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沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第七十六話 藤の大尼君(藤宮)

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拍手御礼小説掲載
多くを語らず、お一人先に出ていかれた主上を見送ってから

「ところで」

わたくしはじろりと、残った殿方の面々を見やりました。
融様と秋篠権大納言殿は面識がありますが左衛門督殿と中務少輔殿、左衛門佐殿はお会いするのは初めてです。

「弓削是雄の動機も目的もわかりました。…で?肝心の身柄はどうなっているのです?事件の真相も大切ですが何より優先すべきは弓削是雄の確保ですわよね?」

弓削是雄さえ捕らえれば、動機も目的も何もかも白状させればよいだけのことで。また“今”の瑠璃姫に危害を及ぶ心配もなくなり“前世”の瑠璃姫の無念も晴らせるのです。

「も、申し訳ありません…」

だというのに。
これだけの殿方が揃っていながらなんと不甲斐ないことでしょう!何より優先すべき犯人の確保がいまだ出来ていないどころかその痕跡すら見つけられていないとは!

「そろそろこのことを公にするべきではありませんの?」

隠しておくのももう限界です。
公にすればより多くの人員を弓削是雄の捜索に割くことができるのですから。
むしろもっと早くそうするべきだったのと思いますわ。主上も何故、ここまで内密に進めてきたのか。

「…いいえ。そうね、わかっているわ。主上はあなた達以外を信じることができないのだわ。」

そっと溜息をつきました。
多くの貴族の頂点に立つ尊い御身、けれど主上が信じることができるのはその中のほんの数名だけ。度重なる事件に主上の御心は傷つくばかり。その御心を癒せる瑠璃姫がいない今…主上の傷は癒されることはないまま……。

十八年前、事件の捜査を早々に切り上げ、政の平定を優先させた者達の思惑は理解できなくもない。今上の御世では帥の宮の事件もあった。このような真相があの時公になっていれば…再び起こった女御に関わる事件に、御世はさらに荒れたでしょう。下手をすると縁起の悪い今上の御世交代の声すらあがったかもしれない。
彼らの立場からすればあれが正しい道だった。
けれど結果的にそれは主上の、そしてわたくし達の。傷を、心を、置き去りにしたのだわ。

放置された傷は膿むばかりの十八年だった。

「おそれながらよろしいでしょうか」

「…発言を許します」

進み出てきたのは中務少輔殿です。初めてお会いしますけどなかなか整った顔の仕事のできそうな方です。その昔の瑠璃姫とは懇意にしていたとか。主上がこの中にいることをお許しになったということは、信頼に足る人物だということなのでしょう。

「瑠璃姫…いえ、藤壺女御様のご遺体は火葬されたと聞きましたが間違いありませんか。」

わたくしは眉根を寄せました。

「…ええ、遺骨は高野山に埋葬したわ。」

高位の貴族ともなれば遺体は火葬し高野山に納められる。瑠璃姫の遺体も…高野山に納めたはずです。
痛ましい想いに胸が痛みました。

「そちらを調べてみてはどうでしょうか?」

「……高野山を?」

中務少輔殿は頷きます。

「弓削是雄は藤壺女御様に固執していました。遺骨といえ一度も行っていないとは考えられません。」

「…秋篠権大納言殿。あなたの考えは?」

「おぞましいことですが…ありえる話です」

「ならそれは僕が調べるよ。僕は弟だからね。」

今度こそ、弓削の手がかりだけでも手に入れられるといいのですが。
もしかして――

すでに弓削是雄は生きていないのではないか…

過ぎった不安をけれど口にはせず、

わたくしはそれを飲み込んだのでした。










「長恨歌」第七十六話 藤の大尼君(藤宮)










今回、わたくしが参内したのは明らかになった事件の概要を聞くためです。華やかな宴は尼には似つかわしくなく、宴の喧騒を耳にしながら用意された部屋で連れて来た尼僧達と休んでおりました。

「あなた達は見てきてもいいのよ」

そわそわと宴を気にする彼女らに声をかければ
慌てて

「そんなっ大尼君様のお傍を離れるなど」

と固辞はするものの、明らかに浮ついた様子に溜息をつきました。
わたくし自身が修行が足りてないのです、彼女達とてまだまだ、俗世を捨てきれないのも無理からぬことです。

「失礼いたします。大尼君様、東宮様がご挨拶したいと」

「まあ!東宮様が?」

その時、女房の衣づれの音と共に告げられた言葉にわたくしの心は浮き立ちました。
わたくしにとって主上は甥とも弟とも思う大切な身内で、その子である東宮様もまた大切な身内です。
すぐに室内が整えられ、やがて大勢の気配と足音が近づき

「ご無沙汰しております、大尼君様」

と――。
滅多にお会いできない、東宮様がいらっしゃいました。

「ええ、お久しぶりですわね、東宮様。わたくしのことは叔母と呼んでくださってもかまいませんのに。」

目の前にお座りになった東宮様にわたくしもつい嬉しくなり、微笑みました。
東宮様は容貌は主上に似たところがありませんが、承香殿女御様の面影のある穏やかな御方です。右大臣家という確かな後見もおありですしいまだお子がいらっしゃらないことだけが唯一、心配ではありますが此度の宴には新たな妃候補の姫君方が参内していますし遠からず慶事があることでしょう。

「…あら、以前よりまたお美しくなられました?」

東宮様は主上似ではありませんが承香殿女御様似の美青年です。久しぶりにお会いしたその容貌が以前より美しくなられたように見えます。以前はまだ少年の面影がありましたが年々眩しく魅力的になっていかれる年頃なのかもしれませんわね。

「そうですか?贔屓目ですよ。」

東宮様はそんな風におっしゃって、
照れたように笑われました。

「まあ確かに、わたくしが主上にも東宮様にも甘いのは自覚していますが」

でも、本当ですわよ?今の東宮様は以前にお会いした時よりもお美しくおなりですわ。どこがどう、とは…上手く表現できないのですが纏う雰囲気でしょうか?以前とは違うように感じるのです。承香殿女御様に似た面影も、成長と共に薄れていくものなのでございますね。

そう続けたわたくしに、

「人は時と共に変わるもでですよ」

とおっしゃった東宮様。よくも悪くも、それは真理ですわね。わたくし自身、昔の自分と違うことは自覚していますもの。

「ところで」

と、わたくしは話題を変えました。

「姫君方とはお会いになられましたの?どなたかお気に召す方はいらっしゃいました?」

父帝である主上に遠慮してお一人の女御様しかおられない東宮様の後宮は、あまりにも寂しいものでございます。東宮様はまだお若く健康ですから急ぐ必要はございませんけれど、そろそろ男皇子の誕生が望まれるところです。東宮様の元服の折に添い伏しにたたれそのまま入内された梨壷女御様ですけれど懐妊のご様子はなく。特に不仲という噂も聞きませんし梨壷女御様は右大臣家の縁戚の姫君ですから、後見もしっかりしているだけに期待したいところなのですが。

わたくしの問いに、東宮様の瞳が鋭く光ったように見えました。
けれどそれも一瞬のこと、すぐにいつもの柔和な眼差しで微笑みました。

「叔母宮はせっかちですね。まだ全員にはお会いできていませんよ。」

「ふふふ、早く孫の顔を見たいのですわ」

そう言ってわたくしが笑えば、
「孫ですか」と東宮様も笑われます。

「ええ、そうですわ。わたくしにとって東宮様の御子は孫のようなものですわ。」

「ご期待に添えるように頑張ります」

「まあ」

そういえば、小萩の今世は左大弁家の二の姫で、彼女もまた、東宮様の妃候補になっていましたけど。
一体どうなるのでしょうか。

「左大弁家の姫君にはお会いになりまして?」

「…弾正尹家が後見してる姫君ですね」

「ええ、大人びた姫君だと聞いていますわ。」

小萩は生まれ変わっても瑠璃姫に尽くす忠義の者。前世では最後まで独り身でしたけれど今世では東宮妃候補。結婚が女の幸せとはわたくしは思いませんけれど小萩が望むのなら、できるならその幸せを手にしてほしい。そう思うくらいには…わたくしも小萩に対して思いいれがあります。

「伯母宮は左大弁家の姫君がいいとお考えですか?」

周りの女房に視線を向けてから少し、声を落として答えます。

「それは東宮様がご自身でお選びになられればいいと思いますわ。いずれ重い責任を負われる御身です。一緒にいて心安らげる、できれば一緒に荷物を背負ってくれるような方を…東宮様も見つけられるとよいのですが。」

「右大臣家に配慮を、とは。伯母宮はおっしゃらないのですね」

「え?」

探るような瞳をした東宮様が、
わたくしを見ていました。

「気に入るかどうかより…気にすべきは右大臣家との力の拮抗。右大臣家に対立することなく、しかし皇子が生まれた場合力強い後見になれる家を、と。両立しえない苦言をよくいただくのですよ。」

「東宮様…」

なんということでしょう。
東宮様はすでに、様々な苦悩にお苦しみでいらしたのですわ。

「主上からは、なんと?」

「伯母宮と同じお言葉をいただきました。わたしの心を許せる姫を、と。」

「主上も東宮様を大切に想っているのですわ。」

「本当に……東宮というものがこれほど大変な立場とは、思ってもいませんでしたよ。」

苦笑した東宮様に感じた妙な違和感。上手く表現できない奇妙なものを感じながらもその正体はわからず。
ふと、東宮様はこの縁談に乗り気ではないのかと思いました。

「ではそろそろ。その左大弁家の姫君に挨拶してきますよ。」

「え、ええ、そうですか。」

立ち上がった東宮様
立ち去りかけ、しかしわたくしを振り返り、問いかけたのです。

「わたしも一日も早く、父帝様のように心から求める姫君を手に入れたいものです。その際は…叔母宮様、ご協力くださいますか?」

「ええ、勿論ですわ」

叔母として。
例え東宮様が望んだ相手が政治的に好ましくない相手だったとしても。
わたくしくらいは応援して背中を押してさしあげたい。
やはり、梨壷女御様では東宮様の御心を慰めることはできていないようです。不仲ではないと思っていましたが…これは、もしや上手くいっていなかったのかと

東宮様の御心を思い、わたくしの胸もまた痛んだのでした。





続く


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雪 says..."ふじ様"
ありがとうございます!
いつも、思いつきで書き初めて書きながら辻褄を合わせていってるだけですのでおかしな点も多々あるかとは思いますがどうぞ見ないふりでスルーしてやってくださいませ(^_^;)

ふふふ、あら~。皆様、推理をあれこれしてくださっているのですね!
さて、答え合わせまでもうしばし、お待ちくださいませ。
2018.12.02 17:40 | URL | #- [編集]
ふじ says..."もしかして…あら、もりあがっていたのですね!"
雪様
いつも入り組んだお話をありがとうございます。ドキドキします。更新はもちろん待ち遠しいのですが、どうか雪様のペースでおすすめください。

東宮様と、藤宮様の会話に違和感を感じていましたが、さては正体は弓削是雄ではとぞくっとしました。でも、もう皆様、この件で盛り上がっていらしたのですね。

NONKO様に、ハニー様同様一票!
2018.11.23 13:38 | URL | #- [編集]
雪 says..."ハニー様"
ありがとうございます!読んでくださる皆様の予想が盛り上がってる感じがなんか嬉しいです(*^_^*)!
さあさあ、正解は?!
…まだですが。
2018.11.12 10:44 | URL | #- [編集]
雪 says..."ふにゃろば様"
お返事がしずらい!ネタバレになりそうなので作者としてはイエスともノーとも言えない!
でもどうぞどうぞどんどん妄想を広げて推理してくださいませ!
たいした謎を作れる技量はありませんが(^_^;)

うーん、早く、早く、復活せねば。。
2018.11.12 10:42 | URL | #- [編集]
雪 says..."NONKO様"
初めまして!感想ありがとうございます。
さてどうでしょうね??正解は、お待ちくださいませ(*^_^*)
なかなか更新できなくなっててすみません。じきにまた創作のビッグウエーブ!がくるはずなので…お待ちくださいませ(^_^;)
2018.11.12 10:39 | URL | #- [編集]
雪 says..."ジュリさま"
初めまして、コメントありがとうございます!
さてさてさて、どうでしょうか??
答えまでお待ちいただければと(*^_^*)ってまだそこは書いてないのですが!
ただいま書く手が止まっていまして、なかなか更新できなくなってます。本当にごめんなさい。
でも未完のままにはならないよう努めますのでのんびり気長にお待ちいただければ幸いです。
いつもありがとうございます!
2018.11.12 10:34 | URL | #- [編集]
雪 says..."ハニー様"
ありがとうございます(>_<)
伏線を回収にかかってはいるのですがそれがまた新たな伏線になってしまったりしてもうちょっと今焦ってます\(◎o◎)/!
筆がのってるときはいいのですが今完全に止まっちゃってるのでこの状態で回収していくのがすごく困難に思えてきた…
でもこういう時に書いてもいいものにはならないので…
のんびりに更新になりますがお待ちいただければと。

東宮に関しては考えてることはあります、高彬に関しては今回あんまり出番はありません(笑)すぐに回収しますんで^m^お待ちを!
2018.11.12 10:32 | URL | #- [編集]
ハニー says..."私も一票!"
私もNOKKO様のコメントを読んで
「そうだったのか!」と。
読み直すほどにそうとしか思えなくなってきました。
なんとなく途中で感じる違和感も、その場合は
説明がつきますよね。

いやー、皆さま、すごい考察力です!

雪様のお話とどこまでリンクできているのか
本当に楽しみですね!
2018.11.09 00:46 | URL | #- [編集]
ふにゃろば says..."NONKO様に、一票!"
雪様、こんばんは。

NONKO様、初めまして。実は、私も同感です!
弓削は美男で自分でもそれを自覚し、女官達を手玉にとって
いたようですから、「以前よりお美しく」なったのでは?

他にも、「瞳が鋭く光った」とか「探るような瞳をした」とか
あれ?と思うような事が。特に気になったのは、
「東宮というものが~」の台詞! 
瑠璃が女御になったのは、帝の権力故
  ↓
東宮になれば何でも思いのままになる
  ↓
瑠璃の生まれ変わりを見つけたら、権力で無理にでも
入内させられる(瑠璃を簡単に手に入れられる)
とでも、思ってたんじゃありませんかね?
「一日も早く、父帝様のように~」というのは、
その布石だと思うのは、穿ちすぎでしょうか…(-_-;)。
2018.11.08 21:22 | URL | #- [編集]
NONKO says..."もしかして?"
はじめましてNONKOと申します。いつも楽しく読ませていただいていたのですが、はじめてカキコします。
この東宮はもしや?瑠璃に懸想してた陰陽師では??
うーん、この予想はいかに?
2018.11.06 13:27 | URL | #- [編集]
says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018.11.05 19:46 | | # [編集]
ハニー says...""
更新ありがとうございます。

んん?
今回あたりで瑠璃姫に絡む高彬が
鷹男にやり込められることを期待していたのですが。
ふー、焦らされてますっ!!

東宮様の苦悩が吐露された回でしたねー。
ひょっとして東宮様も透子を好きになって
より複雑なお話に発展する可能性もありですか?
そして「叔母宮様はご協力くださるとお約束
されたではないですか」と橋渡しを迫るとか?

読みたいシーンがいっぱいでもう、本当に
このお話は困っちゃいますね!!
2018.11.05 00:28 | URL | #- [編集]

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