FC2ブログ

沫雪の唄

「なんて素敵にジャパネスク」二次小説

「長恨歌」第八十六話 弾正尹・藤原融

  2 

現在拍手小説はありません
宴の翌日、僕は夜が明けると同時にわずかな供をつれて京を出た。
目的の高野山までの道は遠く険しい。途中には牛車を降りて馬上しなければならないかもしれない。
それでも。
事が事だけに信頼できる部下でも任せるわけにはいかなかった。
姉さんの身内として、弟の僕が自ら出向き、確かめる必要があった―――。









「長恨歌」第八十六話 弾正尹・藤原融










「もう少しでございます」

京を出て数日、休憩は最小限に抑えて目的地へ向かう旅路は、普段京の都で暮らし京の中を移動するしかない僕にはなかなか辛く険しい旅だった。
点在する荘園に立ち寄り身体を休めることのできる日はいいけれど、宿などない時には野営しなくちゃいけない。まともな食事もとれず軟弱な身体には酷を極めた。

「休憩されますか?」

「いや…いい。このまま進もう。」

けど弱音を吐いてる場合じゃない。こうしている間にも弓削は姉さんを見つけてしまうかもしれないし、不安定な立場にいる姉さんを危険にさらすわけにはいかない。一刻も早く弓削の行方を掴んで、身柄を確保しなければ安心することはできない。
藤宮様のお怒りももっともだ。さっさと弓削を捕まえていればこんな不安を抱えなくてもよかった――。

牛車は置いて護衛の馬に同乗して進む。高野山のふもとにつけば馬さえ降りなくてはならないだろう。馬の旅も尻が痛いけれど徒歩での旅などきっとそれ以上だろう。
でも、休むことも諦めることも部下に任せることもせず、僕は前へ進んだ。

「高野山です。ここからは歩いて登ることになります。……大丈夫ですか?」

「…ああ。問題ない。このまま行こう。」

徒歩での山道は疲れきった身体から容赦なく体力を奪っていく。それでも僕は下ではなく前を向いて足を進める。
十八年前、姉さんの亡骸がここへ運ばれた時、僕は京にいた。
嘆き悲しむばかりで何もしなかった僕は高野山に埋葬された姉さんに会いに来ることはなかった。そういう習慣がないとはいえ、一度でも会いにきていればもっと早く何かに気づくことができたのだろうか。

民の遺体は火葬されることなく山にうち捨てられ土に返る。けれど僕ら貴族は葬儀をあげ、遺体は火葬し高野山に埋葬する。骨だけになった姉さんはここで、永久の眠りについているはずだった。

「きっと奴はここへ来ているはずだ」

守弥の推測はきっと合っている。あれほどまでに姉さんに固執する弓削が、姉さんの遺骨が埋葬されるここへ、一度も来ていないことは考えられない。
怒りで腹が煮えたぎるけれど、僕がすべきことを、今は何よりも優先させなければ。

「高彬の奴…帰ったら覚えてろよ」

ぎりぎりと唇を噛み。
それからにやりと笑んだ。
幼馴染の最後に残った情で黙っててやったけど

「敵になるのなら徹底的に潰してやる―――」










高野山の寺に辿り着いたのはすでに日も暮れ始め辺りが暗闇に支配されてからのことだった。
松明の火をたよりに進めば

「弾正尹様でございますか?」

同じく松明を持った僧の出迎えを受ける。

「はい。遅くなりました」

「悪路の中ようこそおいでくださいました。お疲れでございましょう、まずはお身体をお休めください」

主上からの勅使はすでに先んじて出されており、僕が来ることは知らされてある。

「ありがとうございます。ですが…先に話を聞きたいと思っています」

僧は少し目を眇めた。

「わかりました。では膳を用意しますのでお話は中で」

「重ね重ね、ありがとうございます」

話をするのは内容が内容だけに僕一人。だけどここまでついてくれた彼らにも充分な休息を与えなくてはいけない。供の従者と護衛には別室が用意され、膳を用意してくれるという。僕は素直に感謝の言葉を述べた。
彼らが身体を休める間、従者と離れ案内された部屋へ移動した。

「お食事はお話の後でよろしいですか?」

「はい…それでお願いします」

僕が頷くと、僧は小姓に伝え、小姓が部屋からさがっていく。

「藤壺女御様の遺骨のことですが」

一刻の時間も惜しくて、さっそく切り出す。

「はい、今上帝から御文をいただいております。確認しましたが確かにこちらにあります。盗まれてはおりませんでした。」

「そうですか…」

「ご案内いたしましょうか?」

「ええ…後でお願いします」

いくら女御様の遺骨とはいえ、ずっと張り付いて守っているというわけではないはずだ。中まで確認することもないだろうし主上の御文を受けて今回初めて蓋を開けたはず。命日に経をあげるくらいで他の日まで気にしているわけではないだろうからその間に盗まれていても気づかないと思ったんだけど…

「我々はどのご遺骨も等しく大切にしております。」

僕の心を読んだように僧が言った。

「あ、いえ。疑っているわけではないのです」

不快にさせてしまっただろうか?
表情には出ていなかったけれど。

「よいのですよ。このように高野山の頂上にありますので安易に人も訪れませんし誰かが訪れれば自然と目につくものではありますが…絶対とは言い切れませんのでご心配はもっともなことです。」

「では……弓削がここへ来た可能性は?」

僧は目を閉じた。

「お話を聞く限り、来ているでしょう。」

「っ」

「実は…今上帝の文に書かれていた容姿とは異なっていたのですが半年ほど前でしょうか。男が一人、藤壺女御様のお参りをしたいとやってきたことがありました」

「その男は?!」

何者なんだ!?

「名はお聞きしておりません。ただ昔女御様にお世話になった者だと。わたくし達にお断りする理由はありませんでしたのでご案内しました。」

「その男に不審な行動は?」

「ございませんでした。静かに女御様を悼んでいるように見えました。」

「……場所を確認して一度帰ったふりをして戻ってきた可能性はありますよね?」

僧が僕を見つめる。

「否定はできません。……………お話を伺って一つ、思い至ることがあるのですが…」

「なんでしょう」

「藤壺女御様の件とは全く関係のないことかもしれませんが」

「かまいません。」

身体を乗り出す。
僧は少し躊躇う様子を見せた後、口を開いた――。

「その男が参拝に訪れてすぐのことでした。使いに出した小姓が、山の中腹で行き倒れている男を見つけたのです。急いで人を向かわせると生きているのか死んでいるのか、男は眠ったまま動かないのです」

「…それで?」

僕は慎重に僧の話に耳を傾けた。

「なんとか寺まで連れ帰り、介抱しました。薬師にも診せましたが原因はわからず、衰弱さえしていないのに一向に目覚めないのです。息はしていますので生きてはいるのでしょう。麓の村に家族を探しにも行かせましたが名乗り出る身内はおりませんでした。わたくし共もどうしていいかわからず……」

ごくりと
息を飲み込んだ音がやけに響いた。

「今もこの寺で、面倒を見ております。」

その男の容姿が


眠ったままでもわかるほどに



白く美しい顔をしているのです―――――。





続く


イイね!と思ったら押してください<(_ _)>
にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ

関連記事
雪 says..."ふにゃろば様"
ありがとうございます、お陰様でもうすっかり、よくなりました。
いやあ、新学期早々のインフルで冬休み延長、続く私も発症、次に娘も発症、最後に旦那…と
一家全滅でしたわwww
どうやらインフルのA型の中にも2種類あって両方なることもあるらしく…おそろしい…!!
2019.01.29 23:54 | URL | #- [編集]
ふにゃろば says..."お体、お大事に。"
雪様、こんばんは。息子さんのインフルがうつられたとのこと、大丈夫ですか? 息子さん共々、お体を大切にして無理をなさらないようにして下さいね。

そしてそして。今回のお話を読んで、目から鱗が落ちた思いです! そーですよね、高野山といえば修験の場。それに瑠璃の時代なら女人禁制なのに…。前話の妄想で「煌姫も一緒に」なんて簡単に書いちゃって。
原作では瑠璃は吉野に気軽(?)に行ってたし、小萩と二人で徒歩で都に帰ったりしてたので、ついつい高野山も同じノリでやっちゃいました! あぁ~、自分の無知さが恥ずかしい…(-_-;) 読まれた方々、どーか笑って見過ごして下さいませませ💦っ

それから、気になる人物が二人、登場しましたね。まず一人目の瑠璃のお参りをしに来た男は? ①ソッチー ②ソッチーの息子(=元東宮) ③まさかの吉野君っ! さて、他には…。皆様、どう思われます?
そして、二人目の眠ったままの男。これは間違いなく弓削でしょう!(しかし…、雪様のことだから違ってたりして(^_^;)) でも、「魂の交換」をした結果こうなったのだとすると、乗り移られた方の魂はどうなったのかな?
①元の体にいて、抑え込まれている(或いは意識がない) ②元の体の近くで浮遊している ③眠ったままの体に意識は移っているが、何らかの術をかけられていて自分では動けない …、どれにせよ悲惨ですねぇ(>へ<)
2019.01.16 23:50 | URL | #- [編集]

コメントする






管理者にだけ表示を許可する

該当の記事は見つかりませんでした。