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沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第八十三話 左大弁家二の姫付女房・透子(瑠璃)

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宴も終わり、後宮からは大勢いた姫君達が次々と退出していった。
左大弁家の姫である小萩も、あたしを置いていく形となり後宮をさがった。表向きには透子も二の姫について退出したことになっているのだけど。
ここであたしの存在は隠され、いない者として帝の庇護下にあった。










「長恨歌」第八十三話 左大弁家二の姫付女房・透子(瑠璃)










「こうなったら昔のようにわたくしを利用しなさい。わたくしが主上とお会いするのに透子、あなたも連れていきます。その後わたくしは席を外しますから二人でゆっくりと話すといいわ。」

藤宮様は宣言通り、宴の余韻を残しつつも後宮の人の出入りが落ち着くと
本当に鷹男の帝との時間にあたしを同席させた。
鷹男に怒っていると言っていた藤宮様だけど、いざ鷹男の前に出るとにこやかに微笑まれ怒りなど全く感じさせない、ように見えた。
のだけど。

「…何故、その者がここに?」

冷気でも漂ってきそうな明らかに怒っている鷹男。それに藤宮様はまるで気づいていないかの如くおっとりと微笑むだけで無言を返す。もちろんあたしが何かを返すことなんてできない。少しの沈黙が流れた。

「藤宮?」

「なんでしょう、鷹男」

藤宮様が意図的に口にした呼び名に、鷹男はすぐに反応した。扇を音をたてて閉じて女官らを退がらせたのだ。
女官達の気配が消えて緊張はさらに高まる。鷹男と藤宮様と、あたし。まさにあの頃の再現だった。
気まずい沈黙がまた流れた。

「さて」

藤宮様が立ち上がった。

「藤宮?」
「藤宮様?」

驚いて見上げたあたしと鷹男。

「お膳立てはしましたわ。鷹男、そんなに信じられないのなら納得できるまで存分に聞くといいですわ。瑠璃姫、決して諦めてはいけませんよ。…姫宮のためにもね。」

はっとした。
そうだ。姫宮に会うためには鷹男に信じてもらわないといけないんだ。こんなところで立ち止まってるわけにはいかない。
大事なのは瑠璃姫だと信じてもらうことじゃない、姫宮に会わせてもらうための信用を得ること。少なくとも敵ではないと、姫宮を害そうする人間ではないとわかってもらうことだ。

止める間もなく藤宮様はいなくなり、鷹男と二人きり。
どう切り出していいか、透子として話すべきなのか瑠璃姫として話してもいいのか。
考えあぐねて言葉が出てこない。
鷹男との間に御簾も几帳もなかったけれど、窺い見た顔には何の感情も見えなかった。

しばらくの、間が空いて。

「腫れているな」

鷹男が言った。

「え…」

「右近中納言は手加減をしなかったのか」

「…そう、みたい、です……」

指摘された顔に手をあてて、忘れていた痛みがぶり返す。
痛みから意識を逸らしていれば我慢できる程度だけれど、痛みがないわけじゃない。一晩冷やし続けたおかげで幾分ましなはずではあるけれど。言われてみれば人前に出れるような顔ではなかったかもしれない。
鷹男は眉を寄せ厳しい顔になった。

「…私も人のことは言えぬか」

「あ…っ」

一気に宝珠寺での出来事が蘇って感じたのは羞恥。真っ赤に染まったと自分でもわかった。

「あ、あのことは……その、帝も、本気ではなかったと…わ、わかってます、から…っ」

初めからわかってた。
あれは本気でどうこうしようとしてたわけじゃなく、脅しだった。あたしが逃げ出すのを狙ってたんだ。高彬とは掴まれた腕の力が、明らかに違っていた。鷹男に掴まれた腕は最初から跡すらついていない。

……鷹男はいつも、そう。
逃げ道を用意して、あたしの意思を尊重してくれようとするの。それで自分が傷ついても笑ってその傷を隠してしまう人。

だから、入内したんだわ。

前世の、瑠璃姫だったあの頃。

たった一人で重過ぎる荷を背負い、その全てを綺麗な笑顔で覆い隠して立派な“帝”であろうとするこの人を
幸せにしてあげたいと思ったのよ……―。

「謝罪は改めてしよう。そなたが…弓削の手の者ではないと確証がついてから。」

「…あたしは弓削是雄とは関係ありません。証明は、できませんけど……」

少し俯く。
疑われるのも当然だし証明できないことも確かだ。信じて、としか言えないのに責めることはできない。

「近江守を召喚した。そなたの父だ。話を聞けば何かわかるであろう。」

「父を?!いつですか?!」

「…今日迎えを送った故、こちらに着くまでに数日はかかるだろう。不都合か?」

探るような瞳。

「――いいえ。ただ…驚いただけです。」

近江に帝の勅使が来たとなればとんでもない騒ぎになったに違いない。京であたしが何かしでかしたと思ってるかもしれない。…まあ、違うとも言い切れないけど。
父も母も驚いただろうなあ。
勤めに出した左大弁家からならともかく、雲の上のまさかまさか、今上の帝からの勅使なんて…。近江の受領如きには夢にも思わない出来事だ。さすがの父も泡くって気絶しててもおかしくないほどのことじゃないかしら。三条の父様だって先々帝のご皇女の藤宮様からの使者が来ただけでそれはそれは慌ててたもの。それが大臣でもない受領の家に帝から召喚だなんて……

「ところで」

「は、はい。」

「右近中納言とは何の話を?」

「右近…高彬と?…………あっ………!」

しまった!
思わず高彬って出しちゃった!鷹男のことは気をつけてたのに召喚に気を取られてつい!

「あ、あのー…えっと……右近、中納言様ですね、はい。ええ、ええっと…」

『僕じゃ駄目かな?』
『僕にしときなよ。』

『君に選択権はないんだよ。それとも……里の両親を路頭に迷わせたい?左大弁家の没落の方が嬉しいかな?君の二の姫は東宮妃どころじゃなくなるよ。』

高彬…。
言われた言葉の全てが、信じたくないものばかりだった。
瑠璃姫として生きた前世。幼馴染の高彬はとても優しい人だった。あたしを好いてくれて、吉野君のことで傷ついたあたしを包んでくれた。傷ついた心に染み渡った求婚の言葉。こんなあたしでもいいと言ってあたしだけを望んでくれた人。

『中納言の僕にはそれだけの力があるんだよ。大丈夫、君が僕のものになりさえすれば里の両親も左大弁家も安泰だよ。』

なのに…

生まれ変わって再会した高彬は瑠璃姫にくれたのと同じ言葉を

今度は暴力とともに脅しとして口にした……っ!

「………話らしい、話は、何も……ただ…」

「ただ?」

「……………自分のものに、なれと……」

悔しくて唇をかんで俯いた。
女はいつも理不尽な目に合う。
ああやって逆らえず、好きでもない相手に奪われる女はどれほどいるのだろうか。

…ああ駄目だ。
怒りで震えそう。
腹が立って仕方ない。
高彬に仕返ししないとこの腹の虫はおさまらないわ!一発どころか十発くらい殴り返してやりたい!!

「…右近中納言には蟄居を申し渡した。それでそなたに納得せよとは言えぬが、余計な恨みは買わぬ方が身のためだ。口惜しいだろうがこれ以上の制裁は諦めよ。二度目はないとも伝えてある。」

「……はい。」

帝の怒りを買って蟄居させられただけでも充分な罰といえば罰。それに、こうして匿ってくれている。
感謝しなくちゃいけないくらいだ。

「不満そうだな?」

「え?」

「顔に出ている」

「……っ」

言い当てられて顔をあげ、あたしを見つめる瞳と視線がぶつかる。
そこに何らかの感情の色を見つけることはできなかったけれど、言われた言葉は決して責める色はなかった。むしろ、柔らかく、からかっているような響きがあった。

「も、申し訳ありません…っ」

思ったことが顔に出てしまうところも変わってないみたい。女御であっても女房であってもこれでは駄目なのになあ。
どうしても、感情を隠すのが苦手だ。

「正直、に…言ってもいいですか?」

「……よい。聞こう。」

「…本当は、やられた分やり返したいです。十発くらい殴り返してやりたい。身分が許してくれないのが悔しいです。」

「…身分……だけでは…ないと思うが…」

「女だからですか?」

「いや…そういうことでも……」

「そりゃあ、力では負けますけど。身体縛って抵抗できないようにした上でならあたしでもやり返せると思うんですよね。もしくは帝の命令で反撃するなとでも言ってもらえれば。」

「……………。」

「あたし、元々大人しくやられっぱなしでいられる性格じゃないんですよ。やられたらやり返す!が信条なんです。」

その時

「………帝?」

ほんの小さくだけど

でも確かに

鷹男が


笑っていた。





続く


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雪 says..."Re: そうだった…"
そうそう!近江の両親はもう、息もとまらんばかりに仰天したはずwww
ありえない事態ですから(^_^;)
2人のやりとりはほんと、そんな感じかもしれません!!
さてさて、京にきてどうなるでしょうか…
2018.12.18 22:26 | URL | #- [編集]
ふにゃろば says..."そうだった…"
雪様、こんばんは。

そーでした。鷹男も透子(=瑠璃)を手籠めにしようとしてましたね。でも、鷹男の場合はそれが目的じゃなく、透子の正体を探る為の手段だったから。高彬とは雲泥の差ですよね♡(ちょっと身贔屓かな?)

そして、近江の文信さんと静子さん。瑠璃の予想以上に驚いた、というより恐れ慄いたんじゃないかなぁ。(瑠璃は知らないけど)弾正尹である融君からの使者でも十分ビックリしたろうに。
文:「っ!(文を握ったままブルブルと震え、顔中に脂汗を滲ませる)」
静:「殿? どうされました? と、殿っ!? 誰かっ、誰か来てっ!」
文:「…。良い、静まれ」
静:「ですがっ」
文:「良いと言っておるっ!!」
静:「(ビクッとして、二の句が継げない)」
文:「(額に手をあて、深く溜息をつく)」
静:「あの…、殿? その御文は一体…?」
文:「…、帝からの勅使がいらっしゃる」
静:「っ! ど、どうしてですか?」
文:「透子の事で、訊きたいことがあると」
静:「なっ、何故ですのっ!? どうして帝が!?」
文:「わたしにもわからぬっ! 透子は二の姫様に付き従って後宮に出仕したであろう。その折に、何か無礼を働いたやも知れぬ。しかし、その位で帝からの勅使がいらっしゃるだろうか…?」
静:「透子はっ!? 透子はどうなりますのっ」
文:「…。もし、透子が勅使を遣わすほど帝を怒らせるような真似をしたのだとしたら、到底庇いきれぬ。透子本人はもとより、わたしもお前も、それどころか一族郎党全員に罰を下されてもおかしくはない。帝のお怒りをかって、無事でいられた者などいないのだから」
静:「そんなっ! あぁ、やはり都になど行かせるのではありませんでしたっ…。ここで良き殿方を婿として迎えていれば、穏やかで幸福に暮らせていたのに」
文:「今更その様な事を言っても始まらぬ。ともかく、勅使をお迎えする準備をせねば」
静:「…、殿」
文:「何だ? 今はお前の繰り言を聞いている暇は」
静:「わたくしを都に行かせて下さい」
文:「何を」
静:「行かせて下さいっ! もし本当に透子が帝のお怒りを被ったのだとしたら…、極刑は免れますまい。その前に一目でも会いたい、叶うなら直接対面してあの娘を抱きしめたい…。その後は、潔くあの娘の後を追います」
文:「静子っ!?」
静:「あの娘は、幼い頃から普通の娘とは違っておりました。それが後宮という所で、裏目に出たのかもしれません。だとしたら、それはそのように育ててしまった母であるわたくしの罪。娘と共に、死を以て償います」
文:「お前…」
静:「殿にご迷惑はお掛けしません。行く前に離縁して下さいませ。そうすれば、今後何があろうとも、殿は無関係にございます」
文:「…、取り敢えず、先ずは勅使のお話を伺ってからだ。身の振り方を決めるのは、それからでも遅くはあるまい」
静:「殿…」
なんて、一悶着があったりして♪
2018.12.11 01:24 | URL | #- [編集]

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