし命の危機に固まるのはわたしと左衛門督と左衛門佐。中務少輔は微妙な顔をしていた。
そろりと絶対に気づかれたくない思いで主上の様子を伺う。お怒りのご様子はなく、命は保障されたようだと安堵の息を吐いた。
主上の表情は変わらなかった。

「…―――――考えてみよう」

たった一言、


主上はそれだけを言い残され


お一人で


いづこかへ行かれたのだった。





続く


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雪 says..."ふにゃろば様"
いいですねいいですね!!
そういう展開もよかったですね!
私の脳内では残念ながらその流れが思いつかなかったために違うことになってしまってますが。
次話がその辺りの回になります。
2018.11.04 21:51 | URL | #- [編集]
雪 says..."Re: タイトルなし"
ほんとですねー!漢字変換間違いです!修正しました、教えてくださってありがとうございます(>_<)
2018.11.04 21:49 | URL | #- [編集]
ハニー says...""
更新ありがとうございます。

おいおい!
呑気に秘密会議をしている裏側で
卑屈な高彬の魔の手が瑠璃姫に迫ってるよ!!
みんな、早く藤壺に移動してーーーっ!!

でも叶うなら、その場に最初に着くのは
「お一人でいづこかに行かれた」鷹男であって欲しい。
そして冷たい目と声色で
伸ばしかけた高彬の手を振り払ってやってほしい!

あー、もう!
次の更新はいつでしょうか。
毎晩0時に焦れ焦れしてますっ!!!
2018.11.04 10:04 | URL | #- [編集]
ふにゃろば says..."解散、反対っ!"
雪様、こんばんは。

おぅっ! 宴の裏でこのような秘密会議が行われていたとは!!
この期に及んでも、まだ瑠璃を認めようとはしない鷹男…。
それだけ傷が深いということでしょうが。
グズグズしてると、ホントに守弥にかっ攫われちゃうよ?
そうなってから後悔しても、遅いんだからねぇ~っ┐( ̄ヘ ̄)┌

それにしても、このメンバー! 折角集まったのに、このまま
解散なんて、惜しいと思いません? 鷹男抜き・瑠璃込みで
是非座談会もどきをして頂きたいっ!

鷹男が去った後、秋篠様・明人君・宣孝君は
大きく息を吐き。
守:「? どうかなさいましたか?」
明:「どうもこうも…。大江殿は何ともないのですか?」
守:「何がでしょう?」
宣:「何って…。弾正尹様のお言葉ですよっ! 藤壺様の事を
   あのように仰るなんて」
守:「あぁ、その事ですか。彼の御方をよくご存知ならば
   驚く事ではありませんよ」
明:「まぁ、確かに。か弱き女人でありながら、野犬と対峙
   なさるなどあの方くらいでしょう」
藤:「まぁ! それはどういう事ですの、左衛門督殿?」
(他の皆も、興味津々で明人を見る)
明:「いえ、実は…。私は幼い頃に一度だけ、藤壺様に
   お会いしているのですよ。童殿上した時に、野犬に
   襲われまして。その時、私を庇って野犬を威嚇し、
   助けて下さったのです」
融:「ククッ、姉さんらしい」
守:「ええ、本当に」
宣:「そ、その様な御方だったのですか?」
秋:「確かに。私はそれ程親しくさせて頂いた訳では
   ありませんが。そういう事をしそうな方ではありましたね」
宣:「そうでしたか…。私もお会いしたかったですね」
藤:「あら、そういう事でしたら、これから皆で会いに
   行きましょう」
明:「えっ? 大尼君様!?」
融:「いいですね。ここにいる人達は、皆姉さんの為に働いて
   くれたんだから。姉さんもお礼を言いたいでしょう」
宣:「弾正尹様っ!?」
守:「お逢いできるのでしたら、是非とも」
秋:「中務少輔…。そなたまで」
藤:「よろしいではありませんの、大納言殿。さぁ皆様、
   行きましてよっ」
と、意気揚々と去って行く藤宮様。
その後を微笑んでついて行く融君。
無表情ながらも、心なしか嬉しそうな守弥。
溜息をつきながらも、仕方なさそうに一緒に行く秋篠様。
恐る恐るといった風情で、それでも後を追う明人君と宣孝君。

なんて展開、ないでしょうね…。
2018.11.02 23:10 | URL | #- [編集]
says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018.11.02 22:42 | | # [編集]

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