FC2ブログ

沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第八十一話 勾当内侍・源盛子

  6 

現在拍手小説はありません
「だけどあのことしか…思い当たることはないのよ……」

まるでご自分こそが藤壺女御様であるかのように
透子殿はそう呟いたきり、後は嗚咽して泣くばかり。
その前に透子殿が零した言葉から考えるに、主上と藤壺女御様が交わした約束事のことを言っているとはわかったがその約束が何なのか、何故透子殿がそのことで泣くのかわからない。

「勾当内侍様…あたし……あたしはどうしたら…っっ」

嘆く透子殿は自分が主上のために何かをしなくてはいけないと考えているようだったが。
何故そこまで。
何故これほどまでに強く、透子殿は主上の御心に近づこうとするのか。そのために生まれたのだとまで言い切った透子殿。主上の闇を払えるのは自分しかいないとまで断言した透子殿。

―『左大弁家の姫とその女房については君が自分で判断するといい。ただ、ひとつ忠告はしてあげる。余計な先入観は捨てることだ。世間の常識も全部ね。』―

弾正尹様のお言葉を思い出す。
あの言葉にこそ答えがあるのではないか。
透子殿が普通の女人でないことはわかった。透子殿には隠された何かがあるということも。

―『今はまだ何も答えられません。』―

答えられない何があるというのか。
透子殿は透子殿だ。後宮にあがる姫君につけられている女房なのだから、その身元はしっかりとしたものであるはずで、別人であるはずもない。それなのに、

一体何者なのかと考えてしまうわたくしはおかしいのだろうか。間違っているのだろうか。考えすぎ、なのだろうか。

弾正尹様と藤の大尼君様に秋篠権大納言様が推す女人、
主上が悋気の中にも気にかけられている女人、

何かを身の内に秘め、強い意志を持つ透子殿。

「透子殿、あなたはもしや……もしや…―――――」










「長恨歌」第八十一話 勾当内侍・源盛子










宴の最中、どなたか、おそらく高位の貴族に乱暴をはたらかれた透子殿を、主上のお計らいでひっそりと清涼殿にお連れした。
まさか藤壺でそのような狼藉をはたらく者がいようとは思わぬ事態だったが主上には何かお考えがあるようで、透子殿の身を隠すようにとのご命令を賜った。姫宮様の住む藤壺での暴挙に主上は大層お怒りで御身から放たれる冷気は常に増してすさまじかったから推察するに姫宮様の御身にもしものことがあったらとのご心配故のことだろう。

間一髪、貞操こそ無事であったものの透子殿のお姿はそれは哀れなもので手をあげられた頬は赤く腫れ上がり、髪は乱れ痛ましい姿であった。

「宴には戻らなくていいそうです。こちらでゆっくり休みましょう」

「ありがとうございます…」

左大弁家の姫君には後で事情をお話するとして、弾正尹様にはどうするべきか。藤の大尼君様とも懇意にしていると聞くから、宴には参加せずとも参内している大尼君様にもお知らせした方がいいだろうか。
思案はすれどやはり主上のご判断を仰ぐべきかと今は透子殿のお傍について離れないことを選択する。

「………数日は腫れはひかないかもしれませんね」

透子殿は無理に作った笑顔で笑った。

「こんな姿では二の姫様のお傍に戻るのは難しいですかね」

「…二の姫様のお立場を考えれば…。あらぬ噂を呼びますから。」

「そうですよね」

透子殿の仕える左大弁家の二の姫様は東宮妃候補として参内している。この宴の間に東宮様とのお目通りもしているだろう。本来であれば透子殿がついているべきところではあるが、何かあったのが一目でわかる姿でお供するわけにはいかないだろう。入内を控える姫君の醜聞にもなりかねない。せめて腫れが消えるまで離れていたほうがいい。
もしや主上はそこまで考えて透子殿を清涼殿にとおっしゃったのだろうか。

「あの、勾当内侍は宴には戻らなくていいのですか?あたしなら大丈夫ですから…」

わたくしは眉を寄せて透子殿の言葉を否定した。

「透子殿のお傍についているように命じられております。弾正尹様からもくれぐれもと頼まれておりますから。」

わたくしの返事に、透子殿が申し訳なさそうな顔になる。

「そんな…でも、」

わたくしはゆるく首をふった。

「良いのです。わたくしはさほど宴に興味はございませんし主上のご命令の方が優先です」

それに、透子殿に無体をした公卿が再び現れないとも限らない。まさか清涼殿にいるとは思わないだろうし清涼殿で狼藉をはたらくなどできるはずはないけれど、今は一人にしないにこしたことはないだろう。

こういったことは、女の精神を傷つける。未遂であろうとなかろうと、心に深く傷をつけるものなのだ。

長く後宮に身を置いていれば、こういった事例な少なからず目にしてきたことだ。昔はもっと多かったと、年配の女官に聞いたことがある。
今は少なくなった方とはいえ…殿方の女人に対する意識を根本から変えることができない限り、全くなくすことはできないのだろう。

ちらりと透子殿を見る。
主上が身を隠させよ、とおっしゃったということは。再び狙われる可能性があるということ。されど不思議だった。主上のお怒りを買ってまで透子殿に執着するかもしれないなど、到底理解できないことだった。

それにしても見た目の悲惨さに反して透子殿はもう落ち着いているように見え、襲われたことに対する衝撃は少ないように見える。それよりも主上のことを気にかけているようで、それがまた透子殿への違和感を募らせる。

「………透子殿。ひとつ、お聞きしてもよろしいでしょうか」

「…はい」

訊ねるべきかどうか、迷っていた。
けれど。

透子殿に教えたのはわたくしで。
無関係ではない以上、尋ねずにはいられない。知る権利も義務も、あるのだと思う。

「昨夜、あなたは……透子殿は主上にお会いになられたのですか」

透子殿が息を飲んだ。

主上の公然の秘密を
主上が厭う相手に告げた。
わたくしの判断で、わたくしが勝手にした行いの、
責任を負わなければならないのなら潔く受け入れる覚悟であの時、わたくしは透子殿に話したのだ。

わたくしの視線を受け止めて
しばしの沈黙の後、透子殿は口を開く。

「………――はい。」

その返事に、少なからず驚いたのは無理はない。
わたくしは、主上の居場所までは伝えなかった。否、誰も知らなかったのだから会えたということは透子殿が探し当てたということ。
藤壺女御様の月命日に主上に会い、こうして無事でいる。つまり、それは


主上が透子殿をお許しになられたということ―――。


「やはりあなたは……只者ではないのですね………」

主上の逆鱗にふれてなお、怯まず、そして追い出されることも処罰されることもなくまだここにいる。しかも、主上自らに助けられ…こうして匿われている。
もしかするとお怒りであるように見える主上でさえ、ご自身の行動の意味を計りかねているのかもしれない。透子殿には人の心の警戒を解かせる何かがある。するりと、いつの間にか…気がつけば心の内に入り込んでいるような、そんな、不思議な力を持っているように感じる。

「主上の……御心は晴らせましたか」

主上の闇を、透子殿は晴らしたいのだと言った。
そのために会いたいのだと。話したいことがあるのだと。

しかし透子殿はゆるりと笑んで首をふる。

「そう簡単には…いきませんでした…」

「そうでございますか…」

しかしあの主上が処罰することも追い出すこともせず、逆にその身を助けたのだ。
主上の心の琴線に触れる何かがあったのは間違いないだろう。

「透子殿、あなたは――」

そしてわたくしはある確信を持って、

言った。


「あなた様は……十八年前に亡くなられた藤壺女御様に近しい方なのですね」










「惜しいけど違うな。残念。君もまだまだ常識というものに捉われすぎてるね。」

またわたくしの局に茶を飲みに来た弾正尹様は真には笑っていない笑顔でおっしゃった。

「正解には近づいてるけどね。」

「答えを教えてはくださらないのですね」

諦めの溜息とともにわたくしは言った。
それに弾正尹様は面白そうに目を細めて同意する。

「君も主上と同じ、自分で気づかないと信じられない性質だと思うからね。」

否定はできなかった。
その点、僕や大尼君様はほら、わりと素直な方だからさ?と。異議を申し立てたくなるようなことを平然とおっしゃった。

「姉さん…藤壺女御様がお産みになったのは姫宮様お一人で間違いない。最初の結婚で授かっていた姫、という線は惜しいけど違うな。あの女房は藤壺女御様の息女ではないよ。」

「そうでございますか…」

藤壺女御様に近しい人間、主上と藤壺女御様の約束事を知り、主上の闇を晴らしたいと願う人間。もしや女御様が最初の結婚の時に産んでいた姫でもいたのかと思ったのだが。
どうやらわたくしの推測は違ったようだ。

「姉さんの隠し子とか…君もなかなか面白いことを考えるねえ。」

後で話してからかおうかなと。誰に言うつもりなのか弾正尹様は楽し気だ。
藤壺女御様は異例なことなれど、入内前に夫を通わせていたことがあり、その時に授かった姫がいたのかと思ったのだ。入内するにあたって隠されたのかとも。まあ、よく考えてみれば名門同士の正真正銘のご夫婦の間に御子が産まれていたことを隠すはずがないのだし入内が決まってから産んだことをなかったことにするのも無理がある話だ。

「わたくしの考えすぎだったようですね」

ならば透子殿の正体は。
絶対に藤壺女御様に関係していると思うのだが。

飲んでいた茶器を置き、考え込むわたくしの様を観察するような目をした弾正尹様。

「真実は案外単純なものかもしれないよ。固定概念さえ捨てれば簡単にわかったりするものさ。藤壺女御様と主上しか知らないことを知っている人間――ほら、答えはもう出てるよね。」

「え……?で、ですが………」

「僕の言葉も裏を読み取ろうとせずそのまま受け止めればいいんだよ。」

わたくしは驚き、目を見開いて弾正尹様を凝視した。

「まさか、そんな………」

「よく思い出してごらん。君の好きな、憧れていた姉さんは、どんな人間だった?どんなしゃべり方をしていた?重なるところは…―――ない?」

「あ…そ、そん、な……っ」

「主上が思ったより頑なでいらっしゃるからね。やっぱり予定を変更して味方を増やそうかな。どうせ君が答えに行き着くのも時間の問題みたいだし。―――――高彬の奴も気づいたかもしれないし。」

唇がわななく。
身体が、心が、震えた。

まさか、そんな。


そんなことが――?!


弾正尹様のお顔が怜悧なものへ変わり

瞳がわたくしを射抜いた。


「さて―。勾当内侍、源盛子。君は今度こそ――藤壺女御様をお守りできるか?」


わたくしは大きく息を


のんだ―――――。





続く


イイね!と思ったら押してください<(_ _)>
にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ

関連記事
雪 says..."はる様"
ありがとうございます!
融のこと、かっこよく書こうとしてああなったのではなく、自然に言わせたセリフでしたが反響がよくて嬉しいかぎりです\(◎o◎)/!

鷹男も姫宮も弓削も、もちろん今からあれこれ動き出しますよ!
特に気をつかったのが鷹男の心情なので、それが違和感なく受け止めてもらえたらいいなと思います。
2018.12.02 17:56 | URL | #- [編集]
雪 says..."ふにゃろば様"
いいですね~
うんうん、そういう4者面談を経てるかもしれないです!!
少なくとも今世では小萩はずっと瑠璃の傍についてることができないので…それをカバーするための盛子です!
これからは彼女が瑠璃の傍にいます。
さて、これからさらに、色んなことが加速していきますよ。ご注目ください!
2018.12.02 17:53 | URL | #- [編集]
雪 says..."ハニーさま"
立派な公達に成長した融です!
いやん、ときめかせるまでになれてたなんて感激です!
十八年というのと、姉を殺されたというのとが重なって、ぼんくら融もこんなに立派になりました(*^_^*)
今回のこの話にはもう、融がなくてはならない存在です。
今後の活躍にもどうぞご注目くださいね。
2018.12.02 17:50 | URL | #- [編集]
はる says...""
雪さまこんばんわ🌛

更新、ありがとうございます!!

融くん、とってもかっこいいですねー。
盛子さんとの会話もドキドキしてしまいます。
「君は今度こそお守りできるか」のところなんて、何度も読み返してしまいました。( 〃▽〃)

鷹男の計らいで清涼殿にいる瑠璃ちゃん。
これから頑なな鷹男の気持ちがどう変化していくのか、楽しみです💕
鷹男との絡みの前に、ふにゃろば様のおっしゃる4者会談があるのか、はたまたハニー様がおっしゃる高彬のその後があるのか果たしてどうなるのかわくわくです。

そろそろ、姫宮さまとの出会いはあるのでしょうか。
子どもは会った事がなくても、姿が変わっても、母の事を感じてくれるのではないかなと…そうならいいなと思います。
2018.11.28 00:42 | URL | #- [編集]
ふにゃろば says..."そして、また一人♡"
雪様、こんばんは。

おぉ~、またもや秘密を知る者が増えましたね♪
ま、今回は融君がバラしちゃっているようなものですが。
盛子さん、キミこれから大変だよ?
小萩は現世では瑠璃の主となっているから、
後宮で実質瑠璃を守るのは、キミの役目になるんだろうなぁ…。
ガンバッ!(と、無責任にエールを送っておこう)

この後は、瑠璃・小萩・融と盛子さんの四者会談かな?
小:「融様、それでは」
融:「ああ、彼女にも今後は仲間になってもらう。
   後宮内じゃ僕も目が届かないし、藤宮様もずっと
   おられる訳じゃないし。小萩は今世じゃ姉さんの
   主なんだから、姉さんを守るにも限度があるだろ?
   姉さんの傍で守る女官が必要なんだ」
瑠:「ちょ、ちょっと待ってよ、融。そりゃ、あんたの
   気持ちは嬉しいけど。でも内侍様にもお立場が」
盛:「いえ、やらせて下さい、透子殿。いえ、藤壺様」
瑠:「内侍様っ!?」
盛:「藤壺様は覚えていらっしゃらないかもしれませんが…。
   わたくしは一度だけお会いしたことがあるのです。
   その時、女御様は女房のお姿をしていらして。
   わたくしもついつい気軽に素のままの自分を晒け出して
   しまって。でも、女御様はその事をお咎めには
   ならなかった。寧ろ『自分もそう』だと仰って下さった。
   自分を否定されてばかりだったわたくしには、その事が
   どれ程嬉しかったか」
瑠:「内侍様…」
盛:「御身分を知らなかった時は、『友人になれるかも』と
   勝手に思っておりました。そして女御様だと判った後は
   憧れておりました。その方が亡くなった、それも
   殺されたのだと知った時、自分の無力が本当に
   悔しかったっ…」
小:「…、判りますわ。わたくしも姫様を御守りできなかった
   こと、本当に無念でしたもの」
瑠:「小萩っ、内侍様もそんなこと気にしないでっ!
   あたしが殺されたのは…、自業自得みたいなところも
   あるんだし」
融:「姉さん。姉さんは良くても僕らは良くないんだ。
   父さんや母上にも会っただろう? 又、逆縁の親不幸を
   するつもりかい?」
瑠:「融…」
融:「それに、僕を噓つきにするつもりかい? 父さんや
   母上の前で言ったろ? 『姉さんは今度こそ守る』って。
   その為になら、打てる布石は打っておくよ」
小:「姫様。融様の仰る通りになさってくださいませ。
   わたくしは…、もう姫様を喪いたくはございませんっ」
盛:「女御様。此度はわたくしにも協力させて下さいませ。
   数ならぬ身ではありますが、お役に立たとうございます」
瑠:「っ…。あ、ありがと。ありがとうっ
   (と言って、泣き崩れてしまう)」

ハッハッハッ、凝りもせずにまたもや
もーそー(妄想)をぼーそー(暴走)させてしまいました♪
2018.11.27 02:33 | URL | #- [編集]
ハニー says...""
更新ありがとうございます。

きゃー!
なんだか後半の弟が魅力的すぎでドキドキしました!
あの!
ボンクラの!!
瑠璃姫に拳で殴られてベソかいてた弟が〜〜!!

柔らかい口調なのに、なぜか迫力を感じたわ。
やだわ。ときめいちゃった(笑)
いやー、いいっす、この融。素晴らしい!!

今夜は気持ち良く眠れます。
次のお話も楽しみにしていますね!
2018.11.27 00:39 | URL | #- [編集]

コメントする






管理者にだけ表示を許可する

該当の記事は見つかりませんでした。