FC2ブログ

沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第八十二話 左大弁家二の姫付女房・透子(瑠璃)

  2 

現在拍手小説はありません
どうして高彬はあんな風に変わってしまったのだろう。
誰よりも優しい人だった。あんな風に、女に酷いことをする人では絶対になかったのに。
確かに二度ほど叩かれたことはあったし蹴られたこともあったけどあれはあたしも悪かったから。暴力で女を従わせようとする人ではなかったはずだ。

「暴力を振るわれ続けるとね、瑠璃姫」

藤宮様はおっしゃった。

「段々、自分にも非があったのだと思い込むようになるそうですわよ。」

「いや、そんなに頻繁に叩かれてたわけじゃ…」

そんな男だったらさすがにすぐに離縁してた。

「暴力男というものは大概が後で優しくするそうですわ。二度とやらないから許してくれとか、自分も本当はこんなことしたくないんだとか、真綿で首を絞めるように殴られるようなことをした自分が悪かったのだと洗脳していくのです。」

藤宮様の言葉に思い当たることもなくはなかったけど。
藤宮様は明らかに怒っていた。
激怒されている。

珍しい…。

藤宮様でもここまでお怒りになることもあるのね、なんて。
自分のことなのに他人事みたいに感心する。

「そして信じるそうですわ。自分には彼が必要だとか彼には自分が傍にいてあげなくちゃ、などと。これを共依存と言うのです。」

「いえ…ですから藤宮様。前の生で結婚してる間は高彬もそんなひどい人じゃなかったですしあたしもそんなこと思ったことなかったですってば。そんなに頻繁に手を出されてたらいくらなんでも父様も黙ってないですしあたしもやり返すか離縁してます。というか、円満に離縁して鷹男に入内したんですけどそのこと忘れてません?」

途端、鋭い瞳で睨まれた。
まずった。これは藤宮様のお怒りを煽ってしまったようだ。

「今世が心配だから言っているのです!瑠璃姫、あなたはお人よしですからね!高彬殿がおかしくなっているとでも思ったら助けに動こうとするのではないですか?!それこそ敵の思う壺ですわよ!共依存の始まりです!」

「いや敵って…」

「そんな姿にされて敵でもないとおっしゃいますの?!」

「う…こ、これは……」

藤宮様の勢いがすごいから逆にあたしの方は冷静になっちゃってるというか。
さすがにここまでされて高彬に怒りを覚えないわけないし許せないわよ。一晩たって痛みはさらに増した。勾当内侍様の言ったとおり、腫れはひどくなったしとてもじゃないけど小萩のところへは戻れない。掴まれていた手首はどす黒く変色していて一目で何があったかわかってしまう。

「主上は右近中納言に蟄居を言い渡されました」

「…そうですか」

高彬を庇うつもりはない。あたしだと知らなかったとしても、言い訳にはならない。身分が下の女だからと暴力をふるって許されてほしくないのだ。

あたしはあのまま清涼殿で静養させてもらうことになり、小萩には勾当内侍様が事情を説明してくださった。小萩はすごく心配してくれてすぐに会いに来ようとしていたそうだけど、今の小萩は二の姫なので一人でここまで来ることは難しく、文でのやり取りしかできていない。小萩のことも心配だし今のあたしは小萩の女房なのに、自分のことばかりで女房としての勤めを果たせていない現状がいたたまれない。瑠璃姫だった頃小萩は本当によく頑張ってくれていたというのに。あたしは…生まれ変わっても自分のことばかり。
そんなあたしの心情を察したのか、元々そう命じられていたのだからとあたしの分まで勾当内侍様が二の姫に付いてくださることになり、あたしには藤宮様が四六時中傍にいてくださることになった。










「長恨歌」第八十二話 左大弁家二の姫付女房・透子(瑠璃)










高彬が蟄居になったなら、あたしがここにいる必要はない気もする。そうでなくても鷹男に叱責されたのだからこれ以上あたしに何かしようとは思わないんじゃないだろうか。
そう言うと藤宮様にまた叱られてしまった。

「甘いですわよ、瑠璃姫!世の中には逆恨みというものがあるのです。今の高彬殿が蟄居になったことで透子を逆恨みしない保障はどこにもありませんわよ?!」

「そう…で、しょう…か……」

そこまでとは思いたくない。瑠璃姫の知っている高彬を、信じたい気持ちが、藤宮様の言葉を肯定することを躊躇わせた。
それがわかったのか、藤宮様は眉を寄せて厳しい顔をしながらも、少しだけ柔らかくなった声であたしを諭す。

「瑠璃姫のお気持ちはわかりますわ。ですが、今はまず何よりもご自分のことを考えなさい。高彬殿のことは、それからです。」

「…藤宮様はご存知ですか?高彬が…どうしてああなったのか。」

藤宮様はきっぱりと否定した。

「いいえ、存じません。そもそも、わたくしと高彬殿は瑠璃姫の死後交流はございませんでしたから。一度は瑠璃姫の夫にまでなった方があのような俗物になり果てる理由など……全く理解できませんわ。」

「ぞ、俗物って藤宮様」

「それより瑠璃姫、主上のおっしゃる通り、高彬殿が透子に執着する可能性は充分にあるのではなくて?声を…聞かれたのでしょう?」

「あ……」

指摘されてようやく気づく。
そうだ、自分ではわかりにくいけど声は瑠璃の時そのままなんだった…。この声でしっかり高彬と話したんだった…。

「高彬殿が気づいてないとは考えにくいですわ。生まれ変わりとまでは気づかないでしょうけれど声だけでも執着する可能性はあります。気をつけるに越したことはありませんわ。」

「でも…高彬とあたしはとっくに」

「高彬殿のお気持ちを瑠璃姫が決めつけるべきではありません。執着は、何も愛や恋にだけ生まれるものではないのです。」

「………」

高彬と離縁した原因は高彬がとうとう母君の圧に負けて兵部卿宮家の二の姫を妻にしたことだった。二の姫は吉野君の事件以降も独身を通していて、ずっと引きずっていたようだった。それを高彬が知り、同情してしまったことも要因だと思う。
吉野君のことは高彬も少なからず関わっていて事情も知っていたし、同情するのも仕方ない。どんな縁談にも頷かずいつまでも独身を通す姫に困った兵部卿宮様は、一度は流れた右大臣家の高彬との縁談を再び持ち出したのだ。これに、あたしを良く思っていない右大臣家の北の方が頷かないはずがなかった。
二の姫への同情と自分が関わったことへの罪悪感、さらに母君からの重圧に、とうとう高彬は二の姫へ通うことを承諾した。二の姫の方も…あたしへの遠慮はあったかもしれないけど、弱っているところに事情を知る人から優しくされれば、流されてしまうのもわかる気がする。
あたしが全てを知ったのは露顕の後だった。全く知らされていなかった寝耳に水のことで、受けた衝撃はすさまじかった。高彬からの愛情も、信頼も。信じて疑っていなかったのだ。
さらに身分・教養・美貌と共にあちらの方が断然上とはいえ権力を伴わない宮家と政の中心にいる内大臣とではどちらが正妻になるか微妙なところで口さがない人達が面白おかしく噂した。あたし自身は正妻の座にこだわるわけではなかったけど父様にも内大臣家としての矜持もあって譲ることはできなかった。
高彬は謝罪に訪れ、事の説明と謝罪を何度も何度も繰り返してくれた。二の姫に気持ちを奪われたわけではなく、同情してしまったのだと。二の姫の方も高彬に気持ちがあるわけではないと。吉野君のことを持ち出されてはあたしとしても強く言うことができず。
それでも裏切られた思いや結婚の際の約束のこと、せめて事前に相談してくれていたらと。露顕の後で初めて知ったことへの怒りもあってずいぶんみっともなく怒鳴り散らしたし物も投げつけた。泣いて泣いて暴れて追い返して。それでも何度も通ってきては謝罪を繰り返す高彬に
「もういい……もういいから…二の姫を、幸せにしてあげて………」
とこれだけは絶対に守ってと約束させた時、あたしは自分が身を引くことを決めていた。
高彬はずいぶん渋ったけど…そもそもの理由が自分にあることを自覚しているから、最後には納得してくれたのだ。

だから、高彬があたしに執着するというのがいまいち腑に落ちないのだ。
多少揉めたとはいえ、最後にはお互い納得してすっぱり別れたのだから、声が同じというだけで執着するだろうか?高彬は兵部卿宮家の二の姫と今も円満な夫婦関係を築いていると聞くし子にも恵まれたと聞いた。あの後他にまた妻を迎えているようだけど、正妻は変わらず二の姫だ。

「それはともかく。主上から聞いた時は驚きましたよ。主上もようやく透子が瑠璃姫だと認める気になったのでしょうか?」

「それは…違うと思いますけど……」

鷹男があたしを助けてくれたのは前世の約束のためだ。
今のあたしを瑠璃姫だと思ったからじゃない。

「ですが主上はずいぶんとお怒りでしたよ?宴の最中だというのに右近中納言に蟄居を言い渡すほどですからね。ただ約束を守るためだけならば、透子を清涼殿に置くこともないはずです。主上ご自身でもお気づきでないだけかもしれませんわ。」

「そうでしょうか……そうならいんですけど…」

「鷹男があれほどの怒りを見せるのは、昔から瑠璃姫に関することだけですのよ。」

主上ではなく鷹男と。
藤宮様はおっしゃって。

「お二人に必要なのはとにかく話をする時間です。瑠璃姫がこれ以上の協力は不要とおっしゃるから静観しておりましたけれどこのままでは埒があきませんわ。ここまできてろくに話もできずに退出することにでもなったらどうしますの?」

藤宮様には宝珠寺でのことは話していなかった。
参内したとはいえ、帝と中流貴族家の女房ではまともに話すことはもちろん会うことすらできなくて当然だから、色々苦心していることは知っていても話せていないと思っているのだろう。藤宮様が参内してきたのは宴の当日の昨日のことだった。

「ですからもう、わたくしの協力を拒否することは許しませんよ、瑠璃姫!」

「え?」

首をかしげ、藤宮様を見れば有無を言わせない笑顔にぶつかる。

「こうなったら昔のようにわたくしを利用しなさい。わたくしが主上とお会いするのに透子、あなたも連れていきます。その後わたくしは席を外しますから二人でゆっくりと話すといいわ。」

「でも――」

藤宮様がにっこりと笑った。
いつも通りのお美しい穏やかな微笑なのに、その背から黒い何かが立ち込めているような幻覚が見えて目をこすった。
おかしい。
何度見直しても藤宮様の笑顔が恐ろしく見える。

「わたくしはね、瑠璃姫。怒っているのです。」

「あ…あたしに、です、よね……?」

びくびくしながら謝ろうと口を開いた。
藤宮様はさらににっこりと、怖さを増した笑顔になった。

「いいえ。鷹男にですわ。」

「鷹男に?」

藤宮様が鷹男にお怒りになるなんて珍しい。というか初めてじゃない?
藤宮様は鷹男の帝のことを甥とも弟とも思っていて甘くなってしまうってご自分でおっしゃっていたくらいだもの。鷹男だってそれは同じで、お二人は本当に心を許した家族なのだとわかるほど親しくしていたわ。

「鷹男が早く透子を瑠璃姫と認めていれば瑠璃姫がこのような目に合うこともなかったのです。それを、鷹男が意地を張るからこのようなことに……」

「鷹男のせいじゃありませんわ、藤宮様!」

きっと
睨まれた。

「いいえ!そもそも瑠璃姫がこのような形で参内することになったのは鷹男が認めないからです!瑠璃姫が瑠璃姫として参内できていればこんなことにはならなかったはずです!」

「でも…っ!」

「弓削の行方を未だ掴めていない以上、瑠璃姫、あなたは主上のお傍にいるべきです。主上のお傍以上に安全な場所はないのですから。」

こうなったら鷹男の信頼と自分の身の安全と両方一気に手に入れておしまいなさい!

と…――

鬼気迫る笑顔の藤宮様にひきづられる形で
あたしは五度目の、


鷹男の帝との対面を果たした。





続く


イイね!と思ったら押してください<(_ _)>
にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ

関連記事
雪 says..."Re: わーい、いい気味♡(^▽^)"
DV男にしちゃいました…今回は…(^_^;)
そんな高彬への処罰、手ぬるいですかね??
いや実際のところ、女官を手篭めにしようとしたではそんな重い処罰は無理な気がしたんですよね。
その分、後でしっかり、他のところから罰が下るかも…?
2018.12.18 22:25 | URL | #- [編集]
ふにゃろば says..."わーい、いい気味♡(^▽^)"
雪様、こんばんは。

ハッハッハッ。高彬、藤宮様からすっかりDV男にされちゃいましたね♪ 激怒していらっしゃるからなぁ…。鷹男は蟄居を命じましたが、藤宮様としては
「蟄居!? 何を手緩い事を仰っておりますの、主上! 今すぐ除籍となさいませっ」なんて、息巻きそう。
んで、宮廷と無縁の身にしたところで、ハニー様御考案の藤宮様&融君による「高彬消滅作戦」が極秘に発動!、なんていうのも面白いなぁ♡(ハニー様、勝手にごめんなさいm(_ _)m)

にしても。「宴の最中に蟄居を言い渡す」ということは、高彬ってばあの後ちゃっかり宴に戻った訳? だとしたら、神経も図太くなったんだなぁ。
よりにもよって、人もあろうに主上にあんな醜態見られたんだよ? 体調不良ってことでコッソリ帰っても良かったろうに。
なまじ、戻っちゃったのが仇になっちゃって(キシシ(^^♪)。宴もたけなわの頃、宴の場にいる高彬を見咎めた鷹男。
鷹:「…、右近中納言」
高:「はっ、はいっ」
鷹:「そなた、このような所で何をしている」
高:「あ、あの宴で」
鷹:「ああ、そういえばそなたは楽で琵琶を担当していたな。だが、それはもう良い。直ちに退出せよ」
高:「主上っ!?」
鷹:「右近中納言、そなたに蟄居を申し付ける」
高:「っ!」
鷹:「不服か?」
高:「…、いえ」
鷹:「ならば、直ちに立ち去るが良い」
高:「はっ…」
かくして、皆の前で恥を掻かされた高彬は項垂れながら出ていき、兄達は庇うどころか日頃から目障りな末っ子が主上の勘気を被ったことで「いい気味だ」とほくそ笑み、
上司・同僚・部下からは好奇心からの噂の的となり果てましたとさ♪(同情や心配、気遣いはどこ?)

それにしても。瑠璃のほうは「円満に離縁して」なんて言ってるけど、高彬のほうは未練タラタラだったのでは?
今回は藤宮様のご意見が正しいと思うよ、瑠璃ちゃん。大人しく言われた通りにしておいた方がいいよ~っ!
2018.12.03 18:45 | URL | #- [編集]

コメントする






管理者にだけ表示を許可する

該当の記事は見つかりませんでした。